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『確かに言葉が降っていた』

薄暗い部屋に言葉が降る。言葉は私たちの動きに合わせて揺られ、色んな人を刺して回る。静まり返った部屋には、シャッター音だけが鳴り響く。揺られる言葉に弄ばれるように、私たちのカメラロールにはピントの合わない、言葉を正確に捕らえていない写真が増える。このやるせなさと不甲斐なさが僕を現実に引き戻す。日常生活はいつもそうだ。ただ、僕のせいで言葉が揺られ、回っているなら僕の人生にも意味があるような気もした。

言葉には、黒いパネルに白文字。白いパネルに黒文字の2種類が共存していた。一目で惹かれる言葉は、携帯の待ち受けにしたくなるような言葉は、SNSで映える言葉は。全部、白いパネルに黒文字の方だった。ただ、僕が本当に辛くなった時、僕に手を差し伸べる言葉は黒いパネルに白文字の言葉な気がした。そのことに途中で気づいたけど、写真を撮ることはしなかった。不安になる準備をするのはなんか違う気がしたから。いや。撮らなくてもあの言葉達は僕の心の中で生き続ける気がしたから。

メモ帳に言葉を紡ぐ瞬間を撮った画面録画を展示するスマホは、何故か画面にヒビが入っていたけど、その理由は今の僕には分からなかった。

帰りの電車で、展示会終わりに買った、最果タヒ先生の詩集を読みながら家に帰った。
家に帰って一息ついた時。昨日までの僕より少しだけ優しくなった気がした。

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