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宗教とお金の世界史【試し読み】

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この記事では、大村大次郎 著『宗教とお金の世界史』より「はじめに」と第1章の一部分を公開いたします。

はじめに


宗教の歴史を語る上で、お金のことは欠かすことはできない。
宗教とお金は、歯車の両輪のようなものである。
たとえばユダヤ・マネーという言葉がある。
これはユダヤ人の企業や投資家が動かすお金のことであり、現在も世界経済に大きな影響を与えている。そしてユダヤ人というのは「ユダヤ教を信仰する人々」を指すものである。

なぜユダヤ教を信仰する人々が、それほど大きなお金を持っているのか?
そこには、ユダヤ教の歴史が大きく関係しているのだ。
また現在の世界経済の仕組みは、主に西欧人がつくったものである。
15世紀の大航海時代以来、西欧人は世界中に商船や軍艦を差し向け、世界経済の覇権を握った。

そこにはキリスト教とイスラム教の因縁の歴史が大きく関係している。
中世から近代にかけて、キリスト教とイスラム教は鋭く対立してきた。西欧諸国は、イスラム勢力を迂回して、アジアやアフリカの産品を輸入するために太平洋、大西洋の航路を開拓したのだ。そしてキリスト教は、「世界中にキリスト教を布教する」という建前のもとで、世界のあらゆる地域を侵略し略奪した。
本書は、そういう「宗教と金」の歴史を追究したものである。

ところで、筆者は元国税調査官である。
国税調査官というのは、脱税をしていないかどうか、法人や個人を調査する仕事である。
元国税調査官から見れば、「宗教法人ほど金に汚いところはない」のである。宗教法人というのは、脱税常習業種として税務署から常に監視されている。
お金に貪欲な新興宗教だけではなく、由緒あるお寺の高僧であっても、お金に身ぎれいな人物を私は知らない。

筆者は、「どんなに偉いお坊さんでも欲に突き動かされて生きている」ことを肌身で知っている。一般の人よりは宗教に対する畏敬の念が少ないのだ。
そのため、より客観的に冷静に宗教とお金について分析できるのではないかと自負している。

第1章 なぜユダヤ人は銀行家が多いのか?


ユダヤ教と放浪の民

世界の三大宗教とされているのは、キリスト教、イスラム教、仏教である。
このうちキリスト教、イスラム教には大きな共通点がある。それは、ユダヤ教を始祖としていることである。

キリスト教もイスラム教も、ユダヤ教から派生し、両者ともユダヤ教の聖典である「聖書」を聖典としている。つまり世界の2大宗教が、実はユダヤ教という共通のルーツを持つのだ。

そしてユダヤ教は現存する宗教の中では、もっとも古い部類に入る。土俗的な宗教を除けば、世界最古の宗教だといえる。

ユダヤ人は金儲けがうまい人々として知られているが、本来、ユダヤ教というのは、「助け合いの精神」や「偶像崇拝の禁止」などを本旨とする宗教である。「偶像崇拝の禁止」とは、誰かを神格化して崇拝してはならないということである。だからユダヤ教では、その開祖であるモーゼも決して神格化はされていないし、モーゼの像をつくったり、その像を拝んだりすることはない。

そしてこのユダヤ教の本旨の部分は、キリスト教にもイスラム教にも引き継がれている。
本書でまず最初に取り上げるのは、このユダヤ教である。
ユダヤ人というのは、今から約4000年前に今のパレスティナ地方にいた人々を始祖としている。そして彼らはユダヤ教という宗教を生み出し、「聖書」を編纂へんさんした。

「アダムとイブ」「ノアの箱舟」「十戒じっかい
などキリスト教で有名な逸話の数々は、本来はユダヤ教の話なのである。
聖書の中では、ユダヤ人は人類の祖であるアダムとイブの子孫となっている。史実的には紀元前2000年頃、メソポタミアのウルという地域(現在のイラク南部)にいた人々がアブラハムに率いられて、カナンの地(現在のパレスティナ)に移住した、これがユダヤ民族の始まりだとされている。

