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僕のアイドルが帰ってくる

順風満帆の高校生活の時間の中で、部分的に悲壮感の漂う時間を過ごしたことがある。これは高校生や中学生といった思春期「ならでは」のものではない。年齢を問わず広く一般的に感じるものであると思っていた。だが、それは局地的なものであるようだった。

ーーー

僕が高校3年生のときのことだ。秋風が冷たくなってきた時節であると同時に、日本シリーズがホークス優勝で幕を閉じ、プロ野球への、いやカープ球団への寂しさが残る季節のこと。何より寂しく、僕を悲壮感の底へ追いやった人物がいた。新井貴浩こと新井さんである。

カープ戦士、新井さんの引退が決定したことを知ったのはTwitterの投稿だった。カープの、そして僕の精神的支柱がいなくなる。そのことを知った日はショックで学校の授業どころではなかった。所謂、「新井のせい」である。まあ、(僕は勤勉なので)学校へ行ったけど。それでも、思った以上にロスは重荷だった。

学校へ着くと、何やら友人たちも「ロス」、「ロス」と嘆き悲しんでいた。この教室にカープファンは僕だけのはずだったが、新井さんという男はカープファン以外からも愛される存在なのだと嬉しく思い、彼らに「ロスがキテるよなあ」と話しかけた。

「長年センターを死守していたのにね」
と口を開くAくん。

いや、新井はサードかファースト。今は丸がセンターのレギュラーではないか。

「昨日YouTube観てて思ったけど、やっぱかわいいよな」
と口を開くBくん。

確かに、新井さんはかわいすぎるのだ。彼の行動は観ていると和む。何十歳と歳が離れているのに、幼稚園児の行動を観察しているときの心境に近い。見ていると自然と笑顔にさせられるのである。新井さんの放った当たりがホームランでも、ゲッツーでも。

「七瀬のいない乃木坂は乃木坂じゃないな」
と口を開くCくん。

するとそこにいた僕以外の人間が全員激しく頷いた。

今でこそ西野七瀬という人を知っているが、当時の僕は乃木坂46についての知識は全くといっていいほどなく、その分カープにのめり込んでいた少年だったため、当然「ニシノナナセって誰?」状態だった。

「誰、それ」
と僕が彼らに聞くと、「え、知らないの!?」と「解の公式を唱えられないの?」とでも言わんばかりの表情で嘲笑された。

「てっきり新井さんのことかと思ったわ」
「アライ?」
「え、知らないの!?」

そっくりそのまま返してやった。まあ、学校は広島でなはく神奈川県内だったから、仕方ないといえば仕方ない。

読者の皆様に誤解されたら困るので、補足をしておくが僕は彼らと仲が良い(と思っている)。だからざっくばらんに話ができる(と思っている)。

奇しくも、西野七瀬乃木坂脱退と新井貴浩引退はほぼ同時期だったのである。

「誰やねんナナセって、絶対新井さんの方が有名じゃん」
「誰やねんアライさんって、絶対七瀬の方が有名だから」
そこからはどっちが有名か論争が3年3組内で始まり、圧倒的アウェイに負け、空気的には西野七瀬の方が有名ということになってしまった。不服!今でも納得していませんが。全く、大人数で押しかかるのはよくない。マイノリティをもっと尊重すべきかと。

だが、僕らはロスの対象こそ違うものの、お互いの心の穴をなんとか埋め合い(殆どは時間が解決していくれた)ロスから抜け出すことができた。

それから4年の月日が流れた今日この頃、新井さんはカープに監督として戻ってきた。今、声を大にして言いたい。

「西野七瀬は乃木坂には戻らない。新井さんはカープに帰ってきた」

「だからなんだよ」、という友人たちの声が聞こえてきそうだけれども、僕は新井さんが監督としてカープへ帰って来ることほど最近喜んだことはない。西野七瀬ロスを経験した彼らには味わえないこの歓喜に優越感を感じ、さらに喜んでさえいる。リアルに飛び跳ねて喜んだ。コイキングの「とびはねる」の如く。

広島に、僕のアイドルが帰ってくる。


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