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自治体の人事異動に「対話」を持ち込みませんか?という話

職員から見たら「配属ガチャ」とでも言いたくなるような自治体人事。風通しの悪い組織風土。多くの自治体職員が抱えている悩みを第一線で活躍する人達にぶつけたら、どんな答えが返ってくるだろう。そんな期待を胸に「Summit by Where」に企画を持ち込みました。

首長、起業家、自治体職員、民間企業、立場を超えて地域に関わる総勢50名が登壇するこのイベント。私は「幸福度を高める働き方と地域の関係性」というセッションで、ユニリーバの島田さん、あわえの吉田さん、ヤフーの鈴木さんとトークをすることに。僕が熱望した「地域を支える自治体職員が、やりがいを持って楽しく働くためには?」をトークテーマとして加えていただきました。

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島田さん・吉田さんのお話が示唆に富み過ぎていて、とてもnoteで表現しきれません。動画がアーカイブされるのかわかりませんが、もしアーカイブされたらぜひ生の声を聴いていただきたい。

この記事では、勝手ながら自治体職員を代表するつもりで参戦した私がお二人とさせていただいたトークの中から、自治体の「人事」と「組織風土」に関するインスピレーションを紹介します。まずは人事について。

組織の問題の前に、まずは自分の生き方=命の使い方に向き合う

島田さんは大前提として、「自分自身に目を向けて欲しい」と言います。組織や誰かのせいではなく、自分がなぜその仕事を選び、何を成し遂げたいのか。自分の根源的な思いに従って生きることが大切であると。それは働き方という次元の問題ではなく、生き方の問題。私たちは「1秒ずつ死んでいっている」。その中で何に自分の命を使うのか。

この訴えには、背筋が伸びた人も多かったと思います。組織を云々言う前に、自分の「命を使う」という覚悟を持って日々に向き合うことの大切さを私も改めて心に刻みました。

自治体職員として生きる人の前に、立ちはだかる「異動」の問題

「自治体職員として市民のために力を発揮したい」という熱い思いを持った職員を、僕自身は多く知っています。一方で、自治体においては3~5年に1度のジョブローテーションがありますが、自分の希望が通るケースは少なく、主体的にキャリアをデザインするのが難しいです。

言い換えれば、「自治体職員として市民サービスを良くすることに命を使おう」と決意した人に対し、「貴方の仕事はこちらで勝手に決めさせてもらいます」という関係性。対等からは程遠いですね。家来かよと思ってしまう。

近年は自治体から民間に転職する人が増えていますが、その背景には組織と個人のフラットではない関係があるのではないでしょうか。

でも、民間企業でも個人の希望と仕事のミスマッチはあるはずでは?

自治体の人事はあまりに機械的な気がするものの、民間企業だって社員個人がやりたい仕事と会社がやって欲しい仕事がマッチしないケースはあるはず。「だとすれば、高いチームワークと社員の幸福度を両立している会社は、どうやってこの問題を乗り越えているの?」という質問を島田さんに投げかけました。

多くの視聴者が注目したであろう島田さんの答えは「対話」でした。徹底的に社員1人1人と向き合って聴くこと、話すこと。働き方に関する希望、実現したいキャリア、それらは100人100通りです。会社の都合を押し付けるのではなく、対話を通じて一緒に決めていくことで「納得」を作っていく。そのプロセスが重要と島田さんは言います。

「対話」「納得」というキーワードを聞いたとき、自治体人事に無いものはこれだ!と腹落ちしました。役所における異動は、転職に匹敵するほど業務内容が大きく変わります。にも拘わらず、対話を通じて決めるプロセスは無く、3月の中旬か下旬に「4月からこの部署でヨロシク!」と一方的に通知されるのみ。なぜ自分がその部署になったの?そんな疑問を差し挟む余地もありません。

無いのなら、「対話ありきの人事プロセス」を作れば良いのでは?

