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【選は上手いものではなく、偉大なものを】俳句的を読んで(1章-4のまとめ)

 引き続き、「思考の整理学」の著者、外山滋比古先生の「俳句的」のまとめである。今回は1章4項「枯れ」についてまとめていきたい。この章も大変読みごたえがあった。

・俳句や短歌は詩なのか(P19-20)

 すべての芸術活動のうちで、詩がもっとも早く完成に到達することも注目される。中でも叙情詩が早く成熟する。純粋なものほど結晶も早いということを意味するのであろうか。詩は青春の花である。老いたる詩人とは冬の花と言うのと同じくらい自然ではないことである。ところが、われわれには、元来、詩は円熟した人間を背景にしていっそう美しさが増すものであるように感じられている。老いた詩人は若い詩人に劣らず、あるいは、それ以上に華やかな存在であり得る。少なくとも俳句、短歌と短詩型文学においては、円熟した作者は若い作家にないものを持っていることを承認している。ヨーロッパ流の芸術心理学が、叙情詩を最も早く完成すると主張してみても、現にそうでない叙情詩の伝統があるのだからいたしかたがない。どうしても外国の詩観の顔を立てたいなら、和歌、俳句をいわゆる詩から外せば良い

・日本に何千行という詩が育たなかったわけ(P21)

 君たち(西洋の詩学)は煉瓦を積んで建物を作るようにして詩もつくる。大きいことは偉大でいいことである。ところが、われわれ(東洋)の詩は大きな岩石から彫刻をつけるような方法で詩をつくる。不要なところは削り落す。ぎりぎりの所まで捨てて、これだけはなくてはならないというところが詩になる。われわれの文学史に何千行とか何百行という詩が育たなかったわけである。

・詩に「形容詞」は不要(P22)

 詩ではないが、古い民話、伝説などがほとんど形容詞を欠いた表現になっているのが思い合わされる。花は「赤い花」「美しい花」ではなくて、ただ「花」でよい。そのきびしい抑制がかえってわれわれの心を打つ。長い歳月の間を伝承されていることはそれだけ風化の進んだ表現ということになる。そういう言葉には余計な修飾や色彩はかえって邪魔になる。短詩型文学はひと口に諳んじることができる。千ページの小説では舌頭に千転させること、読書百篇に及ぶことは困難であるが、十七音ならなんでもない。つまり現代においていち早くクラッシックになり得るのである。同時代においてクラッシックであるためには、移ろう色はあらかじめ除いておかなくてはならないが、そういう諦観を若い詩人に求めるのは酷である。解脱は技巧ではなくて人間だからである。

・「生」の感情は時の試練に耐えられない(P23)

 第一人称の重要な言語における叙情詩はどうしても吼えるような調子になりやすい。おれが、おれがという詩である。ところが第一人称をなるべくあらわにしない言葉を使って生活しているわれわれの詩はまず表面的な自我をいかに殺すかが重要な課題である。主観丸出しでは月並みにもならない。自分を押しつけては相手に失礼である。控え目に、そっと語りかけるのが床しい。いかなる大工も生木で家を建てることはしない。かならず枯らした木材を使う。生木はかならずヒズミが来る。ナマな感情や主観を詩にするのはいわばは生木の家を建てるようなもので、時の試練に耐えられないのは明らかである。

(中略)

(故に)俳人に老作家が多いことは当然であり、むしろ、誇るべき伝統であるとしてよい。問題はその伝統にあぐらをかいて、妙にものほしげな枯れ方をしていることがないかどうかである。

・詩の「うまい」と「偉大」は別物(P24)

 書も詩も、うまいのと偉大なのとは、すこし違う。うまいかうまくないかはいわゆる芸術の問題だが、偉大で素晴らしいかどうかは、それを作った人の人間とそれを見る人の人間との間で決まる。超芸術である

・俳句は抑情の詩(P25)

 俳句は叙情の詩ではなくて、抑情の詩だというべきである。この詩学がよく理解されていないのは残念というほかない。われわれの社会は青春のロマンティシズムによって立っているから、その逆の原理に人々の注意が向かないのである。

・ちょこっと解説

短詩型文学は原作者の思いがけないコンテクスト(文脈、前後関係)で鑑賞されることがある。

それゆえ余計の修飾や表現は、原作者の表現の根幹を見誤らせることになりやすい。蛇足なことはしないに限る。

高浜虚子が第二芸術論についての見解を求められたとき「俳句もついに芸術になりましたか」といって、ろくに取り合わなかっという逸話を思い出した。

第二芸術論はまさしく「西洋の詩観」の発想である。個人的には俳句にも詩性がなくてはならないと思うが、詩的であり過ぎるというのも、また俳句が俳句ではなくなる危険性を孕んでいるということなのだろう。肝に銘じておく。

注、第二芸術論については以前、1-2章「封建的」に詳しくまとめた。興味のある方はご一読いただければと思う。

・「俳句的」過去のまとめ記事


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