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過去への回帰ではない 未来型自然化社会

武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースクリエイティブリーダーシップ特論 ユニバーサルデザイン総合研究所代表の赤池学先生

2020年8月17日(月)、ユニバーサルデザイン総合研究所代表の所長であり、科学ジャーナリストでもある赤池学先生のお話を伺った(著書「生物に学ぶイノベーション」など)。赤池先生はもともと生物学(昆虫発生学)、工学設計、美学を学んだ後、ジャーナリストとして働きながらユニバーサルデザインを学び、1996年にユニバーサルデザイン総合研究所を立ち上げる。

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▶︎ユニバーサルデザイン(UD)と新たな"Ware"

ユニバーサルデザイン(UD)はあらゆるものが対象になる。老人も若者も子供も、男性も女性も LGBTも、健常者も障害のある人も、人間だけでなく動物や植物あるいは地球全体の生態系のことまでも考えた、Design for ALL(赤池先生が師事したユニバーサルデザインの生みの親 ロナルド・メイス博士の言葉)を体現するデザインである。

※赤池先生は、日本においてDesign for ALLのデザインを実践するための要件を、10のキーワードに整理した。
「セーフティ(安全性)」
「アクセシビリティ(接しやす さ)」
「ユーザビリティ(使い勝手)」
「ホスピタリティ(慰安性)」
「アフォーダビリティ(価格妥当性)」
「サステナビリティ(持続可能性)」
「エキスパンダビリティ(拡張性)」
「パーティシペーション(参画性)」
「エステティック(審美性)」
「ジャパンバリ ュー(日本的価値)」

これからのユニバーサルデザインに必要な「21世紀品質」のキーワードにHARD WARE(技術基盤がもたらす品質)、SOFT WARE(アプリケーションがもたらす品質)という区分を超えた、SENSE WARE (感性品質)とSOCIAL WARE(社会品質)という概念がある。
SENSE WAREは五感と愛着に基づく品質であり、SOFTで使い勝手が生み出されたものに五感と愛着を付加する。さらに、愛着を生み出すことでSOCIAL=公益としての品質へと繋がり、それによって新しい価値やビジネスモデルを生み出すという。

つまりユニバーサルデザインとは、一企業の利益や一個人の満足を超えて、最終的に社会を良くしていくための価値を持っていることが前提にあるデザイン、つまり「共生」のデザインである。

▶︎自然に根ざしたデザイン

バックグラウンドが生物学ということが大きいと思うが(2015 年度第 5 回物学研究会レポート「生物に学ぶイノベーション」参照)、個人的には赤池さんのデザインの中でもバイオミメティクス(生物模倣)の手法を用いて作られたデザインに特に惹かれた。画像資料はないので詳細はこちらの『昆虫力』という赤池先生の書籍を参照されたいのだが、「ワイルドシルク(抗アレルギー性、静菌性、UV遮断性の機能を持つカイコのシルクを活用した商品群)」「ヤママユガの卵を使ったガン細胞の増殖を抑える制ガン剤」「シロオビアワフキムシの泡を使った超節水のフォームバス」など、昆虫の生態構造に精通している先生ならではのワクワクするアイディアがふんだんに発揮されているデザインがある。そのどれもが機能的にとても優れているので驚きだ。

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単に機能面だけでなく、「自然」を取り入れたデザインは今の人がライフスタイルに求めているものでもある。先生が紹介してくださった「ライフスタイルに求めている要素」の調査では、以下のような結果が得られたらしい。

1. 利便性   22.1%
2.楽しみ   20.7%
3.自然    19.9%
4.自己成長  13.8%
5.社会と一体 11.3%

「自然」や「社会と一体」という言葉が出ていることから、今の時代の人々が求める快適な暮らしというのは、個人の自己完結できる範囲ではなく、自然や社会との接点というところと切り離せないという意識が見られるのだろう。
これから先、個人と社会、人と技術、自然の最適なバランスを求める「最適化社会」から、個別の価値基準、計画、行動によって独自の豊かさを求める「自律化社会」を経た先に、自然のメカニズムを社会に取り入れ自然に回帰していく「自然化社会(Nature Centered technology)」へとシフトして行く、というのが先生の見通しである。
こちらは感覚的には良く分かる。それは「安心」できるからである。少なくとも個人データを独占する一部のプラットフォーマーに管理してもらうだけの社会よりかは。

▶︎総合力か専門性か、それとも両方か

ユニバーサルデザインを実践していくためには、当然ながら広い視野と視点が必要であり、一つの領域に閉じないことがデザイナーに求められる。

赤池先生は、最初の大学院で昆虫発生学を研究された後、別の大学院で工学設計や美学を学んでいる。その後、読売新聞社の広告局で働き、20代の後半に独立して商品や事業企画を行うデザインコンサル会社立ち上げた。そしてその後、あるきっかけでユニバーサルデザインに興味を持ち、フリージャーナリストをやりながら本格的に学んでいった。この経歴を見て分かる通り、先生が携わった領域は非常に多岐に渡っている。

レクチャーとは直接は関係ないかも知れないが、社会をデザインしていく時、あるいはその社会に生きる自分のキャリアを考える時、必要なのは「総合力か専門性か」ということを考えた。
何回か前のこの授業で、株式会社雪花の上町達也さんは、

「色々やってみたいという気持ちはとても分かるが、得意な部分以外をそぎ落としていくことで、周りから信頼を得られて仕事がついてくる。僕もデザインしかやってこなかったのに、ビジネスで収益を上げることに挑戦したら、赤字続きで夜も眠れないくらい忙しくなった」

ということをおっしゃっていた。(詳細はこちら
確かにそうだと思う一方で、多くの領域に足を突っ込んでおくことも、自分の手で未来をデザインするために必要なのではないか、とも思えるのだ。

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