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緑の谷で生きていく人々-「希望の樹」(1976年・ジョージア映画)

今年夏に神田神保町の岩波ホールで行われたジョージア映画の連続上映。そこで見逃した「祈り三部作」のうち、「希望の樹」をみた。世田谷の「下高井戸シネマ」で。ここは、見逃してしまった作品を数か月後に上映してくれるので、とても重宝する。

時は20世紀初頭のロシア革命前。ジョージアの山間部の村も変化の胎動が伝わり始め、騒然とした空気が漂い始めている。一方で、家父長制を軸にした、昔からの村落共同体の秩序も維持されている。

そうした中で、美しい少女と貧しい牧童の悲恋ストーリーが、ジョージアの美しい風景の中で進行していく。

映画が製作されたのは1970年代。ジョージア(当時はグルジアと表記)はソ連邦の一共和国で、ジョージアもソビエト共産党の厳しい思想統制の下にあったはず。

この作品では、2人の恋愛を引き裂く役割を、旧来の村落共同体秩序が担う。具体的には、村の秩序を守るため、少女と金持ちの家の息子の結婚を画策したり、結婚後、牧童との許されぬ愛に走ろうとした少女を罰したりする村長である。

テンギズ・アブラゼ監督は一見、厳格に秩序を貫徹しようとする村長を否定的に描いているようでもある。もしそうだとすれば、この映画は、ソ連体制に忠実な作品であるという気もする。なぜならば、ソビエト社会主義は、で伝統的な共同体を破壊し、それとは異なる秩序を打ち立てようとするものだからだ。

ただこの作品は、そんなふうに簡単にシロ・クロをつけて理解できる作品ではない、という気がした。ジョージアの美しい四季を背景に、人間社会の残酷さ、人と人が交わす情念のすばらしさなどを含めたひとの社会というものを映像表現の中で、総体的に描出しようとした、ということなのだろうか。ともかく、鑑賞して損はない作品である。



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