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件名: 土星の逆行スタート

友人の携帯電話のホーム画面を見て、思わず尋ねてしまったことがあります。
「この“50,000”って、何?」

まさかとは思ったものの
「ああ。もう手のつけようがなくて」
との返答から、やはり未読メールの数だとわかりました。


メールアプリの通知バッジに記載の数字が50,000。つまり、読んでもいないメールが受信ボックスに50,000件もある、というなかなかの事態です。

「いつの間にか溜まってしまった」そうなのですが、それならいっそ一斉削除してしまえば、との勧めには、大切なものが消えたら困る、と渋い顔です。
大切も何も、中身を見もしないのだから同じことでは、と感じるものの、それ以上のアドバイスは無用でしょう。



私自身は、メールは届いたそばから選り分けるたちですが、それでも時々しか覗かない【迷惑フォルダ】には、思いもかけない件数のメールがあったりします。

ついこの間、そこで『Dear Erina』と書かれた英文メールを見つけました。
一瞬、外国人の友人の誰かからかと思ったものの、普段のやり取りは他の連絡手段を使う人ばかりのため、メールのやり取りをする相手は思い当たりません。


内容にざっと目を通してみても、「土星の逆行」「新たなスタート」「運命の逆転」など、首を傾げてしまう文言が連ねられています。
冒頭に私の名が書かれているため、スパムメールでも無さそうですし、何らかの詐欺という感じもしません。

けれど、それでは誰が何のために、がわからないまま数日が過ぎ、あるサイトから〈お詫びメール〉が届いて、ようやくその謎が解けました。


真相は知ってしまえば単純で、私が購読している占星術と天体解説サイトの日本語メールが、外国人ユーザー向けの英文メールと間違って届けられた、ということでした。
どうりで土星や逆行などと、ちょっと風変わりな内容だったわけです。



これは危険度ゼロの“迷惑メール”ながら、中には悪質なものもあり、某通販サイトからの緊急連絡を騙るものには驚きましたし、契約もしていないサブスクの支払い督促、持っていないクレジットカードの不正利用のお知らせなどが、忘れた頃にぽつぽつと届きます。

他の人も似たようなものらしく、友人たちと話していた際、いかにおかしな迷惑メールが届いたか、という話題になりました。


ほぼ全員に覚えがあったのが“出会い系”で、見知らぬ美男美女からの悩ましげなお誘いです。
「1時間後、渋谷のバーで待ってます」と実在のお店のリンクが貼られたものもあり、家から徒歩圏内のため、行くかどうか直前まで迷った人もいます。

あげます系”もポピュラーで、それもお金だけでなく、株券、コンサートのプラチナチケット、ヨットにプライベートジェットという、保管場所に悩みそうなものまで盛り沢山です。

あとは“お礼系”で、覚えのない善行に感謝され、恩返しがしたい、というパターンです。
あの時は本当に助かったとか、あなたは命の恩人だから何でもしますとか。
ある人は、あまりに真に迫っているため、もしかしたら先月、心臓外科手術で人を救ったかもしれない、と錯覚しそうになったそうです。その人は紳士靴のバイヤーですが。



とはいえ、いくらよく出来てはいても、アメリカであった〈感謝祭の間違いメッセージ〉のようなドラマには到底かないません。


この話は2016年に起こった実話で、ある黒人青年の元に、“おばあちゃん”から感謝祭の食事の招待メッセージが届いたことが発端です。

何度かのやり取りのうち、この“おばあちゃん”は彼の祖母ではないことがわかります。
送られてきた写真で微笑んでいるのが、やさしげな白人女性だったからです。

青年は笑って彼女の送り先間違いを指摘した後、それでも、もし迷惑でなければお宅にお邪魔して良いか、と尋ねます。
アメリカで感謝祭を一人きりで過ごすのは、日本で言えば、お正月にひとりぼっちより辛いものだからかもしれません。


この問いには、こんな素晴らしい返信が届きました。
もちろんいらっしゃい。みんなにごちそうしてあげるのがおばあちゃんの役目ですもの

それから家族ぐるみの付き合いが始まり、今でも毎年、感謝祭を一緒に祝っている、という映画のようなエピソードです。



私が受け取った英文の間違いメールはそんな感動的な物語には及びませんが、有益な情報がいくつも掲載されていました。

たとえば、6月18日に土星が4ヶ月半の“逆行”を開始したということ。

星の逆行中は気持ちの乱れる出来事が起こりがちながら、それもさほど心配する必要はなし。
この逆行の期間は、これまでの苦しみの意味が浮かび上がり、今後の“基盤”に変化していく時だからです。

土星はやや厳しい星であり、乗り越えるべき人生の課題を与える役割を持っている、と言われます。
それによって、それぞれの人に大きな成長への道筋をつけてくれるのです。

逆行が終わる11月4日ごろには、試練の末に新たな道が開き始める、というから楽しみです。

思わぬところで宇宙規模のアドバイスまで得られてしまった、物珍しい“迷惑メール”でした。


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