彼らはカナンの地で遊牧などをしていたが、紀元前17世紀頃にエジプトに移住した。ところがエジプト政府に重税を課せられ、税金が払えなくなって奴隷にされたために、紀元前1260年頃、預言者モーゼに導かれてエジプトを脱出し、パレスティナに国を建設した。

しかしパレスティナ周辺には、メソポタミアのアッシリア帝国、新バビロニア王国、古代ローマ帝国などの大国が次々に現れ、ユダヤ国家は常に圧迫されることになる。
紀元70年、ついにローマ帝国の攻撃によりエルサレムが陥落して、ユダヤ人は国を持たない民族となった。それ以来1948年のイスラエル建国まで、ユダヤ人は国家を持たない「放浪の民」となったのだ。

このようにユダヤ人は4000年という長い歴史の中で放浪の生活を続けるのだが、ユダヤ教を決して手放さなかった。

「ユダヤ教の信仰」
というこの一点で、ユダヤ民族はその存在を4000年もの間、保持し続けたのだ。
ユダヤ人は長い歴史を通じて、あらゆる土地でマイノリティーであり、異教徒であったため、たびたび迫害や追放の目にあってきた。そのたびにユダヤ人は受け入れてくれる場所を求めて世界中をさまようのだ。

ちなみにイスラエルによる現代の「ユダヤ人」の定義は、ユダヤ教を信仰する人ということになっている。必ずしも古代ユダヤ民族の末まつ裔えいでなくてもいいのだ。だから現代のユダヤ人には、白人もいれば黒人もいるし、中東系、アジア系もいるのだ。

合理的でわかりやすい「モーゼの十戒」

ユダヤ人が4000年もの間、手放さなかったユダヤ教とは、そもそもどんなものなのか?

ユダヤ教では守るべきルールとして、10の項目があげられている。
これはモーゼの十戒と言われるものである。モーゼの十戒は、映画などにもなっており、さまざまなところで使われている言葉なのでご存じの方も多いはずだ。
「十戒」という言葉からは、とても厳しい戒めというイメージを持つ人も多いはずだ。
しかし、このモーゼの十戒は、実は合理的でゆるゆるなのである。
モーゼの十戒は、以下の通りである。

1 神は一つだけであること(唯一神)
2 偶像をつくったりそれを拝んではならない(偶像崇拝の禁止)
3 みだりに神の名を唱えてはならない
4 (週に一度の)休息日を守ること
5 父母を敬うこと
6 殺人をしてはならない
7 物を盗んではならない
8 姦淫(不倫など)をしてはらない
9 隣人(周りの人)にウソをついてはならない
10 隣人(周りの人)のものを盗んだり貪ってはならない

この10の戒めを順番に見てみたい。
1は、「神は一つだけ(唯一神)」ということである。土俗信仰などでは、いろいろなものを神と見立てて拝むことがあるが、それをやめろということである。つまり非合理的で土俗的な信仰はやめろということだ。

2は、いわゆる「偶像崇拝をやめろ」ということで誰かを神格化したり、誰かの像をつくってそれを神と見立てて拝むようなことはやめろ、ということである。
3の神の名をみだりに呼ぶなというのは、ざっくり言えば「神頼み」をするなということである。
4は週に一度の休息日はちゃんと休みなさいということである。

5、6、7はその文言通りのことである。
8は、ざっくり言えば不倫をするなということである。これも、実はそれほど厳しくなく、遊女(売春婦)の存在は認めている。
9と10は、隣人(周囲)の人にウソをついたり、トラブルになるようなことをしてはならない、ということである。

これを見てみると、社会生活を営む上での普通のルールであり、「安息日を守れ」など健康を配慮したものもあり、「厳しい戒律」などでは決してない。
「神頼みなどせずに、健康に気をつけて父母を敬い、殺したり盗んだりせずに周りの人とうまくやっていきなさい」ということである。

この十戒のほかに、「貧しいものに施す」ことなどが、ユダヤ教では重要なルールとされていた。もちろん「貧しいものを助ける」のは、社会を安定させる上で重要なことである。

