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マシュー・ボーンの「ロミオ+ジュリエット」ダンサー達の役作りについて


登場人物達の役作りの過程について

マシュー・ボーンの「ロミオ+ジュリエット」公式パンフレットにあったマシューのインタビューを読み、役柄の創作過程についてとても興味を持ちました。

私はダンサーがキャラクターの物語を作り上げていくことを好みます。出演者全員に、なぜ彼らはここにいて、どうやってここに入ったのか、彼らの家族の歴史、この施設中では誰のことが好きなのか、といった質問への答えを書いてもらっています。こうすることで、キャラクターの深みが出てきます。だから出演者全員に役名があってキャラクター設定があり、それぞれの物語があります。

マシュー・ボーンの「ロミオ+ジュリエット」公式パンフレットより引用

今回は7回「ロミオ+ジュリエット」を見に行きましたが、舞台を見れば見るほど、それぞれのキャラクターの背景について感じさせられる部分が多くなることに気がつきました。上記インタビューにある通り、一人一人のキャラクターが際立っている理由は、ダンサー達が相当役に対する分析や議論を重ねて、役に対する理解を細かく深めているからでしょう。

マシュー・ボーンの「ロミオ+ジュリエット」には決まった振り付けはもちろんありますが、出演者達もそれぞれ役について分析をし、独自の人物像を作り上げていきます。よって同じ役を演じていても人によって見え方がかなり違います。ダンサー達が作り上げたキャラクター像にはマシューも述べているように、彼らの考えが反映されるだけでなく、彼ら独自の生まれ持った個性も現れているように感じました。

舞台には彼らのパーソナルな部分、彼らの本物のエモーション、彼らのリアルが現れているのです。それが舞台に真実味を与え、人々の心を揺り動かすのだと思います。

新書館「ダンスマガジン」4月号マシュー・ボーンのインタビューより引用

主演3キャストそれぞれの感想

Hannah Kremer + Rory Macleod

主演3キャスト全て見た中で、個人的に一番好きなのはハンナ・クレマーがジュリエットを、ロリー・マクラウドがロミオを演じた回です。なんと言っても演技をしているようには思えず、役柄そのもので本当に素敵でした。ハンナとロリーの2人は若々しくて、等身大のロミオとジュリエットという感じで、とても心を揺さぶられました。
ハンナのジュリエットは看守から性暴力を振られている悲痛な苦しみ、心の痛みを表情でよく伝えており、絶望しつつも誰かに助けて欲しいと自分の苦しみを訴えているよう感じました。恋に落ちた時は喜びいっぱいで、嬉しくてたまらないと言う感じで本当に可愛かったです。強くて責任感もあるけれどまだ純粋な部分も持っていて、世間のことを把握しきれていない子供のような素直なジュリエット像を感じました。ハンナの感情表現は表情だけでなく、メリハリをつけながら力強く体を動かしており、特にティボルトを殺してしまった後に踊るソロはあまりに慟哭が激しくて鳥肌が立ちました。

ロリー演じるロミオは、ロリー本人がイケメンすぎて、セクシーすぎと言うこともあり、他の2キャストのような弱々しさを感じる事はできませんでした。しかしこれだけハンサムであるにも関わらずオドオドしていて、何をやるにも親の目を気にしていそうな自信のなさそうな印象を受けました。ジュリエットに出会った後は彼女に吸い寄せられるように惹かれていき、全身全霊を彼女に捧げている様子が伝わってきました。これだけのハンサムな男性に熱烈な想いを伝えられたら、断れる女性は絶対にいないと思います😂
等身大の少年少女という感じの若々しい2人が演じるロミオとジュリエットは恋愛映画のようで、彼らのような激しい恋が懐かしくなりましたし、恋人と沢山キスをしたくなりました。

ロリー・マクラウド+ハンナ・クレマー

Monique Jonas + Paris Fitzpatric

初日は2019年の初演キャストでもあるパリス・フィッツパトリックがロミオを演じ、モニーク・ジョナスがジュリエットを演じましたが、とにかくパリスが秀逸で、自信がなさそうな様子や、ちょっと風変わりな様子、両親からの愛情や注目してもらうことに飢えている様子、恋に目覚める様子などがよく表現されていたと思います。このロミオは確かに彼のために振り付けられたものだと感じさせられる素晴らしい演技でした。

モニーク・ジョナス演じるジュリエットは表情ではなく雰囲気で語るタイプという感じで、芯の強さを表現する場では高潔で真っ直ぐなオーラがよく出ていました。しかし、正直に言って感情をあまり出さないように演技をしていたのか、ただ緊張していただけか分かりませんが、初日は恋に落ちた様子がよく伝わってきませんでした。そんなモニークが恋の喜びを知り、初めて満面の笑みを浮かべるバルコニーのシーンは本当に美しかったです。
ジュリエットがティボルトの幻覚に襲われる時は、怖がりながら、泣きながら、恐れいている様子がよく伝わってきました。そして最後にロミオを刺してしまったあとは本当に目に涙を浮かべながら、今まで分かりづらかった感情表現が爆発しており、こちらまで泣いてしまいました。

モニークのジュリエットは、上流階級出身で、感情を出さないような特別な訓練を受けて育ったのではないかと思わせる高潔なジュリエット像でした。
モニーク・ジョナスはダンスマガジンのインタビューで役作りについてこのようにコメントしていますが、はたして彼女の高潔さは彼女の考えた役作りの賜物なのか、もしくは彼女自身が上流階級の育ちなのか、どのような経緯であのジュリエット像が出来上がったか非常に興味を持ちました。

彼女は裕福な家庭にいたけれど、両親とはうまく行っていなくて施設へ…。マシューのクリエーションでは、すべての役にとても細かく背景を決めるんですよ。

新書館「ダンスマガジン」4月号のモニーク・ジョナスのインタビューより引用
パリス・フィッツパトリック+モニーク・ジョナス

Bryony Pennington + Jackson Fisch

ブライオニーとジャクソンのペアは平日昼公演と言うこともあり、1回しか見れませんでしたが、このペアは感情表現を爆発させていた上記2ペアに比べると踊りで魅せるタイプで、とても見応えがありました。
ブライオニーのジュリエットは怒りに満ちており、自分達への理不尽を強いる社会や周りに対しての怒りを強く感じました。常に強そうで、社会や周りに対して怒りを持っている彼女が、ロミオと出会って恋に落ちて恍惚となる様は忘れられません。
ブライオニーのジュリエットは家庭内暴力が蔓延するような、売春や麻薬なども蔓延っていそうな階級の育ちで、社会への不満を持ちながら生きてきた歴史を持つ女性という印象を受けました。

そんなジュリエットに比べ、ジャクソン演じるロミオは自信がなさそうで存在感も薄いですが、上議員議員の息子という育ちの良さを感じました。マシュー・ボーンのこの作品において、ロミオとジュリエットのそれぞれのバックグラウンドはロミオの両親についてしか述べられていませんが、このペアは育ってきた環境や階級の差を感じさせてくれ、その差もお互いが魅力に感じてしまう一因だったのかと感じました。
ジャクソンのロミオは感情を爆発させて観客に想いを伝えるというよりも、クラシックバレエで鍛えた美しい動きを最大限に使って私たちに感情を伝えてくれました。変に感情的ではないのに踊りは力強く、内側から煮えたぎるような感情をふつふつと表現する様は、以前見た日本舞踊の藤間蘭黄さんの明智光秀を思い出させてくれました。

ジャクソン・フィッシュ+ブライオニー・ペニントン

好演していたサイドキャスト達

ティボルト、マキューシオ、バルサザーなど(後日追記します)


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