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ミライのキャリア 第2章 働く集団の特性を知ろう

この文章は、ミライのキャリア#5”ラインとスタッフ”〜#12”日本の7割!中小企業”を加筆し再構成したものです。
 

(1)組織の仕組み〜ラインとスタッフ〜


【えりな】今回は、ラインとスタッフの話です。ラインって、LINE、ですか?
 
【ホリデー】スタッフは、「スタッフ〜!スタッフ〜!」のスタッフ?
 
【えりな】ふるっ!ふるっ!ホリデーさん、古い!
 
【ホリデー】古い、ってわかるってことはえりなちゃんも知ってるんじゃん。で、えーと、キャリアの中でのラインとスタッフ、うーん、全然想像つきません。かおる先生、教えてください!
 
【Caol】ラインとスタッフとは組織の形の話。この章では、そんな「組織」についての話です。
 
【ホリデー】あ〜。組織。最近、組織について悩むこと多いです。うちは小さなデザイン事務所で社員も数名だけど、それでも組織って難しいなあ、って思います。
 
【えりな】確かに!完全に一人で働いて仕事が完結することって珍しいですよね。
 
【Caol】そうなんです。仕事をする上で、キャリアを考える上で、「組織」を考えることは避けて通れないんです。組織がどうなっているのか、という見方はいろいろあるのですが、今回はそのうちラインとスタッフという見方の話をします。
 

ラインとスタッフとは?


【えりな】なるほど。で、ラインとスタッフってなんですか?
 
【Caol】ラインとスタッフというのは、フランス革命後の近代国家でできた組織の考え方。日本だと明治時代からの古い組織論、ということもできるが、いまだにこの仕組みでやっているところがあります。
 
【えりな】ほほ〜、なるほど。組織の見方、という意味がやっとわかりました。
 
【Caol】ラインは業務を遂行する人で、上下関係があり、命令する人、される人という階層がある指揮系統のこと。ヒエラルキーというピラミッド形の階層構造があるものです。
 スタッフは専門家としてラインの人をサポートするが、ラインの指揮権限はない人。あとスタッフ同士での上下関係はない。もともとは軍隊の言葉でスタッフは参謀、司令官の判断をサポートする役割。
 
【えりな】上下関係がある方がラインで、平等なほうがスタッフ?って捉え方であってます?
 

法務省という組織


【Caol】軍隊だと、将軍の命令を聞く人、イコール兵隊がライン。将軍の判断を支える参謀、例えば諸葛孔明のような人がスタッフ。で、日本に限らず行政機関、官僚という組織は、働き方といい、役割といい軍隊そのもの。で、これから私が話すのは、法務省という極端にライン機能に偏った組織の話です。
 
【えりな】おお〜。そういえば、国家公務員の世界って、知っているようで知らない世界!
 
【Caol】私が居た法務省はガチガチのライン形の典型の組織です。軍のような組織体型、仕事のやり方をするところでした。私が勤務したことはないのですが、本省には官房という組織があり、これが軍隊で言う参謀。法務大臣を支える仕事をするところでした。官房はスタッフですね。
 
【えりな】やっぱりそうなんですね!!
 

公務員の仕組み“級と号”

 
【Caol】で、法務省に限らず全ての国家公務員には、級と号というランクがあります。級はライン上での階級を表すもの。1級からはじまり10級まであります。法務省の矯正局というところでは、課長級になるには、○級、部長級になるには○級、とか、刑務所などの施設長になるのは○級の人、という規定がある。戦艦の艦長になれるのは大佐、という軍隊の階級と全く一緒。
 
【ホリデー】おおお、厳格なピラミッド組織。
 
【Caol】で、級とはべつに、号、というものがあって、それは給料の額を規定するもの。1級の1号俸、と表現。数字が大きくなると年棒が上がる。
 高校卒の試験で刑務官になった人などは、級は上がらないが、長く務めると、号が上がる。10級だと21号棒までだが、2級だと125号俸まである。刑務所などの組織では、ベテランで同じ刑務所に長く勤めている看守が仕事をよく知っている、ということがある。こういう人はライン上の階級は上がらないが、年俸で報いる、という制度になっている。級と号は俸級表というものに定められていて、人事院のページで誰でも見ることができます。
 
