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バレエ感想㊷「マノン」パリオペラ座バレエ団(2/16ドロテ・ジルベール/ユーゴ・マルシャン)

全幕はリアルでもシネマでも見たことがなく、今回人生初マノンということで楽しみにしていました。生で見るパリオペラ座バレエ団の「マノン」はそれはそれはドラマに溢れていて、素晴らしかったです。
というわけで感想はこちら!かなり赤裸々に書いていますので、自己責任でお読みくださいませ。!


1幕

まず、ユーゴ・マルシャンが格好良すぎる!ミッション系の学校出身なのではっきり言わせていただきますが、あんなカッコよくて、セクシーな神学生、絶対にいません!カッコよすぎ!セクシーすぎ😂
私自身も修道院に勧誘されたことがあるくらいキリスト教関係者とは関わりもありますし、沢山の神学生や修道院関係者と関わってきたからこそ思いますが、ユーゴの何の経験もない純真無垢な神学生という設定はいくらなんでも無理があると思いました。あんな色っぽいハンサムが神学校にいたら絶対に女の人からも男の人からも大量にアプローチされて勉学どころじゃなくなるはずです。恋愛沙汰で事件に巻き込まれてやめさせられるか、簡単に人が入れないような山奥の修道院に行かされるかのどちらかだと思います。
格好良すぎて、ユーゴこそが関わる人を破滅させてしまうような色気溢れるファム・ファタール的な存在だと思いました😂 

ユーゴ・マルシャンがあまりにハンサムで綺麗すぎて、映画「薔薇の名前」を思い出しました。若い見習い修道士アドソが乞食の女の子と関係を持ってしまうのですが、ショーン・コネリー演じる師匠が「女の子と関係を持った修道士は美しかったはずだ。そうでなければ報酬を求めるはずだ」というような内容のセリフを言うのですが、ユーゴを見てなぜかそのセリフを思い出しました。
ユーゴの香立つような美しさがあるからこそ、お金がなくてもマノンが惹かれた様子がよく伝わり、マノンがまたデ・グリューの元に戻ってしまう設定も説得力を持って観客に伝えられたのだと思いました。

ドロテ・ジルベールは華やかで上手ですが、やはり年齢には勝てません。素晴らしかったですが、酸いも甘いも噛み分けた人生が滲み出ており、登場のシーンでどう見ても少女には見えないのです。ですが感情表現は本当にわかりやすくて、デ・グリューと出会って徐々に惹かれていく様子や、駆け落ちした後の寝室のパドドゥは本当に恋する喜びでいっぱいで、激しい恋に落ちている様子がよく伝わってきた。ただし、やっぱり何も知らない16歳の純真な少女には見えず、色っぽ過ぎて設定がよくわからなくなりましたが、ドロテの踊りが素晴らしいのは真実なのでそこは目を瞑るしかないです。

そして色気や純真さについてはドロテ自身の本質がハッキリ出ておりマノンの設定とはかけ離れていたかもしれませんが、演技面ではさすがエトワールということもあり観客にしっかり自分の解釈を見せてくれたと思っています。
兄のレスコーにムッシューG.M.の愛人になるように言われ、デ・グリューへの愛を感じつつも、おそらく世間知らず過ぎて兄には逆らえないんだろうと思いました。贅沢に目が眩んだだけでなく、兄に従わなくてはいけないことを達観しており、男性には結局逆らえないという当時の女性像を彷彿とさせてくれました。ムッシューG.M.の愛人になることを承諾するこのシーンで、ドロテは富への憧れというよりも、デ・グリューと一緒になりたくても自分の意思だけではどうにも出来ないという諦めもあるように感じさせてくれました。
最後にシーツを触ってデ・グリューへの思いを馳せる時は、マノンの苦しそうな一面が見えた気がしました。ムッシューG.M.の手を取り、家を出る時はベッドを見てデ・グリューを想いながらも、未来のためにはムッシューと一緒に行くしかないという諦めを感じました。ドロテのこの役作りがあったからこそ、観客はマノンが気の毒でつい感情移入してしまうのだと思います。

そしてムッシューG.M.は今回レオ・ド・ビュスロルが演じたのですが、神経質で自分以外を人間とも思ってなさそうな冷酷な感じの金持ち像に見えました。ただし気になったのは、ムッシューG.M.は好色という設定ですが、神経質でケチで冷酷そうな感じはよく出ていましたが、あまり好色な感じには見えませんでした。
もちろん足を触りまくったり、腕を舐め回したりするような振り付けはあるのですが、あまりマノンへの欲望は感じなかったのです。振り付けは非常にエロティックですが、ビュスロル演じるムッシューG.M.からは性欲や好色さをあまり感じず、「この人性欲なさそうだな」と思いました。性の対象としてマノンを求めるというよりも、トロフィーワイフを求めるかのような一つの勝利の対象として美少女マノンをそばに置こうとしているような印象を受けました。

ちなみにビュスロルは白塗りなので顔が分からず、調べてみたら超美青年!

