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re:bero ~人生のパッチワーク~【和歌山・高野口町】

1月30日、紀州かつらぎ熱中小学校ライター部の部員4人で、高野口町にある「re:bero(リベロ)」へ取材に行きました。
店主の金子あかねさんはセルフリノベーションを手がけている方で、ドアを開けたなら、新しいような懐かしいような、白を基調とした独特の空間が広がります。
階段を上った先にあるカフェスペースにはアンティークの大きなアトリエテーブルが置かれ、窓からの明るい陽光に、ほっとくつろげる雰囲気となっています。
奥の部屋にはセレクトされた雑貨が並んでいるのですが、単なる「雑貨とカフェのお店」とは言い難く、金子さんのデザインする空間そのものを楽しめる場となっています。

金子さんは若いころから家具や空間のデザインに関心があり、偶然手にした『junk style』という洋書の影響を強く受けているそうです。アンティーク家具やヴィンテージ感のある雑貨が掲載されており、
「自分の家もこんな雰囲気のものでそろえたい」
と感じたものの、当時はまだインターネット環境が充実しておらず、海外の家具を購入するのは難しいため、ならば自分で作ってみようと、テレビボードを製作したことがセルフリノベーションを始めるきっかけとなりました。
その後、自分の手で自宅を大きくリノベーションする過程をブログで発信。雑誌やテレビで紹介されたことから仕事としてリノベーションを請け負うようになり、後に「re:bero」開店の流れにもつながったということでした。

「クマミノの誕生」


金子さんは空間デザインだけではなく、帆布や高野口町の地場産業であるフェイクファー(エコファーともいいます)を用いたオリジナルデザインのバッグ等も製作しています。素材としてフェイクファーを使い始めた時には、可愛くなりすぎず幅広い人に持ってもらえるよう直線的なデザインを心掛けたとのこと。
ただ、製図をして生地を切ってゆく過程で、
「この線からこちらは要るもの、あちらは要らないもの」
と、区別することに違和感を覚え始めたそうです。同じ生地なのに、線を引くだけで価値が変わってしまうのはおかしい、切り落とした端布にもきちんと価値があるはずだ、と感じた金子さんは、その感覚を何とか表現できないものかと考えました。そうして、さまざまな端布をつなぎ合わせてパッチワークにすることに思い至り、商品として形にしたものが「クマミノ」。パッチワークの蓑(みの)にくるまれたクマのぬいぐるみです。

「クマミノ」はアーティストのアラキチエさん(bearömixx ベアロミックス)の描きおろしのイラストから生まれました。可愛いだけではなく、持っていることがファッションになるようなぬいぐるみを、という発想から作られ、パッチワークの蓑はすべてデザインの異なる唯一無二のもの。
商品として「クマミノ」を収める箱にも金子さんのこだわりがあり、高知県で作られている希少な「角留め箱」を使っています。ヴィンテージ感のあるラベルは金子さんの手作りで、ぬいぐるみのまわりの詰め物にはヒノキの端材を。こちらはアロマオイルを落とせばルームフレグランスとしても使ってもらえるとのことです。


金子さん作成のラベル。(写真はサンプルのため詰め物はヒノキではありません)

ところで「クマミノ」を商品化するには、生地をちょうど良い大きさに切ったりパッチワークとして縫い合わせたりするマンパワーが必要です。そのあたりをどうしようかと金子さんが思案していた時、一階の織物会社から近所にある支援学校の先生を紹介され、
「地元のものを使って、生徒たちに何かできることはないのか探している」
という話をお聞きしたそうです。その際、金子さんと先生は意気投合し、今では「クマミノ」の製作になくてはならない方となりました。

また、将来的には「クマミノ」とは別に、フェイクファーでのパッチワークの布を製作販売し、裁縫の好きな高齢者や幼い子供を育てている母親などが、「物作りをしている」という実感を持てるような仕事の雇用を生み出すことも視野に入れています。

「経験のすべてが今につながる」


何もかもが順風満帆なように感じる金子さんの生き方。でも、自宅のセルフリノベーションをブログで発信していた頃は、ご自身の中では「黒歴史」なのだそうです。
雑誌やテレビの取材を受けて人気ブロガーとなったものの、ブログでは常に新しいことを求められ、読者の期待通りの更新を続けるためには多くの時間が必要でした。金子さんの中でも、
「もっと見てほしい。もっと凄いと言われたい」
という自己顕示欲が膨らんで、自分自身を追い詰めてゆきました。次第に気持ちの余裕がなくなり、当時、小学生だった息子さんたちとの心の距離が離れていることにも気付き、金子さんはこれまでの活動をすべて停止。身の丈に合わないことからは手を引いたということです。
この一連の期間、
「何よりもいつも夫が私を見守り、サポートしてくれていたのが本当にありがたかった」
と、金子さん。
ただ、「家族を顧みず、没頭していた時期があったからこそ今がある」とも。失敗や後悔も大切な経験のひとつであり、何もかもを含んだ人生の集大成として「re:bero」があるのだと金子さんは捉えています。

「re:beroへの思い」


そんな過去を経ての再スタートでもあった「re:bero」。もともとはイタリア語の「libero」(自由)であり、また「re:」(返信)がつながって人と人とが呼応してゆくイメージも含んでいます。
そしてもう一つ、サッカーをしていた次男さんのポジションが「リベロ」。基本は守備、でもチャンスには一気に攻撃へと向かう役割で、金子さんが素材として扱っているフェイクファーという地場産業についても、伝統を守るだけではなく、攻める時には壁を打ち破って進みたいという心持ちを表してもいるそうです。


ただ、さまざまな思いは金子さん自身の内にあるもの。「re:bero」を訪れてくれる人たちはカフェでゆったりと過ごしてくれればそれだけで充分、インスタグラムに写真を上げてもらえることで広く門戸が開かれることもありがたい、と金子さんは語ります。もちろん尋ねてくれる方がいれば、高野口パイルのこと、「クマミノ」のこと、セレクトしている雑貨のこと……深く掘り下げたお話ができることもカフェ経営ならではの楽しみだそうです。


re:beroでの取材風景。一番右が金子あかねさん(撮影・岡本香)

「単なるフェイクファーのアンテナショップなら、こんなふうにはなっていないと思います。50歳という年齢になったからこそ、自分自身、あらゆるものを自然に受け入れられるようになったのかもしれません。ともすれば線を引かれがちな人間社会をもフラットな視線で見て、声高にエコや福祉を叫ぶのではなく流れのまま自然体でやってゆきたい」
そう語る金子さんを見ていて、ふと私の心に浮かんできた言葉が「人生のパッチワーク」。これまでも、そしてこれからも、さまざまな経験をパッチワークのようにつないで、「re:bero」は金子さんと共に進化してゆくのかもしれません。


「re:bero」営業日等はこちらからご確認ください

「new_ance」re:beroの奥にある雑貨店です。

(ライター部:大北美年)


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