【えりな】まずこのかおる先生が法務省の人だったという!かっこいいな~。なるほど。階級が下でも給料が上、ってこともありうるんですね。
 
【Caol】そうです。で、級が上の者は下の者に命令ができる。級が一緒だったら「先任指揮権」といって、先にその職になったものが後からなった人に命令ができる、となっています。
 
【ホリデー】指揮系統がかなり厳密なんですね!完全に軍隊だ〜!民間企業でも課長なり部長なり、もちろんヒエラルキーはあるんだけど、厳密さが全然違う気がする。
 
【Caol】そう。私がいた刑務所では所長不在の際には、5人いる部長にもランクがあって上位者がいないときに全体の指揮を執るのがだれか、という順番が決まっていました。
 
【ホリデー】うわ〜。多分、僕、向いてない。
 

技官の仕事


【Caol】で、私がやっていたのは技官という仕事。技官とは公務員のうち、専門性が高い技術を扱う職のこと。厚生労働省には医師の資格を持つ厚生労働技官、国土交通省には土木の専門家である技官がいます。私の名刺には「調査専門官(心理)」という肩書きになっていました。この技官になるには、法務専門職員採用試験という専門職での試験が必要。試験を受けるには大学院修士修了以上の学歴が必要な試験になります。
 
【ホリデー】僕、広告代理店ではアートディレクターっていう特殊専門職だったんですが、そういうことですかね。
 
【Caol】専門職になる入口、必要な学歴が決まっている、という点ではそのとおり。国家公務員の専門職は高度な専門家で、受験資格も大学院修士か博士が必要など、ハードルがたかいんですよ。でもね、技官ってね、いわゆるノンキャリアってやつなんです。官僚として出世しない、さっきの話だと級があんまりあがらない、というポジション。
 
【ホリデー】ああ〜。なんか職人ってことですね。特殊スキル一筋で、人の上には立たない、的な。
 
【Caol】そうそう、特殊スキルしか使わない人。
で、国家公務員総合職、昔の国家1種試験で入った人がキャリアという官僚として出世できて、事務次官になる可能性がある人。
実際には、入省してから高等科試験というものを受けてノンキャリアからキャリアにあるということもあるのだがややこしくなるので省略。ノンキャリアの専門職でも、スタッフとして必要、となると本省に転勤になって、ということもある。大半は技官が必要な施設、法務省矯正局だと、鑑別所とか刑務所に勤務することになります。
 念のため、このキャリアとノンキャリアというのは省ごとに大きく異なります。法務省だと事務次官や局長など主要なポストは検察官がつくことになっていて、国家公務員総合職で法務省に入った人はこういうポストにはつけないことになっています。
 
【ホリデー】なんか、あれだ。踊る大捜査線、みたいな話になってきましたね!青島と、室井さんみたいなやつだ!
 
【えりな】とりあえずすごいということはわかりました。なになに省ごとに専門家がいるんですね!その法務省の心理の専門家だったわけだ。
 
【Caol】そうです。法務省の矯正局というところが管理運営しているのが刑務所で、刑務所の調査専門官というのは、刑が確定した受刑者を調べてどこの刑務所に送るか、刑務所で何をさせるか、あと、社会復帰の可能性などを査定する仕事。
 
【ホリデー】なんとなくは知っていたけど、改めてそう話されると、すごい仕事だよね!!
 

刑務所の法務技官


 【Caol】刑務所では、国家権力を行使している、という実感はバリバリにあって、当時の私は大学院を修了して数年の20歳代、なのに、調査のためなら県警の警部で、私より年上のベテラン刑事さんをいつでも呼び出せました。もちろん電話ですけど。で、担当する受刑者は私の一存でどこにでも送れる。
 
【ホリデー】か、かっこええ。
 
【Caol】もちろん個人の判断だけで暴走しないように、法務省では「根拠」と言う言葉がしょっちゅう出てきました。これはエビデンスという意味ではなく、判断や指示の根拠となる法律を示せ、という意味。ここでの法律というのは、六法全書に書いてある法律だけでなく、法務省の省令や矯正局長の指示なども含みます。こういう根拠が書いてあるのが赤六法という法務省内部で使う仕事用の六法全書と、キングジムのファイルにとじられた指示の文書。
 