2幕

2幕は娼館の賑やかで魑魅魍魎な様子が面白かったですが、ただ男性を誘うような動きをしたり体や足を見せるだけでなく、実際の娼館なんざ絶対もっと下品なんだから思いっきり演技しても良かったのではないかとも思います。この辺はやり過ぎると目も当てられない代物となるので調整が難しいですが、オペラ座のダンサーはやはり上品路線なんだなと思ってしまいました。

酒を飲んだレスコーが酔っ払いながら踊るシーンは面白いけれど、まだ振付通りに踊っているような硬さを感じました。レスコーを演じるパブロ・レガサはズルくていやらしそうな感じをよく出しており、酔っ払った演技も彼ならもっと振り切って出来るのではないかと思いました。このキャストは明日もう1日あるので、パブロが明日はどれだけ振り切って踊ってくれるのか、非常に楽しみです。絶対もっと酔いどれな感じを表現できそうだと思います。

キャスト表見て気づいたのですが、1幕も2幕も娼婦役にはルグリのスーパーバレエレッスンに出ていたオーバーヌ・フィルベールが出ており、懐かしくなると同時にオーバーヌの見た目や雰囲気の変化に驚きました。
オペラ座ではロシアバレエのように足をバコーンとあげることはあまりしないイメージですが、今回は桑原沙希さんはじめ娼婦役のダンサー達が足をブン上げており、オペラ座らしからぬこの足のブン上げは娼館という異空間を演出するからこそ許されるんだろうなと思いつつも、ダンサー達の身体能力の高さは凄いと思いました。

デ・グリュー役のユーゴ・マルシャンはここでも素晴らしかったです。愛するマノンが他人と一緒にいる姿を見た瞬間、動悸が起こり、胸が苦しくなり、悲痛で絶望的な表情になったのは見逃せなかったです。かっこいいデ・グリューなので女性達も積極的に絡みますし、それまでどの娼婦に絡まれてもお酒は全て断って常に一緒に来ていたレスコーを気にかけていました。しかしマノンを見つけた瞬間に苦し過ぎて一気に5杯くらい飲まざるを得ないような衝撃がこちらまで伝わってきました。何度もマノンと目を合わそうとしますが、マノンはデ・グリューに気づくものの目を合わせようとしません。
デ・グリューはずっとマノンから目を離さず、なんとかして彼女と接触しようとします。デ・グリューの目は悲痛で、愛する女性を取り戻そうとするよりも、自分を捨てて去って行ったマノンへの怒りが大きいようにも感じました。彼のマノンへの想いは愛だけでなく、怒りや執着も大きいのではないかと思いました。

デ・グリューのマノンへの執着心や独占欲については、娼館で何度もマノンと接触しようとしていた際の様子や表情からも感じましたが、大乱闘の末に2人で娼館を抜け出した後に、逃亡の準備をするシーンでも感じました。ここではマノンがムッシューG.M.から贈られたドレスや宝石をまだ名残惜しそうにしているのですが、デ・グリューはとてつもなく拒否感を示します。マノンが宝石がたくさんついた腕輪をつけているとすかさず見つけジリジリ詰め寄る様子は、ものすごい執念深さを感じましたし、暴力的なまでの拒否感と独占欲を感じました。

デ・グリューはお金が無いし、マノンがムッシューG.M.の元に行ってしまった原因だってお金なのになぁと思います。私ならドレスも宝石も売っぱらって生活資金の足しにしますが、デ・グリューはきっとプライド高過ぎてマノンがムッシューからもらったものなんて絶対に嫌なんだろうなぁ。マネーロンダリングとは違いますが、お金にしちゃえばお金はお金なのにって思っちゃいます。生活設計能力なさそうだし、お金なくてこの2人は結局不幸になりそうって思っちゃいました😂

3幕

看守は好色な設定なので、割と最初から色々な女性受刑者たちを物色しまくっていますが、物色してる間も性欲よりも暴力的な様子を感じました。表現の場でなぜ暴力的な空気ばかり出すのか謎ですが、もしかしてこの辺は原作だと看守の暴力的な面が強調されてるのかな、もしくはこういう暴力的な表現がフランスの流行なのとか思いました。

レイプシーンについてはなんというかかなりエグくてリアルです。
バレエから逸脱しない範囲でポーズをうまく組み合わせながらマノンが置かれた残酷な現実を観客に突き付けます。直接的ではあるのですが、あくまでもバレエの表現に収まっており、下品にさせないあたりマクミラン凄いなと思いました。看守がマノンに強制するシーンでも看守がベルトを外すタイミングや、手の力を抜くタイミングなどで行為を細かい演技で観客に伝えており、そしてそれによりマノンがさらに苦しめられている様子をよりリアルに伝えており、このような形でバレエに持ってくる方法があったのかと驚きました。
しかしリアルすぎる。。。これは確かに子供には見せられません。。。

ちなみに、看守からは上司命令で女を襲うように言われて義務的に襲ってるのかな?と思わせるような冷酷さを感じました。それとも、この時代の女性というのはこのようにもののように扱われるのが普通だったのでしょうか?

