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Fカップの話/『火花』又吉直樹

“Fカップの話”

なんていう風に題してみたけれど、
決してこの小説は
そんな巨乳好きのための物語ではない。


ただ、又吉直樹という者が
この小説に置いてきた

“Fカップ”

が、
この本を読んだ人々にあまりの衝撃を与え、

いつまでも
頭から離れないようにしてしまっている。


『火花』の表紙のイラストを見るだけで、
初めて読んだ時に喰らった衝撃が
まるでついさっき受けたかのように
思い出される。


最寄りのBOOKOFFで
初めてこの本を手に取った時の感想は

「思ったよりも薄い」



そして1ページ目を開いたら、
とにかく読みやすかった。

すらすらと読める。

それは
ただ文章が簡単だからとか
そうではなくて、

「売れない漫才師が花火大会の前座で漫才をしている」

というこの23文字を

4ページに渡って
繊細に色鮮やかに丁寧に
思い浮かばせてくれていた。


又吉直樹は本当に芸人か?と思った。

その多彩な語彙力にただただ感動した。


主人公・徳永が20歳
神谷が24歳であろう時に
2人は出会う。


物語のラストには
彼らはすでに33歳と29歳になっている。
(もしかしたらもう1歳歳を取っている)

約10年間に渡る壮大な人生の物語である。


これが僕と神谷さんの出会いだった。
僕は二十歳だったから、この時、神谷さんは二十四歳のはずだった。

どこか昔を思い出すような書き方。

又吉直樹が
自身の過去の
どこかの場面に
重ねて思い出しながら
書いていたのかな?

どうしても徳永のセリフは
又吉の声で再生されている。


俺のこと忘れずに覚えといて欲しいねん

神谷

神谷さんが徳永へ言うセリフだ。


神谷は
実はずっと
孤独と生きづらさを
感じていたのではないだろうか。

徳永と出会う前から。


同時に
「弟子にして欲しい」
という徳永の言葉は
神谷にとってどれだけ嬉しいものだったのだろうか。

内心喜んでいるのを
必死に見せないようにしている神谷の表情が
頭の中に浮かんできそうで、

私も神谷という人間が
たぶん好きなタイプだと思った。





そして、
奇跡的に慕ってくれた後輩(徳永)がいて、
徳永は神谷を天才だと信じて疑わなかった。

なぜ天才だと信じたのか、

なぜ徳永は神谷を慕い続けたのか、

それは明確には言語化されていなかったし、
その点は深掘りして語られていなかったように思う。




すまんな。
俺な、もう何年も徳永以外の人に面白いって言われてないねん。

神谷


神谷は最後までこの世が生きづらかった。

けれど、徳永は最後まで神谷と一緒にいる。



一緒にいる理由なんて書いてない。

けれど、そんな説明はなくていいとも思った。



それがこの『火花』という小説の深みではないか。


なんだか美しく感じてしまう理由ではないだろうか。




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