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初めての学生たちの卒論を初めて論文にした

冬ですね。前回のnoteは6月に書いたので、半年も放置してしまいました。


大学は、卒論シーズン。学位論文の締め切りは卒論→修論→博論といった順で迫ってくることが多いでしょうか。博士課程生までたくさん担当している先生は大変な時期なのです。

うちの学部は、昨年度まで年明けだった卒論締め切りが、今年度から年末となりましました。新カリキュラムの学生を送り出す、最初の年度なのです(いわゆる完成年度)。実験室でも、本気で取り組んで疲れ果ててるラボメンが目立つようになりましたね。一方で、本当の本気とは、直前で慌てない計画性のことを言うのですが。


とは言え、今年のラボメンの4年生は全員、締め切り1日前に提出することが出来ました。このメンバは、僕にとっては3期目の卒論生です。


ところで、1期生と2期生の卒論の内容を合わせて投稿した論文が昨日公開されました。

スクリーンショット 2020-12-24 5.42.11

https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.201529


学生と研究を進めるのは面白い

僕は、自分の大学院時代の研究があまりうまくいかなかったので、その分、多少苦しい内容の研究結果であってもだいたい論文化することはできるという自信があります(もちろんハイランクのジャーナルに通せるという話ではない)。それでも、今回の内容を、1人の卒論の内容だけで論文化することはなかなか難しかっただろうと感じています。2人の結果が合わさって、良さが生まれました。

1期生は2人いて、そのうちの1人で今回の論文の著者である冨田さんとは、3年生の当初はもっと違うテーマの研究を予定していたのですが、獲得研究費が足りなかったり時間的制約などもあり、今回のテーマになりました。

うちの研究室ではマウスの音声コミュニケーションを研究していて、そのコミュニケーションは雄から雌への求愛発声や、仔から母への声などが知られていますが、雌同士の声というものもあり、この雌の声を卒論のテーマにしてもらいました。現在も、雌–雌の声を研究に含んでいる論文は発表されていますが、どれもその声の音響特性を記載しているというだけで(実直で必要なことではありますが)、生物学的な機能を考察するに至るような研究はほぼ存在しないと言って良い状況です。つまり、雌は、なぜ雌に対して鳴いているのか? 声を聴いた側の雌にどのような作用があるのか? 鳴いているときの個体はどのような状態なのか?(何が表出されているのか、もしくはどんな個体が良く鳴くのか)、一切不明です。

この雌の発声に関し、唯一機能的意義を探るヒントとなる研究は、D'AmatoとMolesの以下の研究です(もう一報、同じグループからこれに続く研究も発表されています)。

この研究により、雌マウスの発声は、見知った個体の雌よりも、新規個体と出会った際に多く発っせられることがわかりました。少なくとも、個体の記憶が反映されていることがわかります。

ただし、この見知った個体というは、極めて実験心理学的な状況のfamiliar個体で、数分間の実験を連続して行う際に、最初の実験で数分間会ったことがあるという程度のもので、対して「知り合い」でもないのです。順化–脱順化実験と近い現象を見ていることになりそうです(詳しい人向け、本文も参照のこと)。

そこで、冨田さんと僕は、離乳後ずっと一緒に住んでいた個体と、見知らぬ新規個体と出会った際の発声を調べることしました。狙いとしては、慣れ親しんだ個体に多く発声を示すならば、この声は親和性を表すと言えるだろうとういもので、一方、対して知らない個体同士ではより新規の個体と出会った際に発声があるというのは、人間で言えばせいぜいご「挨拶をしている」ような状態だといえるのではないかと考えたのです(今後そのような仮説で考えていくための筋道をつけるという程度ですが)。

ところが、結果は期待と反対で、D'Amatoらの結果と同様、雌は新規個体に対して多くの発声を示しました。


翌年、僕の研究室に入ってきた佐々木さんは(この学年は1人だけのラボメン)、最初は「嫉妬の研究がしたい」と言っていたました。ちょっとマウスで嫉妬を調べるのは面白いけど卒論の期間で終わらなそうなので、浮気心を調べるのはどうか?と提案しました。雄から雌への発声は、性的動機づけの強さの現れなので、この声の多さを、つがいの雌と会った際と新規雌とあった際とで比べてみようということになりました。昔から、クーリッジ効果というものが知られているので、雄は新しい雌に会わせた方が盛り上がるだろうと予想していました。

ところが、これも結果は反対で、つがいの雌に対して多く鳴くという結果が得られ「なんか、ええ話やん(嫉妬の研究にはならなかったけど)」ということになったわけです。

しかし、冨田さんの雌の結果と比べると、似たような実験デザインの下で、「雌は新規個体に多く発声し、雄は親密個体に多く発声する」という真逆の傾向が見られるという風に解釈できるので(これが今回の論文タイトルです)、それはそれで面白いかもしれないということで、佐々木さんに少し実験条件を増やして冨田さんの結果と比較できる状態にしてもらい、論文投稿することにしました。


とにかく僕らは書かなければならない

昨年は、10月からnoteを書いていました。とにかく書くという習慣をつけようと思い立ったからです。今年の元旦にその3ヶ月で書いた字数を数えたら合計11万字になっており、新書1冊分くらいは何かしら書けてしまったと気付いたわけです。その時に書いたnoteが以下ですね。


大学で安定職を得られたのは良かったものの、日々の授業や学務により、データは溜まっているのに全く論文を出せない状態に陥ってしまいました。そこで読んだのが以下の本で。

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000147753

たくさん論文を書くコツは、書くための時間を必ず日々確保するというもので、たとえそれが1hでも良いというような話が、永遠書いてあります。逆に、そこさえ死守すれば必ず書けるし、そこすらも守れなければ書けない研究者になってしまうということが説得的に書かれています。また、いつもの繰り返しですが、森博嗣も常に同様のことを言っています(多作です)。

今年度は、そのような書く習慣をつけると決めた年でした。初めて学部生の卒論を論文化して、初めての Last author 論文でもあるので、感慨深いです。原稿の最終判断も僕が1人で行ったので(これまではボスがいた)、こんな感じで最低限やっていけるだろうという確証が持てました。

今年の4年生もデータをたくさん出してくれたし、1期生のテーマを引き継いだラボメンもいるので、今後もコンスタントに、できればたくさん論文を発表していきたいと思う次第。

自分のポスドク時代のデータもたまっているのです。にもかかわらず、新しい実験もどんどん始めています。とにかく日々書かなければならない。


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