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ウルトラ思春期文化祭

高校二年生の秋。この年の文化祭を、忘れることはできない。

僕が所属していた学級ではストラックアウトやら何やらを出し物として行った。その「何やら」については、忘れた。羞恥と共に吹き飛んだのである。

ストラックアウトとはご存じ、バッティングセンターの一番端にある的当てゲームである。弓道部に所属し、大の野球ファンの僕からすれば、ストラックアウトは輝ける場所だった。

迎えた文化祭当日。学年を問わず僕たちの教室へお客さんを呼びかけるも、来ない。クラスメイトの部活の後輩しか、来ない。せっかく作ったストラックアウトの施設は廃墟と化した。

もういてもたってもいられない。自分の店の客席でお酒を呑む居酒屋オーナーの如く、僕はストラックアウトを自分が楽しむことにしたのである。

本当は中学時代に背番号1を背負ってピッチャーをやっていたことをここで誇示したかっただけなんだけど。まあもっと言うなら、速い球を投げられますよアピールを女子たちにしたかっただけである。(馬鹿なので本気で女の子が振り向いてくれると思った。)

もちろん、女の子がそれで振り向くはずもなく、振り向いても「イキってるんじゃねえよ」と嫌な顔をされた。終いには僕の投じた豪速球で、「せっかく作った的を壊すんじゃねえよ」と小声で言われる始末。それでも僕は担任の先生にスピードを抑えろと注意されるまで、永遠と自分のピッチングスタイルを誇示し続けた。その後もちょくちょくお客さんは来るけれど、総じて暇な時間が続いた。

午後になって、見慣れた顔の三人のお客さんがやってきた。何故ここにいるのか。いつも家でしか会わない父・母・弟が登場したのだった。学校という場所に家族がいるのははっきり言って違和感しかない。吉野家で高級スーツを召して接客する店員くらい「場違い」の違和感を覚える。

弟は当時小学校高学年で少年野球をやっているバリバリ現役の選手で、試しにストラックアウトをやらせてみると、当たる当たる当たる。そして何より本当はもっと速い球を投げることができるのに、腫物を撫でるかのように的を優しく当てていく。そんな彼の姿を見て友人たちはこぞって呟く。

「大人だね〜」

彼らは僕と相対的に見て言っていると察した。これ以上ない皮肉。(スーパー)アイロニーである。

弟の投球が終わった後、今度は父が投げることになった。いや、大の大人なんだから参加すんなし、と思ったが、父も根っからの野球好きの血が疼いたのであろう。ボールを手に取る。謎にワインドアップ。父を後ろから見守った。その背中はいつだって大きい。

「ズドーン」

投じた球が的へ大きな振動を立てる。大谷翔平の如く指に掛かったノビのあるストレートで的を倒していく。

「早っ」

僕も友人も、女子も、先生も誰もが父を見てつぶやいただろう。しかし、そこに歓声はない。父が投げ込んだ後、今度は皆、苦笑いの表情で僕に目を向けた。その途端、恥ずかしさが胸の内からジーンと溢れ出て、額に変な汗を突発的にかいた。

「斉藤くん、お父さんに似てるね」

彼らの一言には耳を向けず、「壊さないで」と父へ必死に忠告をする僕。
「あゝー」と空返事で豪速球を投げ込む父。
父の背中はいつだって大きく見えて来たが、この日だけは数時間前の自分を見ているようで恥ずかしい。

親と子は同じ屋根の下に住んでいれば、そりゃあ性格は似るものである。よくも、「悪くも」。

「押すなよ!理論」に則って、ここでは「サポートするな!」と記述します。履き違えないでくださいね!!!!