【えりな】もう、全て頭が良さそう。
 

省庁の会議=シン・ゴジラ


【Caol】シンゴジラという映画の会議のシーンで出てきた青いファイルがそう。
 
【ホリデー】あああ〜!もうめっちゃわかりました!あの世界かあ。観る分には面白いんだけど、中にいると大変そう。
 
【Caol】会議だと統括(係長に当たる人)や首席(課長に当たる人)に「その判断の根拠は?」と聞かれて、「分類級規定の6の5の2『反社会組織の構成員でない場合』の判定基準です(この省令は架空です)」と何も見ないですぐに答えられなければいけない。さすがに聞かれそうな根拠は会議前にメモ作りましたけどね。
 なんでこんな話をしているかというと、ディティールに仕事の本質が現れるだろう、と思うからです。法務技官のうち、調査専門官(心理)の仕事というのは、心理調査の専門家で、専門性も高い仕事ですが、行政の人として、細かい法律の話とか、あと作成した文書は全て公文書となるので、文字の全角半角とかインテンドの幅とか全てチェックされるよ。といった専門とは無縁に思える細かいことに気を遣う仕事ですね。
 
【えりな】うんうん、ぶっちゃけ固くて根拠が必要で発言は文書になって細かくて…ってイメージ通り。ここからこの仕事の本質が見えるんですね。
 

律令制から変わらない官僚と公文書


【Caol】余談だけど、奈良時代の律令制の本を読んでいたら、このころと現代の官僚、だいぶ似ているんですよね。官僚に従三位、とか正五位下、とか位により職位が決まっていて正一位じゃないと太政大臣になれない、とか。文書がすべて国家の命令だからほんとにこまかい言い回しにこだわるとか、ある意味1400年以上変わっていないかもしれない。
 
【ホリデー】もう、絶対に僕には、一ミリも無理な世界だ。ライン組織、無理。かおる先生はそれ、得意だったんですね。
 
【Caol】いや、できるからやっていたけど、やっていてちっとも面白くないし、得意とも思えなかったので、トータル2年で辞めましたね。フルタイムのポジションでは。で辞める頃に法律が変わり、受刑者には心理治療が必要、となったので、やめた後は、パートタイムで受刑者個人のカウンセリングや、グループカウンセリングなどを担当していました。
 

8つのキャリアアンカーから見た法務技官と法務省総合職


【Caol】8つのキャリアアンカーの視点から、法務技官と法務省の総合職の仕事を評価してみますね。
 
・特定専門分野・機能別能力
 技官だとある。総合職だと特定の専門、とはならない。
・一般管理能力
 総合職で級が上がると管理職となるので総合職にはある。
・自立・独立
 ほとんどない。
・保障・安定
 これはとてもある。
 ・起業家的創造性
 まったくない。
・純粋な挑戦
 ほとんど、あるいはまったくない。
・奉仕・社会献身
 直接感じることは少ないが、とてもあるはず。ただ医療や介護などの仕事のようにクライアントに直接感謝される、ということはまったくない。働く人の想像力次第。
・生活様式
 ワークライフバランスというものは、いまひとつない。刑務所などの勤務になると、非常招集と言って緊急事態の時にいつでもどこからでも招集されて仕事をしなければならない。あと、公安というポジションになるので、4時間以上の外出には上司の決裁が必要で、海外旅行には施設長の許可が必要、とだいぶ私生活に制約があります。
 ので、「奉仕・社会献身」について「誰にも感謝されないが私は日本の治安と安全を守っている」という想像力と使命感がなければつづけるのが難しい仕事ですね。
 

(2)文化と風土


【Caol】自分のキャリアを考える上で、組織を理解する、ってことが大事です。その組織らしさを見るのが「文化」と「風土」という見方です。
 
【えりな】文化、と、風土。もちろん意味はわかるのですが、割とおんなじような意味ですよね。どっちも「らしさ」みたいな。
 
【ホリデー】なんとなく言葉の持つニュアンスの違いはわかる気がするのだけど、それをちゃんと説明しろ、って言われると、そういえばちゃんと考えたことなかったなあ。
 
【Caol】そうそう。でも、ここをちゃんと分けて考えられるようになることが大事なのですよ。
 結論から言うと、文化は言葉でわかったり、オフィスを見て分かったりする、けど風土というのは、見聞きしづらい。でも組織の働きやすさを決めるのは風土のほう。なので、組織の「風土」を理解することが自分のキャリアを考える上でもとっても大事なのですよ。
 
【えりな】おお〜!なるほど!分かる気がする。じゃあ、組織の「風土」をどうやったら理解することができるのか、ぜひ教えてください!
 
