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バタ子のスナック 生い立ちの記 ①

 ポッドキャストでは話した気がするのだけれど、そして、不謹慎と言われるかもしれないのだけれど、実はコロナ禍によってこれまでの生活や価値観がリセットされてちょっとホッとした部分もあると思っている。

 コロナ禍によって、生活や価値観をガラッと見直さざるを得なくなったおかげで、ようやく、独り身であることと落ち着いて向き合うことができるようになった。

 2年前に離婚をしてから、私の心の中には、社会的な正しいルートを外れてしまったもうダメな人間みたいな感覚があった。

 大好きで尊敬していた相手と結婚できてとても幸せだったのだけれど、日々の暮らしの中でアレ?と思う出来事が少しずつ増えていき、その瞬間はやってきた。

 嘘が嘘だと発覚した時に、「バレなければ嘘ではない」「ついていい嘘もある」と、パートナーであるはずの私がすごくショックを受けている中でも、自分の嘘を正当化し続ける(元)夫の姿に、なんとも虚無感を感じ、絶望した夜のことは、今でも家具の配置やあの嫌な空気感、一ミリも違わずに思い出すことができる。2年経った今は、「価値観の相違」ととてもドライな整理をすることができるけれど、当時はできなかったし、今でも心の奥底では、相違した価値観を理解することはできない。結婚生活の中には、楽しくて嬉しいことがたくさんあった分、余計に、ポジティブな思い出すらも、すべて嘘の上に成り立っていたのかなと思うと、離婚したばかりの頃は毎日死にたくなった。

 今では笑い話にしているけれど、毎朝目が覚めると「ああ、何でまだ生きてるんだろう。また今日も生きなきゃならないのか。」とブルーな気持ちになった。毎日ちゃんとご飯を食べていたのに、知らないうちに10kgも痩せた。(今では元に戻ったけれど)

 あの頃、とにかく離婚の辛さを忘れるために仕事を詰め込んだ。忙しくしていれば、辛かったことを悶々と考えることもないし、疲れ果てて眠ることもできる。自分の生活時間よりも仕事に奉仕する時間を多くすれば、そりゃ多少なりとも仕事の成果もある程度は出るし、その分仕事仲間からは頼りにされるから自己肯定感も満たされる。苦手な相手ややる意味が見出せない作業もたくさんあったけれど、離婚した時の虚無感絶望感に比べたら、ちっぽけなことに思えた。だから、離婚した私の、幸せ再発見活動はうまくいったかのような気持ちになった。

 だけど、やっぱり、そんなの長くは続かない。だって、満身創痍のまま、別の戦場に出かけたようなもの。傷が癒えてなきゃ、戦い続けられるはずもない。

 詰め込みまくった仕事を終えるて会社を後にし、地元の駅に着くのは23時くらい。何も食べずにその時間になっていることも多かった。家に食べ物がない日は、ギリギリその時間でも開いているラーメン屋さんに駆け込んで夕飯を済ませ、23時半くらいに帰宅。疲れ果ててお風呂にも入れずに眠る日も多かった。朝起きて今日も生きていることと風呂に入れなかったことに絶望しながら、シャワーを浴びて、また仕事に出かける。働いている間は、プライベートのことは何も考えなくていい。だけど、ふと耳目に入ってくる、周りの人たちの家族の話。子どもの話。意識に及ぶたびに辛くなった。ラーメンを食べ終わった帰り道、夜空を見上げて、もう家族のいない生活がこの先一生続くのかな、と涙がポロポロ出てきた。仕事しても、そこで得られる実感は所詮サラリーマンの仕事。自分の替えはいくらでもある中で、こんなに毎日擦り減らして、辛いことに向き合わない代わり、楽しいことにも向き合えないロボットのような日々が死ぬまで続くなら、本当に死んだほうがましだなと思った。だけど、私は死ぬ勇気がなくて、死ねなかった。

 そんな中、コロナがやってきた。通勤がなくなった。苦手な人に愛想笑いをしたり、詰め込みまくって捌き切れなかった仕事は、そもそもする必要があったのだろうかと誰もが見直すようになった。ゆっくり噛んでご飯を食べるような感覚で、仕事は丁寧にできるようになった。その分、自分と向き合ったり、過去を思い出して泣いたりする時間は増えた。だけど、不思議と、あまり死にたくなくなったのである。

 できた時間で、好きなことは何だっけ?と考えた。

 植物を育てること。花を生けること。着物を着ること。着物に合わせる半襟を探すこと。ご飯をつくること。旅すること。何かを書き記すこと。甘いもの。カフェ。カクテル。結構たくさん好きなことがあるのに、意識がある時間のほとんどを、好きじゃないことに使って、ネガティブな気持ちで過ごしていることに気が付いた。それで、好きなことを数えてみようと思って、好きなことをしゃべることで、まずは意識をポジティブなことに集中させてみようと考えたのが、ポッドキャストだった。


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