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 もしもし。
 ああ、ええと、妙子さん? 妙子さんはいますか?
 ……お宅、だれ?
 あ、根虎怜雄と申します。
 根虎、ねとられお……ああ! 妙子の、彼氏の?
 ええ! ええ、そうです。
 ふーん……ああ、妙子なら、いまおれの隣で寝てるぜ?
 ああ、なるほど、了解です。
 えっ。
 えっ?
 あ、いや……あっ、そうだ、彼氏くんさぁ、おれの送ったDVD、見てもらえたかな?
 ええ。拝見しまして。ちょっとその件でお電話を。
 え? あ、はあ。
 ええと、何というのかな。この映像はその、私の彼女、つまり妙子さんと、ええと貴方、お名前は……。
 あ、槍間珍蔵です。
 ああ、槍間さん。妙子さんと、槍間さんと、あと一人、つまり3Pでなされている?
 えっ。
 えっ?
 えっと、3Pというのは、その。
 だからね、槍間さんと、妙子さんと、あとひとり、ずっと画面左奥の、ベットと壁の間の隙間に、ほら。
 ……あっ、ほんとだ。えっ?
 ね? 誰か見てるんだ。
 槍間はそこではたと固まり石のように黙る。

 パソコンの画面中央では、自分と、妙子──つまり今通話している根虎怜雄の彼女──がベットの上でくんずほぐれつ乳繰り合っており、その左手奥、ベットと壁の隙間から厭にのっぺりとした白い顔が、上半分だけ。二人のまぐわいをじっと観察しているように見える。槍間は急に喉の渇きを覚える。
 白い顔がいるあたり。つまりちょうど、いま槍間が座っている背後になる。背筋にぞっとしたものが走る。槍間は電話を耳に当てたまま、ベットで眠る妙子の肩を掴み、揺らす。
 妙子、たえこっ。おいっ、起きろっ、なぁっ。
 ぎぎっ。と、背後でベットの軋む音。ちょうど、ビデオレターの映像、画面左奥のあたりから。それが少しずつ槍間の背中に近づいてくる。
 ……げろ、にげろ、逃げるんだ珍蔵くんっ。今すぐに! 早くっ!
 電話口の矢のような声で槍間は飛び起き、後ろも振り向かず部屋を出た。

 全裸の槍間はそのまま、暫く根虎の元に身を寄せることになった。その後、根虎の紹介により至極真っ当な会社に就職。槍間にとって、まともに働いて金を稼ぐのも、誰かから信頼されるのも、これが人生で初めてのことであった。4年後、会社の同僚と結婚することになり、都内にアパートを借りて根虎のもとを後にした。結婚式で、根虎は槍間との出会いについて、「いやはや事実は小説よりも奇なりと申しますが……」の一言で済ませた。
 結婚して2年が経った。ある日妻は忽然と姿を消した。二カ月ほどたったある日、槍間のもとに一枚のDVDが届いた。

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