【Caol】分かりました。と、言いつつ、風土と文化の違いをしっかり説明するところからお話ししたいと思います。
 まず文化の話。そもそも文化というのは、人類学で研究されてきた概念で、ある集団を構成するメンバーによって共有された考え方、慣習や規則のこと」心理学の研究では、「異なる文化は、異なる環境に人々が適応する過程で生まれる」という視点から、文化の違いと環境の違いの関係を定量化することに努めてきました。
 
【えりな】えーと、文化の違い、と、環境の違い。
 
【Caol】どういうことかというと、環境が違っていると、その環境に合わせようと人間集団は努力します。今いるところの環境に合わせたやり方が「文化」で、環境が違うと、文化も異なってくる。例えば、すごく寒いところに合わせた生活の仕方と、熱いところの生活の仕方は違っているよね。この違いは個人だけでなく、集団を比較しても存在します。で、集団内では先輩が後輩に「こうすると寒くない」という生活の知恵を言葉で伝えるよね。
 
【ホリデー】うんうん、なるほど。雪国の人たちって、雪に対するボキャブラリーも多かったりしますけど、南国の人からすると雪は雪ですもんね。言語レベルで文化が違うってことが起こってきますよね。
 
【Caol】そうそう、私は東北出身なのですが、例えば、雪をかき分けて歩くことを「こぐ」と言いますが、雪のない地方だとこの言い方そのものがないですよね。
 
【ホリデー】へ〜!そうなのですね!
 
【えりな】海の近い私からしたら、こぐ、って言ったらボートかサーフィンですもんね。
 
【Caol】あと「ゆきはな」という言葉もあって、これは晴れているのに粉雪がちょっと舞っている天気のこと。
 
【ホリデー】なんか美しいなあ。かおる先生のくせに叙情的だ。
 

組織文化を読み解くポイント


【Caol】で、話を戻すと、組織の文化、理解のポイントは、文化というのは慣習や規則である、=誰かが言ったことや、文書に書かれているもの。言葉で読み解くことができるもので、見て分かるものもあります。
 キャリア・アンカーの話で出てきた、E.H.シャインは、組織文化の研究もしていて、ある特定の組織が、どのような組織文化を持つか、読み解くポイントは
①文物、②価値観、③メンバーが持っている前提
の3つがあります。
 
【えりな】うんうん。①文物、②価値観、③メンバーが持っている前提、ですね。
 
【Caol】第1の文物とは、オフィスのドアの有無、オフィスの机に仕切りがあるか、といった、目に見えるレベルのもの。
 第2の価値観とはドアをなくすとか、仕切りをなくするということによって目指すこと、つまり文物の元になっているオープンで自由に議論することを大切にする価値観という文物の背後にある考え方のこと。
 第3のメンバーが持っている前提とは、特定の集団に10年、20年と勤めていたら、もはや当然と思い込み、疑うことがなくなってしまっている発想法や前提、仮説などのこと。
 企業の文化というのは、行動指針や創業者の言葉、今、リーダーシップをとっている人の言葉から、うかがうことができる。
 言葉の他に見て分かるものもあります。というのが文物というもので、これはオフィスを見るだけでも分かります。刑務所だと、ライン上の上位者の机が大きく、オフィス全体を見ることができるようになっています。階級が机の大きさや位置で見て分かるようになっているのですね。
 
【えりな】なるほど〜。
 

組織の風土


【Caol】で、ここからが大事な「組織の風土」の話になるのですが、
 組織風土というのは、組織文化のうちメンバーの価値観から醸し出される共通の価値観と仕事の進め方、メンバー同士のコミュニケーションの取り方や、関係性ですね。こちらは、明文化されておらず、言葉で説明するのが難しいもの。
 
【ホリデー】「醸し出される」ってところがポイントなのですかね。醸し出されているから、明文化されてない、ってことですね。
 
【Caol】そうそう、その集団にいる人は、「そうするのが当たり前だ」と思っているが、なぜそうするのかがいまいち分っていない、とか、コミュニケーションの取り方が外から見ると変わっているのだけど、中にいる人はあたりまえ、と思っていることなどですね。
 
【ホリデー】あ〜。僕も某広告代理店にいた時には「当たり前だ」ってことが色々あったのだろうなあ。20年近く働いて染み付いたものって色々ありそうだし、今でも気づいてないこと結構ありそう。
 
