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果たしてパーマはモテるのか

あのですね、別にモテたくてパーマをかけた訳ではないのです。ただ、こうも最初に弁解をしておかなければモテたくてパーマをかけた奴というレッテルを貼られ、今後僕が投稿するエッセイが読まれなくなってしまう可能性がある。

タイトルだけ見れば、煩悩の数が108個以上あるのではないかと思わんばかりの下心溢れる人間に映っているだろうが、僕は決してそんな人間ではない。

「夏輝さんは下心しかない」と揶揄されることは少なくないので、もしかしたら僕はそんな人間なのかもしれないが、僕自身はそうではないと自分を信じている。何より、読み進めていけば分かってくださると思うが今回のエッセイには僕の下心がいっさい記述されていないし、そもそも下心なんてもの僕の辞書にはない。まあ読めば分かります読めば。

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昔から癖毛が嫌だった。梅雨の時期になると髪の毛はさらにうねって言うことを聞かなくなるから、この時期が嫌いだった。せっかく朝にストレートアイロンで伸ばした直毛がうねうねと波打つ。雨が振り続ける空の下、教室の窓辺にて「直毛なのが悩み」と僕の前でわざわざ口を開く友人の頬を引っ叩きたくなったことだってある。もちろん、僕は暴力的な人間ではないためそれを行動に移していない。

高校3年生のとき、卒業アルバムに載る写真を撮る日に合わせ生まれて初めて美容院へ一人で赴いたことがある。もちろんストレートアイロンで癖を伸ばしてから訪れた。

「どんな髪型にしますか?」
初めて会った、中年くらいの女性美容師に言われて「おすすめで」と即答した。どのような髪型が正解なのか分からないからプロに一任したのである。

「わかりました!」
彼女はとても明るい笑顔でハサミを動かしていたのを今でも覚えている。

ある程度切り終えシャンプーで髪を流した後の彼女の表情はもっと鮮明に覚えている。
あれ、思っていたのと全然違うぞ!と、彼女は心中胸の内で呟いていたはずだ。髪を濡らした瞬間に癖が出て思っていたよりも短く見えてしまったのであろう。さっきまでの明るい笑顔は消えて、若干表情が引きつっていた。

僕の髪は水に弱いのである。アンパンマンと一緒。ポケモンでいえば「ほのおタイプ」だ。この頃から熱心なカープファンだったから納得である。

その女性美容師へ「癖毛である」と伝えなかった僕が悪いと思ったし、それを隠して切ってもらったことが何より羞恥であった。

そんな癖毛とこれまでの人生で向き合ったことはなかった。ストレートアイロンで伸ばせばいいし、忙しい教育実習中は縮毛矯正をかけていた。

この癖毛にパーマをかけたらどうなるの?

疑問が生まれたのは去年の10月頃である。無論、僕は以前から小栗旬のパーマに色っぽさや「いき」を感じていたから、その髪型に対して憧れがあった。人生で一度はパーマを当ててみたかったのである。そして同時に好奇心もあった。既に縮れた髪をさらに縮れさせるとどうなるのか。

しかしこれは同時に博打とも捉えられる。曲がった人間に曲がったことを教えるのと同じだ。いや、読売巨人の大砲の選手がバッターボックスに入って、東京ドームの追い風が吹くというアシスト的な結果となるかもしれない。やってみなければ分からないので、とりあえず行きつけの美容院でパーマの予約をした。

迎えたその日、既に覚悟は決まっていたから別に緊張することはなかった。

「どんなパーマにしようか?」

「おまかせで」と言いたいところであるが、僕の理想とするのは小栗旬の色っぽいパーマである。「色っぽい」とはどの程度のニュアンスが含まれているのか分からないし、こういう時分においてはハリウッド・ザコシショウ並みの誇張をした方が個人の想いが通じるものである。

「エロいかんじでお願いします!」
「エロ」と「色っぽさ」は全くの別物である。「エロ」とは下心が全面的に出ている状況を指すが、「色っぽさ」とは雰囲気に媚態が現れている様。しかし、一般的に考えて「エロ」も「色っぽさ」もほぼ同義語であるし、「エロ」と言った方が誇張表現になるのである。

