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海遊びと政治は同じもの

【フランスーデモ参加者は過去最高の128万人】
こんな国際ニュースが流れ、画面いっぱいに街を埋め尽くす人の姿が映し出されます。

今年1月以来、フランスでは年金制度改革案に反対するデモが幾度となく行われ、同日のデモ参加者数が、国内各地で過去の最高記録を超えました。
行政サービスの停滞や交通の麻痺など、市民生活にも大きな影響を及ぼしながら、大規模な抗議運動は今後も続くようです。


それに反して、日本国内で同種のニュースはまず目にしません。
一番記憶に新しく、近いところで2015〜2016年の、SEALDsによる学生運動があったくらいでしょうか。

その他には、メーデー、レインボーパレード、憲法改悪や人権問題関連デモ、基地反対の座り込みなど、局地的なものはあるにせよ、フランスのような全国規模で一斉に、という運動はまず思い当たりません。

これは、外国人の友人知人からよく不思議がられることでもあります。

「日本人はなぜデモをしないの?政府のすることに何でも賛成なの?」
「私たちの国では大暴動になりそうなことも、日本では誰も騒がないし許されるんだね」

そんな言葉に、いや、そうでもないんだけど、と答えるわりに、ではなぜ抗議の声が街へ飛び出さないか、うまく説明ができないため結局は口をつぐんでしまいます。


政治はそんなもので動くほど甘くはないから。日本人の国民性だから。体制に逆らっても仕方がないから。

それらはただの言い訳ですし、昔からこうだった、と言うのも無理があります。
高齢の方ばかりの集まりで、ふとしたきっかけから、その方たちが若かりし頃のお話を聞かされたのです。

若い頃は右翼だった、左翼派、いやノンポリだ、と色々な立場の方がおられたものの、皆さんそれぞれ、何らかの政治活動に参加した経験をお持ちでした。

「デモで知り合った仲間たちと、真夜中まで飲んで食べて議論したっけ」
「東京までバスを貸し切って、みんなで国会前の抗議に参加したのよ」
「友達が警察に拘束されてね。大勢で警察署を取り囲んで、解放されるまで無実を訴え続けたの。あれは凄かったなあ」

その方たちは“活動家”ではなく、普段はごく当たり前に学校に通い、仕事を持つ“市民”です。
そして、それぞれごく当たり前のこととして、信条に添う行動に参加していたのだといいます。


SEALDsが全盛だった頃の街頭演説で、私は壇上に立った若い女性が、こんなことを語るのを聞きました。
「今日、ここへ来る前に水着を買ってきました。明日、海へ遊びに行くからです。私にとって、政治ってそういうものです。遊びや勉強と同じで、私の生活そのものです」

この自由な感覚としなやかさは、かつての、今では揶揄されがちな政治運動と底の部分でつながっているように思えます。
いまフランスで起こっている抗議運動とも。

「フランスのデモを見てると懐かしくなる。私たちもフランス式で歩いたもの。あれ、大好きだった」
そんな風におっしゃった方に、フランス式って?と問うと、こう説明してくれました。

「今の日本で、フリーチベット、とかノーウォーってやるとすると、きっちり整列して、道路の端っこを歩かされるでしょ。警察官が周りを取り囲んで。いかにも物々しいじゃない?
昔のデモはもっと自由で、みんな道路いっぱいに広がって歩いてたの。大通りを占拠して、音楽かけて、わいわい笑ったりしゃべったりしながら」
「楽しそう。なんだかお祭りみたいですね」
私が言うと、それを聞いていた他の方も、いかにも愉快そうに笑い声をあげました。

「ほんとに、お祭り騒ぎだったよ。にぎやかで、行くと誰かしらに会えて楽しかったし」
「僕なんか、政治のことなんてまるでわからないから、デモへ遊びに行きついでに勉強してたようなものだったな」
「もちろん真面目に色んなこと考えてはいるんだけど、ただ深刻なだけじゃねえ」
「そうそう。暗いだけのものには誰も集まってこないし、何か面白いことやってるな、自分も混ざりたいなって思ってもらわなきゃしょうがない」


そんなお話を聞いていると、力の抜けた等身大の政治との関わり方と、それが可能な場があったことがうらやましく思えます。

私も何度かデモに参加したことはあるのですが、どうも自分が部外者のような、身の置き所のないような気分になり、続けての参加はしませんでした。
横断幕やシュプレヒコール、流れ続ける政治的メッセージ、警察官の間を歩く緊張感が、私にはどうも馴染めなく思えたのです。

政治に無関係な人はただの一人もいませんし、選挙以外で自分の考えの持っていき場がない、というのは、いささか歯がゆい。それを変えうる方法があるのなら、とても素晴らしいのですが。

画面越しにもエネルギーと充実感の伝わる、フランスの全国デモの映像を観ながら、ずっとそんなことを考えていました。

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