【Caol】で、いい風土がある集団だと、働く人視点だと、コミュニケーションがとりやすい、とか、居心地がいいとか、数字で表すことができる業績以外のことを評価してくれる、なんてことがありそう。メンバー同士がフラット、なんてこともそう。まとめると、言葉で説明しなくても価値観を共有しているので、やりやすさを感じることが多い、となるかな。
 
【ホリデー】前に勤務していた企業は、ブラック企業のイメージの強い広告代理店でしたけど、僕としては、なんでも言いたいこと言えたし、年齢に関係なく良いアイデアを形にすることに協力しあっていたし、風通しよかったのですよね〜。えりなちゃんはどう?
 
【えりな】私のいた大手映像制作会社はミスの許されない厳しい風土で窮屈でしたね。「風通しのいい会社」ってよく聞きましたけど、これっていい風土アピールみたいなものなのかな?
 
【Caol】で、風土が悪い、とかウラがあるということもある。ミスに厳しい価値観の文化だと、ミスがばれないように行動する、とか、提案すると自分がやらなくてはならなくなるので黙っている、とか。これは創業者が「ミスしたものに責任を取らせる」と言っている=組織文化というわけではないのに、加点志向の価値観ではなく、減点志向の価値観だと、実際の風土はそうなっちゃうよね。
 
【ホリデー】ああ〜。なるほど。組織の風土でそういうことが起こっちゃう、ってのもめっちゃわかる気がする。
 

属人思考


 【Caol】で、この悪い組織風土の話なのだけど、社会心理学者の岡本浩一先生のチームが日本の組織を研究して「属人思考」というおそるべき風土を発見しました。これは「問題を把握し、解決するに当たって、事柄についての認知処理の比重が軽く、人についての認知処理の比重が高い」こと。
つまり、何があったか、というファクトの把握や、問題解決法の検討よりも、誰が言ったか、誰のためになるかのほうが優先される思考のことです。
 
【ホリデー】うわぁ、これはキツイ。本来、企業活動としてあるべき「成果を出す」ってことと関係ないですもんね。
 
【Caol】そうなのですよ。属人思考が強い組織では対人関係が濃くて、意見の賛成や反対が、対人関係とリンクされやすく、事柄を冷静に見られなくなる。岡本浩一先生の研究では、属人思考は企業の不祥事との関係が強いです。
 
【えりな】え〜。今時、そんな組織ってあります?
 
【ホリデー】いやあ、もちろんゼロヒャクの話じゃないけど、大なり小なり、そう言うのってやっぱりあるのだろうなあ。僕の会社のメインバンクとかが、そんなイメージです。
 
【Caol】そうそう、財閥系の電気を扱う企業とか。
 
【ホリデー】いや〜。きついわ。属人思考。
 
【Caol】で、特定の組織が、属人思考が強いかどうかをはかるチェックリストがあって、これは、
 
・相手の体面を重んじて、会議やミーティングで反対意見が表明されない。
・会議やミーティングでは同じ案でも誰が提案者かによってその案の通り方が異なることがある。
・トラブルが起きた場合、「原因が何か」よりも「誰の責任か」を優先する傾向がある。
・仕事ぶりよりも好き嫌いで人を評価する傾向がある。
・誰が頼んだかによって仕事の優先順位が決まることが多い。
 
【えりな】ヤダ。こんな組織で働きたくな〜い。こんなふうに整理してもらうと、ちょっと思い当たることがないわけではないですね、あるかも。こんな組織。
 
【ホリデー】え〜。なになに、何を思い浮かべているの?僕は今や経営者だから、もしかしたら自分自身がこうなってないか、気をつけないと、って背中寒くなっていますよ。
 
【Caol】ホリデーさん、ほんと、気をつけてくださいね。まず気を付けるポイントは社員の個人的な好き嫌いですね。業績というファクトで評価しているつもりが、無意識に好き嫌いが先にあってファクトを見ている、ということがあって、それが属人思考の始まりです。
 
【ホリデー】わ〜!これは胸が痛い。これは全ての管理職が胸に手を当てて、このことを考えた方がいいかもしれない。
 
【えりな】確かに。属人思考のチェックリストに「属人思考の話に興味がない」「自覚がない」っていれた方がいのじゃないですか?
 