「自治体の異動プロセスに対話がないから、納得もない。だとすれば、対話から出発する形にプロセスそのものを組み替えられないだろうか」というのが皆さんと一緒に考えたいことです。以下はざっと私自身が思うこと。異動担当の実務経験は無いので現実を踏まえていない点があるかもしれませんが、議論の叩き台くらいのノリで書いてみます。

■強制ジョブローテーション→自発的な意思に基づくキャリア選択へ

そもそも論ですが、ジョブローテーションって意味はあるんでしょうか?癒着防止とゼネラリスト育成がよく聞く理由ですが、どちらも合理性を欠いているように感じます。まず癒着を防ぐという目的に対して、せっかくスキルを培った職員を違う部署に移すという手段は結構な暴挙です。組織全体のパフォーマンスを下げる行為で、デメリットの方が遥かに大きいよなーと常々思います。

次にゼネラリスト育成ですが、「色んな部署を強制的にローテーションさせる=幅広い視野を持った職員の育成になる」というのも役所都合の解釈が過ぎる気がします。私が働いているサイボウズの場合、「体験入部」という制度があり、他部署の業務を期間限定で体験できるようになっています。体験入部を通じて実際に働きたくなったら、異動希望を出すことも、兼務希望を出すこともできる。という具合です。サイボウズには営業と広報、開発と法務など、様々なバリエーションで兼務をしているメンバーがいます。すべてメンバーの自発的な意思と、マネージャーとの対話に基づいています。つまり、人事から強制ジョブローテーションなどされずとも、幅広い経験をして知見を得ていくことは可能だということです。

(ちょっと脱線しますが)このように突き詰めて考えていくと、役所にジョブローテーションが存在する本当の理由は、部署ごとの「人気の差」が「人員の差」にならないようにするためなんじゃないかと思えてきます。

例えば、「観光課」は業務のイメージも付きやすく人気もありそうです。一方で、「監査委員事務局」は一体何をしているのかわからない人が多そうです。この2つを並べて職員募集をかけたら、観光課の方が人を集めやすく、監査委員事務局は苦戦しそうなイメージがあります。でも、どちらも役所にとっては必要な仕事。監査委員事務局を無くすことはできません。

ジョブローテーションをやめるとしたら、「各部署がどうやって職員を獲得するか」が向き合うべき課題になりそうです。フランスは部署ごとに採用活動を行っているので参考にしながら考えられそう。長くなるので割愛しますが、気になる方はこちらの記事をご覧ください。(脱線おわり)

言いたいことは、強制ジョブローテーションありきではなく、「自発的な意思に基づく人事異動」を出発点にできないか?ということです。

■人事が決める→当事者で決めるへ

当事者不在の中、人事課が密室で職員の異動について話し合い、決める。この慣行は対話の対極にあります。職員本人、現在の上司、異動希望先の上司が対話して、3者が納得した上で異動が決まる。人事課はその合意に基づいて異動事務を処理する。そんなプロセスに思い切って変えることはできないでしょうか?

■一斉異動→随時異動へ

多くの自治体では4月1日に一斉に人事異動が行われますが、4月異動にこだわる理由って何なんでしょう。ただでさえ採用や退職に関する事務で人事が忙しい年度末に異動まで集中させていたら、とても職員と向き合って対話なんてしていられません。対話ありきにするなら、「いつでもキャリアに関する対話を気軽に開始でき、(関係者が合意すれば)いつでも異動ができる」そんな柔軟な運用にした方が、関係者全員にとってヘルシーですね。

...と殴り書きのようにつらつらと書きましたが、以上がざっと思うところ。自治体職員の方々と引き続きディスカッションしながら、言語化と整理が進んだら改めてnoteに書いてみたいと思います。

自治体で働く人の幸福度を高めるために

SUMMIT by Whereのセッション終了後、その熱量のまま4時間くらいで一気に書き上げて記事の公開に至りました。それくらい、自治体人事に「対話」という人間らしいプロセスが組み込まれたら、働く人の幸福度は高まるという確信を持ったセッションでした。

実務的な部分でクリアしなくてはならない問題も山ほど出てくるはずですが、「小さくトライして失敗したら変えればいい」という精神で改善し続けることが大切。

このセッションで島田さんから多くの方がインスピレーションを得たと思いますが、その刺激を一過性のものにしたら勿体ないですよね。「対話ありきの自治体人事」について、継続的かつオープンに皆さんと議論をしていけたら嬉しいです。

最後に、素晴らしい示唆をいただいた島田さん、ありがとうございました!

次回のnoteでは、吉田さんとトークした役所の組織風土・カルチャーに関するトピックを綴っていきます。こちらも気付き・学びに溢れる内容でしたので、ぜひまたお付き合いいただけたら幸いです。

私のノートをお読みいただき、ありがとうございます!