「分かりました!エロいスパイラルパーマに仕上げます!」

エロパーマに変身するまで2時間くらい時間を要した。クルクルと髪を捻られ、たこ焼き器に油を撒くときみたいに頭に薬剤を撒かれ、気づけば僕の髪がすこぶるうねっていた。

自宅へ帰って鏡を見たときは、まるで別人で衝撃的だった。小栗旬が鏡の前に立っている……と言いたいところだが、どちらかといえば鏡の前にいる僕は葉加瀬太郎に近い。今すぐヴァイオリンを弾きたい気分だ(弾けない)。とりあえず「Etupirka」を流して、浅めの溜息を吐いた。でもまあ個人的に自分のパーマはそこそこ気に入りました。

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このパーマについて、覚悟はしていたが賛否両論が出てきた。

端的に申し上げると、男子ウケはいい。

「おーええやん」
「色気の塊や」
「雰囲気が出て似合ってる」

もちろん、中には「もうちょっと格好良くできた」と美容師的発言をする友人(彼は公務員になった)もいたが、総じて僕の周りの男どもはポジティブな言葉をかけてくれた。

問題は女子ウケである。別に僕は女性から好かれるために生きている人間ではないから、どうでもいいのですがね、どうでも。

「え、先生どうしちゃったの?」
「前の方がよかった」
「何で変えちゃったの」


塾講師のバイト先の女子生徒たちは口を揃えて言う。中学3年生にはパーマの良さが分からないみたいだ。

挙句、バイト先の女性上司からも

「え、どうしたの?」

と言われる始末。しかも、タイへ旅行へ行った後にその上司と会ったため、「タイであてたタイ風パーマなの?」と真面目な顔で聞かれた。

「日本風ですよ」
しっかり訂正をして、渋々お土産を手渡した。畜生、この人にあげるドライマンゴー自分で消費すればよかった!と本気で思った次第である。

これは僕の理想とするパーマではないし、一言で言えば葉加瀬太郎だし、もちろん葉加瀬太郎は大好きなのだが、22歳で髪型が葉加瀬太郎なのだから、女子ウケの悪さは想像に難く無かった。

それでも髪が伸び始めるとパーマはどんどん緩くなっていき、葉加瀬太郎からの脱却をはかることができた。

女子ウケが悪かったことは大きなデメリットなのだが、それ以上に大きなメリットもある。それはパーマが殆ど落ちた今、癖毛の自分を受け入れられるようになったことだ。むしろ無理やり直毛にしていた自分に嫌気が指す。

雨の日は余計に癖が出て嬉しい。パーマなんてかけなくても、もともといいパーマもってるじゃん、僕。そう気づけたのもパーマをかけたからだ。

ただ相変わらず女子ウケという面では……

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いつもイヤホンをしながら電車に乗っているのだが、月に一度くらいの頻度でイヤホンを自宅へ忘れてしまうことがある。

その日も月に一度の日で、周囲の音がたくさん耳に入ってきた。女子高生二人が僕の座席の前に立っていて、髪型の話をしていた。

「〇〇くん、最近パーマになったよね」
「そう!めっちゃ格好よくない?」

え、世にパーマを肯定してくれる女の子もいるのか。僕は右手で自分のくるくるとした髪に触れた。

「パーマ、いいよね〜」
「〇〇くん、めっちゃイケメンだし」

お?〇〇の奴、イケメンなのか。というか、結局お前ら見てるところ顔なのか?

「しかもさ、〇〇くんって性格もいいじゃん?」
「え、分かるーー。だからパーマ格好良いんだよね

は?性格の良さと髪型の良さに相関関係ないだろ。イケメンだから性格もよく見えてるに違いない。これぞ「ハロー効果」。すこぶる憤りを感じずにはいられなかった。

ということでこのエッセイ(「パーマは果たしてモテるのか」)の結論。髪型も性格も結局は顔。kao……顔なんだよなぁ。

確かに、僕の理想としていた小栗旬様はイケメンでした。小栗旬のパーマに憧れていたのではなく、小栗旬本人に憧れていたのだ。そりゃあ僕だってF4に入って道明寺と対峙する学生生活を歩みたかったし、リッチマンになって石原さとみと恋をしてみたいし、執権になって鎌倉幕府を影で操りたいものです。とりあえずほんだし活用術を使いこなしたい。





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