【Caol】で、この属人思考が、自分が入った組織に見られたら、すみやかに逃げるか、自分が偉くなって変えるかどっちか。ただ、ボスの属人思考が強く、異動したら変わった、ということもあるし、組織全体が属人思考ということもあるので、見極めは必要。昔「就職したら3年は務めないと」と言われたのは、上司が異動する周期までいないと分からないことがあるから、というふうに理解することもできる。
 
【ホリデー】僕は経営者なので、僕の考え方が風土に大きい影響を及ぼすってことも自覚しなくちゃだし、逆に社員という立場だと、なかなか個人で組織の風土を変える、って難しいですよね。
 
【えりな】風土を作る根本が社長さんですもんね。逆に新入社員が3年いたところで会社の属人思考が変わるとは考えづらいし…社員は見極めもいるのは頷けます。
 
【Caol】私見ですが、この属人思考を防ぐ方法の一つがダイバーシティ、ですね。
 
【ホリデー】ほほー。ダイバーシティ。組織の中の多様性ってことですね。
 
【Caol】法務省というところは、意外にダイバーシティはあり、私、立場を変えて16年間刑務所に勤務しましたが、自分のボスに当たる課長級の管理職は全て女性でした。
 
【ホリデー】へ〜!なんか勝手に抱いていた法務省のイメージと全然違いますね!
 
【えりな】確かに意外!かおる先生すらも部下にして国を支えている…同じ女性として憧れちゃうな~
でも女性だったからよかった、ではなく、あくまでその人が広げてくれたダイバーシティがかおる先生にとって働きやすかったよってことなのですよね?
 
【Caol】そうですね。この首席という管理職についた女性は、例外なく、前任者のやりかたをそのまま受け入れることなく、今働いている部下をフラットに見ようとしていました。性別とは関係なくリーダーシップのあり方が異なっていたことと、これまでのことを一旦リセットしてファクトをちゃんと見よう、という姿勢がプラスに働いていたように思います。
 
【ホリデー】当たり前を疑う、と言う視点が大事、ってことですね。
 

(3)ダンバー数


【えりな】ダンバー数の話をする、ということですが、これってなんでしょう?
 
【Caol】一人の人が覚えていられる人数、これは顔と名前が一致して、どんな人か分かっていて、自分から話しかけられる人って何人ぐらいだとおもう?
 
【ホリデー】そうですねえ。50人〜100人くらいかなあ。
 
【えりな】考えたことなかったですね~私小学校のときから全校生徒の名前と保護者の顔覚えていましたよ。
 
【Caol】個人差は大きいですが、だいたい100〜250人の間に収まります。
 
【ホリデー】平均以下やった。
 

150人程度がダンバー数


【Caol】ダンバー数を見つけた人がロビン・ダンバーというイギリスの人類学者。ダンバーは、平均的な人間の脳の大きさを計算し、霊長類の結果から推定する事によって、人間が円滑に安定して維持できる関係は平均150人程度であるということを見つけました。
 ダンバー自身は、「もしあなたがバーで偶然出会って、その場で突然一緒に酒を飲むことになったとしても、気まずさを感じないような人達のことだ」と説明しています。
 
【ホリデー】え、偶然出会って飲むことになったら、大体気まずくないですか?
 
【えりな】え、私一人で飲みに行くんですけど、だいたい知り合いにいっぱい会うので、一人で飲むことほとんどないですよ
 
【ホリデー】なんだよそのリア充アピール!てか、ダンバーさんも相当コミュ力高いリア充の可能性あるね。
 
【Caol】想像ですけど、ダンバーさんイギリスの人なので、パブで会って相手の名前を言って「やあ!元気」くらいのあいさつができる人、なんじゃないかな。たぶん。仕事で付き合いのある人だったら、どこかで偶然会ったときに「お世話になっております」くらいいう人かな。日本だと。
 
【えりな】なるほど。じゃあそういう知り合いだと1000人いるんじゃないかな?
 
