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偶然を描いたドラマの中で、いちばん好きかもしれない。

『いちばんすきな花』。

こんなにやわらかいタイトルなのに
なんて厄介なドラマなんだろう。

noteでドラマ感想文を書くのはたいてい
一本につき一度きりなのに。

これで三度目だ。

登場人物の誰にもじぶんは似ていないくせに
なにか、とても懐かしい感情にであっている
気持になる。

懐かしいって都合のいい言葉だけど。
感情が懐かしいいのだ。

このドラマのタイトルのひらがな寄りな
ところもすき。

「いちばんすきな」までがひらがなでとても
流動的っていうか、ゆれている。

いちばんすきなは、固定の気持ちじゃなくて。
いつもその対象を前にした時のいちばんだから
ゆれているのだ。

ドラマのあらすじはざっくりというと
こんな感じだ。

年齢も性別も過ごしてきた環境も違う四人の男女が
はからずも出会ってしまう。

二人組を求める人生で出会った、4人のひとりたち」。

これがこのドラマのキャッチフレーズ。

学校の中でもふたりぐみになれなかったり、
なりたいのになれなかったり
そこからはみでてしまったひとりとひとりの物語。

🥀春木椿(松下洸平)
ふたりになりたいと思うのに、二人組にさせて
もらえなくて。みんなのお人よしのようなキャラを
生きてきた。

🥀潮ゆくえ(多部未華子)
むかしから、二人組を創るのが苦手で教室に
ぽつんとひとりでいるようなそんな子。

🥀深雪夜々(今田美桜)
一対一で人と向き合うのがこわくて。
小さい時も一人将棋しながら時間を持て余して
ふたりになれなかった子。

🥀佐藤紅葉(神尾楓珠)
やさしくて人気者にみえたけど。ほんとうは一対一で
向き合ってくれる人がいなかった。

『いちばんすきな花』登場人物たち。

そんな彼らが、一度っきりだと思っていた
出会いを、再会に変えてゆく。

回を重ねるうちにその輪郭があきらかになる
もうひとりの登場人物がいる。

4人が慕い、感謝して待って心の底から
もういちど会いたいと秘めている
ひとりのひと。

「美鳥」さん。

結果的に待ち焦がれていた
ひとりの「美鳥」さんはみんなの「美鳥」さんだと
わかるのだけれど。

その七話目で、とにかく点と点として
であったはずなのに、点と点をむすんだ
場所にはおなじ彼女がいた。

同じ人間を出会ったひとたちがみんな知っている
というちょっと驚愕の状況がドラマの中で
起きていた。

これは事件に近い。
わたしなら平然としてられない。なにかの仕業なのか
神なのか悪魔なのかみたいに考えてしまって。

友達に偶然みんな同じ人たちを知っていたかもしれない
ってそれを知らない誰かには言えない。

でもドラマの中で起きていることはみんな事実なのだ。
みんなドラマの中を生きているから。

ドラマはいつもみんなが疑っているはずの実人生の
写し鏡でなければいけないわけでもないと
思わせてくれる。

すさまじいほどの「偶然」がひしめきながら
ストーリーが8回目へとつながれていった。

このドラマの中で美鳥さんが「感情迷子」という
言葉をつかう。

4人一度に会ったら感情迷子になりそうだと。

香港のドラマのタイトルみたいでそれが
日常の会話の中にでてくるところが
面白かったし。

そのひと美鳥さんは、たえず感情迷子になってきた
からこそ、懐かしいひと、ゆくえさんにその言葉を
放ったんだなって思う。

わたしも見ていると時々「感情迷子」になりながら。
見ている気がする。

どれもわかるわかるって感じじゃないし。
ましてわたしは登場人物の誰かなんて
あてはめられない。

うつくしい鳥が、波の上で(潮ゆくえ)
お花屋さんに並ばない椿と(春木椿)
秋の季節に紅葉(佐藤紅葉)に
夜を抱えた感情みたいな夜(深雪夜々)に
出会う。

そんな夢想をしていた。

とりわけ椿さんが知っている美鳥さんが
せつなかった。

第7話では人を殴っていたと聞かされていた
美鳥さんの真相がわかるのだけど。

椿さんの家の前の持ち主はそんな偶然あるのかって
ツッコまれそうだけど美鳥さんだった。

そのふたりにとって大切な意味をもつ椿さんの家で
何十年ぶりに再会したふたりは珈琲を前に
昔話をする。

ケガもうしてない?
声震わせてたずねる椿さん。
もう喧嘩してない
と美鳥さん

『いちばんすきな花』第八話


喧嘩は虐待の後ろ側に隠れていた言葉だった。
それは彼女の気遣いだったのかもしれない。

そっか、よかった。
もういちど声震わせる椿さん。
ふたりは泣きながら笑う。

『いちばんすきな花』第八話

志木美鳥さんはきらきらしてこわくて中学のみんなから
嫌われていた。

そんな彼女に将棋をおしえてあげるのは椿さん。

将棋できる?と椿さん。
将棋しよう。
将棋知らない
できない、と美鳥さん。

『いちばんすきな花』第八話


将棋の駒の並べ方がわからない
彼女に椿さんは言う。

「将棋、こっちむき
相手と向き合うように置く」

何気ないのに、わたしはこの台詞に
心持って行かれた。

それはルールの話だけど。

向き合いたいという彼らの
ひとりの人間の声のようにも
聴こえた。

このドラマの第一回目の冒頭ではまだ幼稚園生
ぐらいの夜々ちゃんがこっそり母親に禁じられて
いる将棋をするシーンがでてくるけれど。

それは美鳥、みどちゃんが小さい夜々ちゃんに
教えたものだった。

誰もいない一人将棋する夜々ちゃんの向かいの
席には、みえない美鳥さんが彼女の中に
いたことが8話目で伏線回収された。

赤い屋根の椿さんが住む家が登場人物4人が
集まる場所になっているけれど。

このドラマはある意味家が主役だと思った。

みんなほんとうに帰りたい、帰ってきたと
思わせてくれる家がほしかったのだ。

そして家はひとが誰かが集うから家として
成立することにも気づかされる。

椿さんの幼い時のモノローグは彼が
心の何処かでずっと彼女の平穏を待ち望んで
いた優しさに触れた。

会えなくてもいいからもうケガをしてないことを願った。
いつか帰りたい家を持てるようにと願うしかなかった。

家が主役でそこに集う人々も大切な人々で。

この後、紅葉くんと美鳥先生の電話のシーンを
描きたかったけど。

嫌いな自分を否定してもらうことで自分の気持ちを
肯定してもらえた、そんな非常勤講師の美鳥さんに
惹かれていた紅葉くん。

これ以上書くともっともっと感情迷子になって
しまいそうなので。

このへんでおしまいにします。

やっぱり『いちばんすきな花』は書いているのに
迷路に入ったみたいに気持ちが彷徨う。

視聴者はドラマの外に放り出されると
生きることを不器用であっても続けて
いかなければいけないことに気づかされる。

そしてこう思う。

今日もわたしが居なければいけない場所に
居たいと。





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