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社会の手触り

武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースクリエイティブリーダーシップ特論 株式会社インフォバーン 取締役 京都支社長 INFOBAHN DESIGN LAB.(IDL)主管 デザイン・ストラデジスト 井登友一さん

2020年6月29日(月)、株式会社インフォバーン京都市社長 井登友一さんのお話を伺った。井登さんのバックグラウンドは社会学である。社会学の中でもシカゴ学派にルーツを持つ質的調査を学ばれていた。もともと新聞記者を目指し、同志社文学部社会学部の新聞学専攻でメディア論と社会学を勉強されたという(1995年卒)。

社会学の調査とデザインリサーチ

井登さんのお話は、主にイノベーションについてだったと思うが、僕は社会学と質的調査への関心が強いので、その視点で考えたことを述べたい。僕は出自が広告会社のマーケターなので、デザインリサーチに社会学の手法であるエスノグラフィーや参与観察といった手法を活用する、という試みがなされていることは認識している。
社会学の質的調査とデザインリサーチ、両者に共通する要素は何か、と聞かれればそれは”手触り”だと答える。確かに存在する、実感できる。抽象や概念ではなく、確かにある、と実感できるもの。その手触りに基づいた発見じゃないと、そこに生活者の真実はないのではないか。
手触りのない発見は社会学的には研究として真実味と誠実さにかけたものになるし、デザインリサーチであれば手触りのない発見を元に設計された商品やサービスでは生活者は動かないし、イノベーションにつながらないだろう。
そして、手触りのある発見をもとに分析を行い、物事に対する新しい視点を見出せた時、そこにイノベーションを起こすチャンスがあるのだと思う。
※この場合のイノベーションは、必ずしも新技術を駆使した新しい商品・サービスを生み出し提供する、ということではない。物事の新しい見方/捉え方/価値を社会に提案する「意味のイノベーション」とロベルト・ベルガンティ(ミラノ工科大学教授)が言うものである。

ビジネス現場における社会学由来の質的調査

ただ現実にはビジネス現場で行われる社会学由来の名前がついた質的調査は、まだマーケティングリサーチの域を出ないことが多いように感じられる。去年のクリエイティブリーダーシップ特論でお越しいただいた株式会社リ・パブリック共同代表の田村大さんのお話でもそのテーマは出てきた(→こちら)。
ビジネス目的で実施される調査は、多かれ少なかれ仮説検証を目的としており、先入観ーつまり仮説ーを持たずに観察する、というスタンスで行われないからだ。調査にも「成果」が求められるため、個人的にも「仕方がない」と思う部分もある。ただ、それは社会学の質的調査の手法ではないし、イノベーションにつながる「手触りのあるFindings」は得難いのではないか、と思う。
「検証しよう」というスタンスで観察やインタビューを行うと、自分たちの思考の枠組みに縛られ、理解したい対象者たちの独自の視点やルールに気がつくことができない、という感じがする。なぜなら自分たちの思考の枠組みで整理しないと、仮説の検証結果を出せないからである。
ではどういうスタンスでリサーチすれば良いのか。言葉にすると「徹底した他者理解」である。「とりあえず彼らのフィールドに飛び込んで、彼らを理解しよう」というくらいのスタンスで、始めないといけないと思う。結果的に商品・サービスにつながるFIndingsが出てくるまでにどれくらいの期間がかかるか分からない。あるいはもしかしたら、決められた期限内にイノベーションにつながるFindingsは見つからず、成果としては空振りに終わるかも知れないリスクももちろんある。

以上が僕のビジネス現場における社会学的アプローチに対する所感なのだが、デザインリサーチの最前線にいらっしゃる井登さんに「社会学とデザインの関係」についてお考えを知りたかった。残念ながら時間がなく叶わなかったが、機会があれば
・社会学の質的調査手法は、そのままの形で、ビジネスで活用できるのか
・数理を用いた量的調査と質的調査、どちらがより重宝するか
・社会学の知識そのものは、デザインコンサルでどう活用できているのか
といったようなこともじっくり伺ってみたい。

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