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RAWで撮るということの本筋とは

ボクはデジタルカメラで写真を撮る際、必ずRAWデータで撮影する。
色味を変えたり、彩度を変えたり、などと画像を後調整するためではない。
あくまで無調整で画像を生成させるためである。

では、無調整ならばなぜRAWデータなのか。それをここに説明する。


●漠然とした疑問

デジタルカメラで撮る写真は、イメージセンサーという格子状の受光素子で光を捉えた電気信号をデータ化したものである。
しかし不思議なことに、イメージセンサーにはRGBの3種類の色しかピクセルが並んでいないはずなのに、記録された画像データを拡大して見ると1ピクセルごとに様々な色が並んでいる。なぜだ?

↑ イメージセンサーではこのような3色のセンサーになっているはずなのに
↑ なぜか画像データを見てみると様々な色に変わっている

ボクがデジタルカメラを使い始めた頃はまだフィルムカメラの補助という扱いだったので、そんな疑問は漠然としたものであまり真剣には考えなかった。「何かうまくやってるんだろう」という漠然としたものだった。
ところがデジタルカメラをメインに使うようになってから改めてその疑問を晴らすべく調べてみたところ、デジタルカメラではなかなかエグい処理をしていることを知った。
それはつまり、「デモザイク」という処理によってデータをねつ造していたのだ。

●デモザイクという作業

「データのねつ造」というと聞こえが悪いかも知れないが、実際そうなのだから仕方ない。

イメージセンサーでは、光の三原色に基づいてRGGBというセットで色を合成しなければならないが(※)、単純に4ピクセルをその場所で混ぜてしまうと、4ピクセルに対して画像データは1ピクセルに減ってしまう。つまり、2,000万画素のイメージセンサーであれば500万画素の画像が生成されてしまうのだ。

(※ちなみにGが2つあるのは、合計4ピクセルでちょうど正方形に合わせるためと、人間の眼の感受性では緑色が強いという理由)

4ピクセルが同じ場所のまま1つのピクセルになる場合

そこで、何とかしてイメージセンサー1ピクセルごとに色を生成したいということになった。そのために、1ピクセルを残したまま、周辺のピクセルを参考にして順次色を決めていくことにした。

1ピクセルの色を決めるために別の場所にあるピクセルから推測する

だがこの方法は、その場所にない隣接したピクセルの色から推測するのであるから、正しい色になるかどうかは推測のアルゴリズムに大きく依存してしまう。だから、うまくやらないと解像感が向上しなかったり、おかしな色が出てきてしまう可能性があるわけだ。

これこそが、デモザイクという作業であり、ボクが「データのねつ造」と言ってしまう所以である。

いや、もちろんデモザイクが悪いということではない。自分の目的やイメージに合うデモザイクアルゴリズムを選びさえすれば良い。そのためには、RAW現像ソフトでデモザイクのアルゴリズム(デモザイクエンジン)やパラメータ(強弱)を変えたり、あるいは複数のRAW現像ソフトを使い分けるなど方法がある。

ところがカメラで"撮って出しのJPEGファイル"では、既にカメラ側でデモザイク処理された画像であるから、もはや手出しできないデータである。これはよくない。
仮にカメラが生成したJPEGと同じ結果になったとしても、後で色々デモザイクがやり直せるRAWデータのほうが圧倒的によいと思う。

●ノイズ処理

画像にはノイズが付き物であり、高感度による増幅ノイズや、温度によるノイズ混入などがある。イメージセンサーの1ピクセル受光面積が小さいと、そういうノイズの影響が顕著に出てしまうため、現在ではソフトウェアでノイズ処理をするのが普通だ。これもまた、データのねつ造と言える。

有名な例として、星空を写したらノイズと誤認されて真っ黒な写真になったというものがある。これはつまり、ソフトウェアのアルゴリズムが、小さな点をノイズだと判定して周辺の色と同じ色に塗り潰してしまうからだ。本当は白い点が実在だというのに問答無用で塗り潰してしまうというのだから、ねつ造というほか無い。

この問題もまた、ノイズ除去が悪いということではない。問題は、JPEGでは選べないということだ。いやもちろん撮影時の設定でノイズ処理を選べる機種もあるが、撮ってしまった後ではどうにもならないことには変わりない。ノイズ感など撮影時には細かくチェックできないのであるから、RAWデータで撮影し、あとで大きなディスプレイで確認しながら処理するのが正しいやりかただと思う。

●実際の画像の例

では、ここで実際の画像の例を示す。
一眼デジタルカメラと呼ばれるものでは、イメージセンサーが大きいために性能的に余裕がありJPEGでもあまり破綻が無いので、ここでは極端な例としてスマートフォンで撮影した画像で比較してみたい。

スマートフォンの中でもRAWデータで撮れる機種があり、ここではその中でも6,400万画素で撮れるOPPO Reno 5Aを用いた。クアッドベイヤーと呼ばれるRGBの並びをした特殊なイメージセンサーなので、JPEGではかなり"ねつ造度"が高いので参考になろう。

下に、「JPEGで撮った画像」・「RAWでデモザイクAで現像した画像」・「RAWでデモザイクBで現像した画像」を掲載する。

JPEGで撮った画像
RAWでデモザイクAで現像した画像
RAWでデモザイクBで現像した画像

これではよく分からないので、一部分を拡大したものを用意した。

●デモザイク比較

まずは、同じRAWデータを用いて隣接補完ピクセルの多いデモザイクで処理した画像と、隣接補完ピクセルの少ないデモザイクで処理した画像の比較である。

デモザイクの違いによる比較

窓のブラインドに注目すると、右のほうは偽色が出ているのが気になる。
ブロック塀も右のほうはノッペリとして質感が失われている。
しかしながら屋根の陰のノイズ感は左のほうが良くない。ポートレートでは使えないかも知れない。

このように、どちらが優れているかという話ではなく、どちらが自分の目的に合っているかということを考えるべきである。特に偽色はいったん画像になってしまうと消すことが難しい。だから、JPEGで撮るのは選択肢を失うということになる。

●ノイズ処理の比較

次に、ノイズ処理についてのJPEGとRAWとの比較である。

JPEGとRAWのノイズ処理の比較

これを見ると、明らかにJPEG画像のほうは塗り絵のようになっている。
だが注意してもらいたいのは、JPEGというのは塗り絵になってしまうと批判したいわけでは決して無い。iPhoneで撮った画像ではもっと自然に写る。ここで問題にしているのは、JPEGでは選択肢が無いということだ。

カメラによって生成されてしまったJPEG画像は、ノイズ処理も行われた後の最終生成物である。だから、いったんこのような塗り絵のようになってしまうと、もうどうにもならない。
しかしRAWならばノイズ処理は後から施すのであるから、画像を見ながら自分の目的に合うように調整できる。

●RAW現像で撮ることの本筋とは

RAW現像は、イメージセンサーのRGBの信号をそのまま記録した画像生成前のものであるから、確かに自由度が高い。JPEG画像よりも情報量が多いということから、彩度や明るさを極端にいじるなど強引なレタッチにも耐える。
しかしそのようなレタッチはあくまでも副次的な利用であり、RAW現像の本筋ではないと思うのだ。

RAW現像とは撮影者の目的に沿った選択肢を与える手段である。だがそれに甘んじて感性の名の下に好き放題にいじくり回して画を後から作り上げていくならば、いずれそれを上回る生成AI画像が世にはびこるようになった時に、果たして自己のアイデンティティを保てるだろうか。

あまりこういうことを言うと若い世代には良く思われないかも知れないが、しかし1人でもそういう本筋論を言う者がいなければならないと思っている。


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