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『Au オードリー・タン 天才IT相7つの顔』 〜これはただの伝記なんかじゃない〜

『Au オードリー・タン 天才IT相7つの顔』を読了。

いつまでも読んでいたい。
そう思ってしまうほど、たくさんの気づきを与えてくれて、心を穏やかにしてくれる本だった。

台湾の若き天才IT大臣、オードリー・タン。
今年、台湾のマスクマップアプリで一躍世界で有名になった彼女。
そんな彼女の生い立ちは、それだけでもとても興味深い内容だし、読む前は私もただの伝記だと思っていた。
だけど、彼女のモノの考え方や生き方は、どれも示唆に富んでいて、私の目からはぽろぽろとウロコが落ちまくりであった。

まずは、異なる意見のまとめ方。
異なる考え方の相手に対してするべきなのは、説得ではなく、まずは相手の立場をより深く知ること。その人の立場から、別の人と口論できるくらいまで全面的にその考えを理解すること。
なぜならば、私たちが他人を信じないのは、他人のものの見方が分からないから。
お互いがそれぞれの考え方を理解し深く話し合うことで、勝ち負けを決めるゼロサムゲームではなく、完敗も完勝もない「ざっくりした合意」が生まれ、各人が受け入れ可能な結果を出すことができる。

自分とは異なる意見に出会った時、「違う!こうすべきだ!」って思ってしまいがちだけど、まずは「なんでそういう風に思ったのかな?」って考えること。そう考えれば、言い合いではなく、話し合いが生まれる。

これは、お客さんとのやりとりでもそうなんだけれど、相手の話をすぐ自分の型にハメて、自分の思うように話を進めようと思うと、たいがいうまくいかない。
まずは、お客さんの話を聞いて、本当に求めているものを理解すること。そこからはじめると、お客さんの方に「わかってくれてる」という安心感が生まれるので、こちらの話も良く聞いてくれるようになるし、さらに複数の解決策を提案することで、お互いに納得した結論が得られる。

そして、すごくいいなと思ったのは、「困難」の捉え方。
インタビュアーから、あなたには困難と思えることがありますか、という質問に対しての彼女の回答。

問題に「打ち負かされる」ことと、「打ち負かされない」ことの違いは、急いで解決しなければならないという時間的プレッシャーの中でのみ生じます。
困難にぶつかった時は、その問題と付き合っていく必要があります。長期間付き合うことができれば、問題に打ち負かされることはありません。なぜなら、問題と共生する方法を探し出すことができるからです。

この回答を読んだ瞬間、私の心はとても穏やかになった。
そうか、私は今まで解決を急ぎすぎていたんだな。そう思えたことで、力がすうっと抜けたというか、気持ちがとても軽くなった。

また、ネットでの誹謗中傷問題については、「クリエイティブであれ」という。
クリエイティブであれば、いつも自分のアイデアについて考えていなければならず、他人の意見を「ダウンロード」して時間を浪費する必要はなくなると。
そうやって、一人ひとりが自主的に考えることができれば、この社会には多様性が生まれ、1つの意見によって何かが決定されることなく、継続的な検証にも耐えられる。そうなると、社会に新たな衝撃が生じた時、完全に打ちのめされることもない。

テクノロジーとネットワークによって、世界がより平和に、より幸福になった光景。それがオードリー・タンが見ている未来なのだろう。

本書のもうひとつの読みどころは、巻末の特別付録「台湾、新型コロナウイルスとの戦い」。
SARSの教訓を生かし、世界が注目する防疫最強国となった台湾が、COVID19にどう対応していったのかがまとめられている。
これには本当に関心するばかりだし、読んでいてつい胸が熱くなる箇所もあった。

オードリー・タン、そして今の台湾を知ることで、この混沌とした世の中での目指すべき生き方が見えてくる、今を生きる私たち全員にとって必読の一冊。

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