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風街ろまん、はっぴいえんどのドキュメンタリーと失われた東京の憧憬

はっぴいえんど
日本ロックの先駆者

細野晴臣、大瀧詠一、松本隆、鈴木茂

その後の日本音楽史で多大なる貢献をした4人のバンド

NHKで数年前に放送された、風街ろまんの制作秘話を大瀧詠一亡き後の3名がスタジオで語るドキュメンタリー

はっぴいえんどはけして激しいロックでも名ボーカリストを前面に出るようなバンドではなかった

各々が作曲した曲を、自らリードボーカルを担当する、そんなバンドだった

もともと音楽マニアだったメンバーで結成されたバンド

リリース当時はヒットしたわけでもなく
のちのちのメンバーの活躍から一般にも再評価され、不動の金字塔として聞かれて、語られてきたバンドだ

2ndアルバムの風街ろまんは特に評価は高い
その録音時のマルチテープが見つかったことから、
8トラックの各チャンネルに残された音を聴きながら、当時の制作状況を静かに3人が語る

語り口はみんなとても穏やかで力の抜けた、はっぴいえんどらしい、深い話だ

特に有名な曲は、風をあつめて、だけれど
制作秘話はとても興味深い
1stアルバムでボツになったこの曲


けれど、風をあつめて、その言葉だけは捨てたくなかった、そんな思いから松本隆が歌詞を書き、録音当日に細野が新たなメロディーを乗せた

この歌の歌詞を噛み締めて聴くことがなかったのだけれど

変わってしまった街並みを見ながら、懐かしい街並みが蘇る、そして能動的に風をあつめる、そんな行為の中で、空を飛びたい幻想と想いに包まれる

とても素敵だと思う

路面電車が都心を走っていた時代は知らないけれど

消え去っていった東京の街並みと
その失われた景色への強い憧憬
自分も同じものを心の中に持っている

細野晴臣と大瀧詠一は、後期のはっぴいえんど時代には軋轢が生じていた
だから、風をあつめて、の録音は元々前身となるバンドから活動していた細野晴臣と松本隆2人で録音されている

今更ながら、松本隆は言葉選びも歌詞の世界観も群を抜いた才能を持っていたことに気づく。

ドキュメンタリーの最後に
亡くなった大瀧詠一との仲の良かった楽しい日々を細野晴臣が語る
落語の話をしたり、いつも笑い合っていたと

そう語る細野晴臣は少し涙腺が緩んでいる

それは、風をあつめて、と同じように

はっぴいえんどというバンドが、もう戻ることのない景色と同じようで、現代を生き続ける細野晴臣が、このドキュメンタリーを通して、能動的に、はっぴいえんどという風を集めているようだ

東京オリンピックについても、開催の数年前のこのドキュメントで語っている

けして前向きになっていないこと
2度目のオリンピックには、かつての東京オリンピックの熱気とも、違うこと

風をあつめて、の景色を壊していったのは、まさに東京オリンピックだ
そして、そのオリンピックさへも懐かしいものとして記憶していること
間近に迫るオリンピックは、そんな感慨さへもなく、ただ東京という街をまた壊していくことへの怒りなのか、諦念なのか、そんな想いを淡々と語っている

コロナなんて想像もされなかった、このドキュメンタリー制作された数年前の時期に
細野晴臣の発言はとても重いもののように感じる

誰も望まないオリンピック
それでも東京の再開発は終わり、東京はまた多くの懐かしい街並みを失った
もはや懐かしいとはけして思われる街並みではないだろう、この先何十年経過しても

それはとてつもなく哀しいことであり、取り返しのつかないことなのだと、実感させられた




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