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国対政治

法律等の状況

 国対政治とは、与野党の国会対策委員長が密室において国会審議の日程などを中心に駆け引きを行う国会のあり方を指す。国対政治は、1970年代に上述の事前審査制や党議拘束が確立し、日程が法案審議における中心的な関心になると同時に、形成されてきたものである(1)。国会審議の日程等は、形式的には議事運営委員会で与野党が議論することで決められることとなっている。しかし、実質的な議論の場が徐々に国対委員長会談に移動した経緯がある。国会対策委員長は、各党にある国会対策委員会の委員長である。日程闘争に関する重要な議論を行うため、様々な経験や交渉能力のあるベテラン議員が担う。国会戦略全体を司ることから、重要なポストである。
 国対委員長会談は国会での政局を占うことからメディアの注目度が高く、会談の前後こそメディアによる取材が行われることはあるが、その実際の議論内容については全く不透明である。55年体制時は、自民党が絶対的な与党としての地位を保っていたことから、会談での緊張感が全くなかった。野党に各法案について妥協してもらう代わりに、与党は野党に対して接待をしたり、賄賂を送ったりなどの腐敗の温床となっていたのだ。もっとも、日本共産党はこういった接待や賄賂といったものを一貫して拒絶していた。以上のような腐敗状況は、1993年の非自民連立政権の樹立により自民党の安定政権が崩壊したことで改善へ向かった。与党と野党の議員数が近づき、政治的緊張感が生まれたことが大きな要因である。与党による政治とカネの問題が相次ぎ、世論の政治腐敗への危機感が高まったことも影響した。そして、現在では各党の関係性、各党内での人事、政治状況、法案内容などの様々な要素を考慮しながら法案審議の日程や順序が決められていく場となった。しかし、密室での議論であることに変わりはなく、実際にどのような議論・交渉が行われているかは不明である。


問題性

 国対政治は、何かしらの制度などから必然的に形成されたものではない。形成された時期は、党議拘束や事前審査制と重なっているが、それは日程闘争を生み出す必然性は持っていたものの、日程に関する交渉を公開された議事運営委員会ではなく、密室での会談で行わせるような必然性は持っていない。密室という議員にとってのみ都合の良い場で交渉していることは、その成り立ち自体が不清潔である。

 国対政治が引き起こす問題は、事前審査制や党議拘束がもたらす問題と重なる。すなわち、国会での議論の空洞化、透明性の欠如、官僚への悪影響である。
 国対政治は、国会で議論を行う議員の最大の関心を、法案の内容ではなく審議の日程にしてしまう。これでは、議員が歳費請求権や免責特権などの自由な議論をする法的環境を与えられている意味がない。法案がより公共の福祉にかなうための議論をする国会を実現するためには、国対政治およびそれを引き起こす原因である事前審査制や党議拘束が改められる必要がある。
 また、国会およびその委員会での議論は、原則として公開されていなければならない。議事運営は国会の法案審議に関わる重要な事項であり、法案審議と同じようにできる限り公開されていなければならない。透明性の必要性は、憲法57条1項で示されているものであるが、それはもちろん、国会の委員会である議事運営委員会や本来はそこで扱われる審議日程についての実質的な議論も公開されているべきである。議論が有権者に対して公開されていることが、代議制民主主義の肝である。
 そして、これも詳しくは事前審査制と党議拘束の「問題性」で触れているが、国対委員長会談は日程闘争の中心的な駆け引きの場である。会談が長引き、委員会開催の決定が直前になることで野党の質問通告が遅延し、結果として官僚の無駄な残業を大量に増やしている。これは、官僚の仕事環境を著しく悪化させている。
 こういった内容は、議員全体のモラル低下といった問題と合わせて様々なアクターから問題提起・提言がされている。2011年には超党派国会改革勉強会が、国会に真の言論の府としての機能を発揮させることを目的として、「通常国会に向けた具体的提言」を行っている。その中では、党議拘束の緩和や質問通告の期限のルール化、予算委員会を予算審議の場とすることなどが簡潔に求められた(2)。さらに、2019年に超党派ロビイング団体である日本若者協議会は、「国会改革、国家公務員の長時間労働改善に対する申し入れ」を各党へ提出している。内容としては、「言論の府」にふさわしい国会審議活性化、国家公務員の長時間労働改善、若者にとって政治家や官僚が魅力とやりがいのある職業とすることを目的として、質問通告に関するルールの見直し・徹底、議事運営委員会等での速やかな審議日程の決定などが提言された(3)。


参考文献

(1)福元健太郎「内閣立法の審議過程の歴史的分析」『日本公共政策学会年報2000』
http://www.ppsa.jp/pdf/journal/2000toc.html

(2)衆議院議員 河野太郎公式サイト「主張・政策>国会改革」(最終閲覧:2023年1月30日)
https://www.taro.org/2014/12/post_32-2.php

(3)一般社団法人日本若者協議会「国会改革、国家公務員の長時間労働改善に対する申し入れ」2019年11月20日。
https://youthconference.jp/wp/wp-content/uploads/2019/11/b3df1d6d26dd1c011d2c2d358772bbdb-1.pdf


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