スウェーデンという経験(5話)
本稿は大学生時代の留学経験を基に書いたフィクションです。
5話目は、大学の制度、風習について...
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スウェーデンの大学の特徴についてもう少し紹介すると、授業時間が3時間と長いこともあって、大半の授業は1時間半で一度15分休憩を挟む。
その間に生徒と先生はそれぞれ、コーヒーとシナモンロールを買いに行くのだ。
それから教室に戻ってきて休憩時間は談笑しながら、授業が始まれば討議しながら、先生も含めた全員でシナモンロールなど、お菓子をつまみながらコーヒーを飲む。
初めのころは、とてもしゃれていると思って、苦手なシナモンロールを我慢してコーヒーで流し込んで食べた。
コーヒーとシナモンロール、この組み合わせはスウェーデンで “Fika” (フィカ)を意味する。
“Fika” というのはスウェーデンの最も広く共有された文化的行為で、これを翻訳するとすれば日本語では「お茶」、英語では “Coffee and Cake Break ” となるらしい。
スウェーデン人から言わせると、それは “Fika” ではないようだが、要はスウェーデン式コーヒーブレイクだ。
この認識の違いはスウェーデン人特有のものなので説明しがたい。
例えば、彼らは、
“Fika is a ritual.” 「フィカは儀礼なんだ。」と言う。
“It's all about slowing down and finding time for friends and colleagues, whilst you sip a drink and enjoy something small to eat.”
「それはつまり、ゆっくりとすることなんだ。コーヒーを飲みやお菓子をつまみながら、友達や同僚との時間を見つけることだよ。」と。
11月になると、日中の平均気温がさらに4~5度程度、一気に下がる。外を歩くにはかなり分厚い上着が必要になって来くる時期になる。
日本だと強風警報でもでそうなほど、風が強い日があって、それが2、3日続く。
それは「秋」と呼ぶにはあまりに寒すぎた。
大学の授業は相変わらず、月曜日から金曜日の平日を全部合わせても3コマほどしかなく、時間も午後からだった。授業の開始時間は様々だったが、昼から夕方までと、秋の暗い時期なのに、健康的な午前中よりも、午後、真っ暗になってからの授業の方が圧倒的に多い気がした。
私は留学で必修科目となっている「スウェーデン語」の授業を取っていたので、午後5時から午後8 時までだった。
一つの授業は3時間が基本で、曜日と先生ごとにクラス分けがされていた。
ただ、このクラス分けはとても柔軟で、特に決まりがあるわけでもなかった。
学生番号順にクラス分けがされたのかと思えば、クラスの担任がクジ引きの要領で、国籍別に学生を振り分け、名簿の番号を当てていた。
他の授業との兼ね合い、また友達の多いクラスに参加するためにに、何人かの熱心なクラスメイトは、お互いの名簿の番号を交換していた。後になって聞いた話だが、変更の新生はクラス分けから3日以内ならできたそうだ。
大学教授の学生に対する応対は、生徒と先生というよりは、同僚同士のそれを思わせる。
スウェーデンには大学に無償で通うことのできる制度がいくつかあり、ほとんどの学生は学費を払っていないそうだ。(代わりに高額の税金を払っているわけだが)彼らの負担するのは住居費、食費で、それに対して奨学金および学生ローンの種類が充実している。
自分の親への負担が限りなくゼロで大学に入学することができるのは、進学する大学を強要されない、という点でとても優れていると思う。
良い見方をすれば、大学に入るチャンスが広く開かれているわけだ。
私の知り合ったスウェーデン人の学生の多くは、2年間浪人をした私よりも2、3歳年上だった。
大学に在籍することへの目的意識がはっきりしており、ただ漠然と自分の学力に合った大学と学部を選んでいる日本の大学生とはそもそも出発点が違うのかもしれない。
社会に学生生活を保障されているという意識があり、社会から与えられた自分の権利に対する意識も高い学生がスウェーデンには多い。
人生を焦った様子は少しもない。
もちろん、それで日本に比べて文化的、制度的に優れているとは言えないが、日本という社会を考えるうえでの比較対象になる国ではあると思うんだ。
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