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『愛するということ』エーリッヒ・フロム 著

カフェ店主おすすめの一冊と、個人的に気に入っているツボをご紹介。
今回は、世界的名著と言われるフロムの『愛するということ』。

大学時代に課題図書として読んだはずなのですが、一切記憶がないいまま長いこと本棚に鎮座しておりました。最近ふと気になって再読したところ、素晴らしい内容であることに驚愕。再読してもまるで内容を覚えていないことにさらに驚愕。お気楽学生だった20歳の自分の心に響かなかったのも致し方なし。

この本のツボは、「愛は技術である」ということ。技術といっても、意中の相手をあの手この手で落とすテクニックのことではありません。
人は愛を欲していながら、愛する技術を学ぶために時間と努力と研鑽を積むことをしない、とこの本にはあります。他のこと(たとえば成功、威信、金、力など)を得るためにはあらゆるエネルギーを注いで学ぼうとするというのに。

何かを本当に学び技術を身につけるためには、精神の統一や忍耐、一見何の関係もないような無駄とも思える鍛錬の積み重ねが必要で、そして長い時間がかかるものなのだ、とフロムは言います。
しかし現代の全産業組織は、速いこと、効率的であることを求めており、また「相互に有利な交換」という考え方で成り立つ資本主義社会では、人間の愛の形が商品として交換の形に従っている、という現代社会の歪んだ構造への指摘もあり、なるほどと納得。
このごろは家庭内でも「相互に有利な交換」の意識が強まっている気もして自戒。「ギブアンドテイク」が過剰になると息が詰まっちゃいますよね。

兄弟愛、母性愛、自己愛など、様々な形の「愛」についても書かれていて大変興味深い一冊。
1956年に刊行されて以降、世界中で翻訳され、世界的ベストセラーとなって日本の大学生の手元にやってくるに至っても、今もなお現代人が愛に飢えているのはなぜなのか。あ、わたしみたいに理解するのに時間がかかるからですかね。

当然ながらこの本を読んだからといって手っ取り早く「愛」を入手できるわけではないし、おすすめしている当人もやっとスタートラインに立った段階ですが、より幸福に生きるための最高の手段=「愛」について考えてみるのはいかがでしょうか。


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