ユダヤ教の教えはこのように非常に合理性があり、そのことがユダヤ教が4000年も続いてきた大きな要因だと考えられる。ユダヤ教にはさまざまな宗派があり、十戒のほかにも守るべき規律が事細かく決められている宗派もある。それでも、十戒がどの宗派でも基本事項となっているのだ。

そして、このユダヤ教で定められた重要ルールは、キリスト教でもイスラム教でも「基本ルール」とされているものだ。

古代からお金に強かったユダヤ人

ユダヤ人は世界でも有数の歴史を持ちながら、現代経済社会にも多大な影響を持ち続けている。
ユダヤ人というのは、その巧みな金融スキーム、ビジネススキームを用いて、世界中の国々の経済の中枢に座ってきた。世界史で登場してきたあらゆる経済大国の陰には、必ずユダヤ人がいるのである。

シェークスピア(1564~1616)の「ベニスの商人」では、ユダヤ人は狡猾こうかつな金貸しとして描かれているし、近代商業銀行の祖とも言えるロスチャイルドもユダヤ人である。
彼らは太古から金融業、金貸し業に長じていたとされている。

記録に残っている世界最古の貸金会社は、紀元前6世紀バビロニアの「ムラシュ商会」だが、ここには70人のユダヤ人が出資者として名を連ねている。また紀元前5世紀エジプトのパピルス古文書にも、ユダヤ人が金貸しを行っていたという記述がある。

またユダヤ人は古代から両替、為替という分野にも非常に長じていた。これは高度な技術が必要とされるもので、現代でも金融のカナメとなるものだ(かのジョージ・ソロス〔1930〜〕も為替を使って莫大な利益を上げたのである)。

なぜ両替や為替に長じていたかというと、これも彼らの「離散」に関係がある。
ユダヤ人は古代から律法によって、1年に半シクル(おおよそ年収の1割程度)をパレスティナの教会に納めなければならなかった。これは聖書の中に「貧しいものに施さなくてはならない」「収穫物の10分の1は神のもの」などの記述があることから生まれたルールであり、後にはキリスト教の10分の1税につながっていく制度である。

その頃ユダヤ人はすでに離散していたため、各地の多種多様な貨幣が持ち込まれることになった。これらの多様な貨幣を機能させるには、両替が必要になる。
そのため両替商が発達したのである。

両替というのは大きな利益を生む事業でもある。為替相場などがない当時では、貨幣の両替はいわば、業者の言いなりである。
また両替商は、両替のみならず金貸しもしていた。当時のユダヤ教では、国内で利子をつけて金を貸すことは禁止されていた。しかし諸外国の人々に対して金を貸すことは黙認されていたのだ。各国の人々が集ってくる両替商は、金貸しには打ってつけだったのだ。
そのためユダヤ人両替商の中には、莫大な富を持つものも出てきた。

「迫害されるユダヤ人」に続く
この続きはぜひ、本編でお楽しみください。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
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大村大次郎(おおむら・おおじろう)
大阪府出身。元国税調査官。国税局で10年間、主に法人税担当調査官として勤務し、退職後、経営コンサルタント、フリーライターとなる。執筆、ラジオ出演、フジテレビ「マルサ!!」の監修など幅広く活躍中。

主な著書に『金持ちに学ぶ税金の逃れ方』『18歳からのお金の教科書』『改訂版税金を払う奴はバカ!』『完全図解版あなたの収入が3割増える給与のカラクリ』『億万長者は税金を払わない』『完全図解版相続税を払う奴はバカ!』『税務署対策最強の教科書』『消費税を払う奴はバカ!』『完全図解版税務署員だけのヒミツの節税術』『完全図解版あらゆる領収書は経費で落とせる』(以上、ビジネス社)、『「金持ち社長」に学ぶ禁断の蓄財術』『あらゆる領収書は経費で落とせる』 (以上、中公新書ラクレ)、『会社の税金元国税調査官のウラ技』(技術評論社)、『おひとりさまの老後対策』(小学館新書)、『税務署・税理士は教えてくれない「相続税」超基本』(KADOKAWA)など多数。

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