結局後から追ってきたデ・グリューが看守を刺し殺し、マノンとデ・グリューは沼地に逃げ込みます。沼地のシーンではデ・グリューからはマノンを失いたくない気持ちがかなり伝わってきます。マノンの命が尽きても最初デ・グリューは気づかずに一緒に逃げようとしますが、マノンが死んでしまったことに気づいた瞬間、絶望し、慟哭します。デ・グリューは心からマノンを愛していたのだと感じました。

これだけの人間ドラマを見ることが出来て感涙しました。素晴らしかったです。

日本でマノンやるならこんなキャストはいかがでしょうか。バレエファンの妄想ですが。

日本でマノンやるならこんなキャストはいかがでしょうか。結構いいキャスティングだと思うんですが😂

マノン:二山治雄さん
デ・グリュー:森本晃介さん
ムッシューG.M.:渡邊峻郁さん
レスコー:大塚卓さんか、宇賀大将さん
レスコーの愛人:酒井はなさん
マダム:奈良春夏さん
看守:清水裕三郎さん
2人の娼婦:直塚美穂さん、飯野萌子さん
1幕の元気な乞食:佐野和輝さん

怒られるかもしれないので、少しだけ解説します😂

・二山さん
男性だろ!?というツッコミはさておき、存在感、特別感、唯一感が随一。さすが世界の二山さんだと思う。また迫力が凄く、先日の舞台で心打たれました。両性具有の唯一の魅力があり、もしポワントを履けるならマノンの魅力的な一面を表現できるだけの存在感があるのはこの人かなと思った。(実際あり得ないキャスティングなのは分かってますが、このくらい存在感ある人にやってほしいということです)

・森本晃介さん
動きが上品で、海外の人気ノーブルダンサーを彷彿とさせる見た目がとても綺麗。大人の汚い世界を知らなそうな純朴な雰囲気があって、周りの言うことを何でも聞いちゃいそう。神学生を今までたくさん見てきたからこそ思うが、世間知らずな神学生という雰囲気を持っているのはこの方な気がする。

・渡邊峻郁さん
トゥールーズキャピトルバレエ時代のDVDを見て、いやらしく支配的な演技がとても上手だったのが印象に残っている。G.M.のいやらしそうで、冷酷な空気を演じれる人はこの人以外いないし、誰もが嫌いになる強烈なG.M.像を見せてくれるはず。

・大塚さん
衣装が似合いそう。踊りが上手なだけでなく、ズル賢そうな演技も上手そうだから、策士のレスコーをうまく演じそう。

・宇賀さん
微動だしない貼り付いた笑顔が印象に残ってて、裏で何考えてるかわからないレスコーも演じられそうと思うから。

・奈良さん
美人で存在感抜群だから。

・酒井はなさん
これだけから強烈なキャラクターを演じられるダンサーは滅多にいない。たくさんの人生経験を持つ酒井はなさんなら力強く演じてくれそう。

・清水さん
シーンがシーンなだけに看守はかなり難しい。3幕を下品にならずに演じるには相当の演技力が必要だし、あまりに生々しいので観客を現実に戻さないように演じるのが本当に難しいと思う。裕三郎さんくらいの演技力があるダンサーがやらないと観客を現実に戻して白けさせるだけで終わりそう。

・直塚さん
強くてアクが強そうだから。娼婦達の足のブン上げシーンなども直塚さんの長い足と柔軟性があればものすごく迫力を持って見せてくれそう。ダンサーなら柔軟性は全員持ってるはずだが、足の長い人がやった方があのシーンの異質さが目立って面白いと思う。

・飯野さん
白鳥の湖の娼婦役がザ・商売女って感じの媚びの売り方で、役作りがとても印象的だったから。

・佐野さん
元気で踊りも上手だし、楽しく乞食役を演じてくれそう。あとバレエダンサーによくある変に金持ちっぽくてプライドが高そうな印象が全くないから乞食役も素敵に踊ってくれそう。親しみやすい雰囲気があり、ついお金を恵んであげたくなる雰囲気がある。

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