【Caol】このダンバー数、だいたい150人の集団というのは、お互いがお互いを知っていられる上限の人数。これは関係を維持することができるコミュニケーションがとれる人数と言うこと。
 類人猿、チンパンジーとかは、関係を維持するためにおたがいに毛繕いをするのですが、これだと20〜30人くらいしかお互いの関係を維持できない、ので、猿の集団はだいたいこのくらいの人数。
人は言葉でコミュニケーションすることで関係を維持できるので、もっと多く100〜250人になる。
 
【ホリデー】えりなちゃん、その5倍、えりな、恐ろしい子。
 
【Caol】例えば、高校の同級生って、何人いる?私は学年360名の大きな高校だったので、半分以上わからん。
 
【ホリデー】そういえば僕も同じくらいですね。確かに卒業アルバムとか見たらちゃんと思い出せるのかなあ、って感じ。
 
【えりな】田舎なので200人くらい?全員把握できる人数ってことですね。
 
【Caol】で、このダンバー数。人類学の他の研究では、部族(Tribe)はだいたいこの100〜250名になる、という報告もある。集団を大きくする工夫、たとえば拘束性のある規則や法規や強制的なノルマ、求心力のある教え、宗教とかがないとこれ以上の人数にはならない。
 
【ホリえり】なるほど〜。
 
【Caol】ダンバーは「この限界は、人の大脳新皮質の容量の直接的な作用で、新皮質の処理能力上の制限は、安定的な人間関係が維持される個体の数に直結する」と理論づけている。
 
【えりな】脳に規定されているんだ〜!脳科学的なことなんですね!
 
【Caol】ダンバー数よりももっと多くの人を覚えているよ、コミュニケーションとっているよ、と言う人もいますが、それは人とともに時間や場所と結びつけて覚えていること。ダンバーも、ダンバー数の境界部分には、高校時代の友人など、もし再会すればすぐに交友関係が結ばれるであろう過去の同僚が含まれる。と言っています。こういう人も合わせると数百数千人になりますが、毎週会う人となるとダンバー数のなかにおさまるでしょう。
 
【えりな】そうなんですね!わたしのこと言われているのかと思いました!
私、職場を選ぶのに一番大事にしてることが、「仕事で関わる人数がいかに多いか」なんですよ。大学時代、従業員3人の会社で働いてすぐ挫折しました。
 
【Caol】ダンバー数という話とは少しずれますが、小さすぎる集団というのはメンバー間の関係がよほどよくないと働きづらいでしょう。職人と助手だけ、という職場の助手がどのくらい働きづらいかは容易に想像ができると思います。
 

ダンバー数と働きやすさ


【Caol】で、キャリアの話に結びつけると、働く組織の人数がダンバー数をこえると働きづらい、ということになります。150名をちょっと超える人数だが、1つの集団というのはたぶんもっともやりづらい。つねに「あんた誰」という人がいるが、その人とも仕事をしなければならない状態。これが働く個人の視点。
 
【ホリデー】さすがにどんな会社でも一つの組織で150人を超える、ってことはなかなかなさそうですけどね〜。僕の前職でも、一つの部が大体5人〜15人くらいではありましたね。それを2階層くらい束ねると150人くらいになるイメージ。
 
【Caol】そうそう、まさに経営者の視点だと、分社化とか組織編成を分ける、というのは組織をダンバー数に収まる集団に分けるもの、と理解できる。そうするとややこしい規則を作らなくとも集団が機能し、コミュニケーションも取りやすくなる。
 
【ホリデー】うんうん、わかります。
 
【Caol】官僚の世界だと、縦割りとか、組織同士の連携が取れない、というのも説明できるかも。課とか局というのは同じ法務省という組織なのだが、自分の属する150人の集団からするとべつの集団となってしまい、コミュニケーションが取りづらい集団、場合によっては敵対する部族ということになってしまう。
 
【ホリデー】ほほ〜。なるほど。確かに言われてみれば、150人単位くらいで別の集団、ってのは大企業にいた自分としては感覚としてめっちゃわかる気がする!
 
 
【えりな】そうなんですね!
 

(4)集団としての大企業“広告代理店”


【えりな】ホリデーさんが務めていた企業を例にしながら、大企業はどんな集団なのか見ていきます。
 
【Caol】まず、会社の規模だけど全体で何人くらい?そしてホリデーさんと一緒のオフィスの人は何人くらいでした?
 
【ホリデー】そうですね。何人くらいだったな。僕がいた時で、東京大阪名古屋の全社で8000人くらいだったかなあ、って感じですね。で、僕はほとんどが関西支社勤務だったんですが、それが大体1500人くらい?もう少し少なかったかな?
 
【えりな】これは広告代理店では相当大規模な大手ということでいいんですかね?
 
【ホリデー】あのですね。それで言うと最大手です。
 

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