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イランの大自然の中で、夢の実現に格闘する女性…「メークアップ・アーティスト」

イランの映画監督、ジャファール・ナジャフィ監督のドキュメンタリー作品。イラン南部ザグロス山脈の遊牧民に嫁いだ女性が、メークアップアーティストになる夢を実現させるため、保守的で伝統的な価値観にどっぷりつかる夫をあの手この手で説得していく、という物語。東京・渋谷の「ユーロライブ」で開催されたイスラーム映画祭の最終日に鑑賞した。過去には、2021年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映されたことがある。

舞台はおそらくチャハルマハール・バフティヤーリー州。夫婦ともに一帯に暮らす遊牧民、バフティヤーリー族に属しているが、妻は大都会テヘランで暮らした経験があり、その時に知ったメークアップアーティストという仕事にあこがれている。

夫は、「子育てをおろそかにするな」「義母に頼るな」などと言って、妻の求めをはねつけ続ける。その保守的で乱暴な言動に、誰しもいらだちを感じるだろう。イランの地方社会の現実が赤裸々に映し出される。

以前、新聞記者として、テヘランに駐在した時、特にテヘランなどの大都市で変わりつつある若者の価値観を取材したことがあった。もう10年以上も前のことになるが、その時、イラン社会は、急速な変化の波にもまれていることを実感した。

この映画に出てくる、女性が自身の自由な職業選択や自立を必死で求める姿は、そうした変化の萌芽を表しているともいえる。

変わりつつある人間社会と対比させるかのように、雄大な大自然や、人々が古くから続けている遊牧生活の風景が美しく描かれる。変わらないイランだ。イランのドキュメンタリーでたまにみかけるが、この作品も秀逸なネイチャーフィルムの側面があるといってよい。

上映後のティーチインは、イラン研究者の村山木乃実さんが登壇。上映作品の開設後に、「イランを知るための映画」と「イランを知るための文学」としていくつかの作品を紹介した。

【映画】
①マルジャン・サトラピ監督「チキンとプラム あるバイオリン弾き、最後の夢」
②ケイロン監督「スリー・オブ・アス」
③バフマン・ゴバディ監督「ペルシャ猫を誰も知らない」
④アスガル・ファルハディ監督「別離」
⑤パナー・パナヒ監督「君は行く先を知らない」
⑥バヒド・ムーサイアン監督「ザ・シンフォニー・オブ・イラン」

【文学(本)】
①岡田恵美子著「ペルシアの四つの物語」
②陳舜臣訳「オマル・ハイヤーム ルバイヤート」
③アディーブ・コラーム著「ダリウスは今日も生きづらい」
④杉森健一著「ペルシア文化が彩る魅惑の国イラン」
⑤村山木乃実著「孤独と神秘」

以上の作品をあげ。毎回感じることだが、イスラーム映画祭は上映後のティーチインが充実していることで、作品をより一層楽しめる仕立てになっている。

今年も存分に楽しませてもらった。主宰の藤本高之さんと、登壇者の方々に改めて感謝したい。その藤本さんに、今回を含めた「映画祭の舞台裏」を語っていただくトークを企画した。

4月7日の日曜日、夜7時からの開催。場所は東京・荻窪駅北口から歩いて数分。関心のある方は、ぜひ足を運んでいただけたら、と思う。

さらに、村山木乃実さんが紹介した本のひとつ、イラン旅行・ガイド本の著者、杉森健一さんのトークイベントも4月5日に開催します。 詳細は、以下のリンクからご確認ください。


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