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【句集紹介】麦車 芝不器男句集を読んで

・紹介

俳句は基本的に5・7・5の17音で詩性を表現をする文学である。故に17音で自分の伝えたいことを表現しなければならず、俳人はいつもそのことに苦慮している。

しかし、どうしても17音では足りないことがある。そういったときのために、俳句には「前書き」と呼ばれる表現方法が存在する。前書きとは、デジタル大辞泉によると下記のような意味である。

和歌や俳句の前書きとして、その作品の動機・主題・成立事情などを記したもの

小生は基本的に前書きを用いない。俳句を俳句足らしめているのは、上記で述べたように、5・7・5の17音である。この原則は外れるべきでないと考えている。前書きを使うぐらいなら、俳句に拘らず短歌や、自由律俳句、短詩など他の詩形を用いればいい。

しかし、前書きで大成功した句もある。その代表が芝不器男の句だ。まずは前書きなしの句を見てもらいたい。

あなたなる夜雨の葛のあなたかな

あなたとは、彼方のことである。現代的に分かりやすく言い換えると「遠くの夜雨の中の葛の、さらに遠くなんだなあ」といった感じだろうか。これでは何のことかわからない。

そこで次は前書きありの本句を見てほしい。

(仙台につく。途はるかなる伊予の国をおもへば)
あなたなる夜雨の葛のあなたかな

かぎかっこの部分が前書きである。前書きを見ると、仙台から伊予の国を思って詠んでいることが分かる。仙台は芝不器男が学んだ東北大学の地。伊予は故郷である。四国を出て、遠く東北の地まで来た不器男の郷里への想いを詠んだ句なのだ。

この句は虚子によって激賞され、不器男の名は一気に広まった。しかし彼は句歴わずか4年ほど、わずか28才で、この世を去る。

日本古来の万葉調の雅な言葉使い。そして郷愁。俳壇に彗星の如く現れ、彗星の如く去っていった不器男の俳句を楽しんでもらえたらと思う。


・厳選10句

卒業の兄と来てゐる堤かな
たはれ男の口笛過ぎぬ春の月 (たはれ…色恋に耽る。戯れるの意味)
麦車馬に遅れて動き出づ
向日葵の蕊を見るとき海消えし (蕊…しべ)
大雨となりゐし真夜の蚊帳かな
新涼の家こぼち焚く煙かな
(仙台につく。途はるかなる伊予の国をおもへば)あなたなる夜雨の葛のあなたかな
かの窓のかの夜長星ひかりいづ
八つどきの助炭に日さす時雨かな
一片のパセリ掃かるる暖炉かな

・作者略歴

芝不器男(しばふきお)。俳人。愛媛県生まれ。旧制松山高校を経て東京帝国大学林学科に入り、さらに東北帝国大学機械工学科に転じたが中退。1923年(大正12)郷里の句会に誘われたのが句作の最初で、吉岡禅寺洞(ぜんじどう)の『天の川』、翌年から『ホトトギス』に投句し、万葉語を駆使した叙情味豊かな青春の句により新進作家として知られた。28年(昭和3)結婚後は作句少なく、肉腫を病んで28歳で没した。没後『不器男句集』(1934)が刊行された。「不器男」の命名は『論語』の「子曰、君子不器」(子曰く、君子は器ならず)による。(日本大百科全書参照)

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