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政治改革はどこから始まる⑤地方創生に必要なのは自立する地方議員と地域政党だ~暴言市長も立ち上げ表明〜

「なんもしてないやろ、7年間。立ち退きさせてこい、お前らで。今日、火をつけてこい。今日、火をつけて捕まってこい。燃やしてしまえ」
 
2019年、明石市の泉房穂市長は、道路工事を進められなかった市職員にこんな暴言を吐いた責任を取って辞職した。しかし、同市は9年連続で人口が増え、税収も増加。高校3年生までの子どもの医療費や保育料を無料化するなど、子育て世代への手厚い政策が市民に評価されて、出直し選挙で泉氏は圧勝した。

明石市長が地域政党の立ち上げへ

2022年、今度は自身への問責決議案をめぐり、市議2人に「選挙で落としてやる」などと発言した責任を取るとして、今期限りでの引退を表明。一方で、「心ある政治家をつくっていく」と地域政党を立ち上げ、自身が代表に就くことを明らかにした。来春の統一地方選で予定される市長選と市議選に独自候補を擁立することを目指すという。
 
明石市議会(定数30)は現在、自民党(11人)と公明党(6人)で過半数を占め、市長と対立することも多かった。泉市長は、政策を引き継ぐ候補を市長選に立てるとともに、市議会で政策に賛同する市議を増やしたいと言う。
 
こう書くと、市長と議会が対立して最悪という印象を受けるが、私はそうは思わない。なぜか。

二元代表制に機能不全の恐れ

第4回で書いたように、市長にモノを申す議会は非常に少ない。いわゆる“市長派”の与党になり、自分たちの政策に少しでも多く予算をつけてもらうために対立を避けているのだ。選挙の時に市長に「2連ポスター」の相手役になってもらい、「市長が応援している候補者」という見せ方で当選を狙っている議員さえいる。
 
本来、地方議会は二元代表制である。この制度は、立法府を構成する地方議員と行政の長である県知事や市長をそれぞれ住民の直接選挙で選ぶもので、国政の議院内閣制とは異なる。
 
二元代表制のもとでは、議員は法律や予算などを審議・決定する権限を持ち、執行は知事や市長が責任をもつため、立法権と行政権の分離がなされている。ダメな施策や予算を議会はいつでも否認できるという最終決定権は、議会が持っているのだ。
 
ところが、首長と同じ政策を掲げる“市長政党”の議員が議会内の多数を占めると、首長が提示した政策が地方議会で簡単に可決されてしまうため、議会がもっているはずの首長へのチェック機能が失われ、地方自治の基本である「二元代表制」が有名無実化する恐れがある。
 
また、首長政党が地方議会で3分の1以上の議席を占めると、首長の意思に反する条例案が可決されても、再議された際に離党や造反がないかぎり、3分の2以上で再可決できずに条例案が制定できない。また、首長政党が地方議会で4分の1以上の議席を占めると、離党や造反がないかぎり、首長不信任決議を可決できなかったりする。
 
私が所属していた兵庫県議会のように、予算も決算も50年以上否決されたことがない議会は全国どこにでもある。地域の元気がなくなってきたのは、首長の責任も大きいが、それを追認してきた与党議員の責任も同じくらい大きいだろう。明石市のように喧々諤々やり合っている方がまだ健全だと思うのは、私だけだろうか(もちろん議論の中身によるのだが)。

「ダメなモノはダメ」と言える議員が必要

そういう意味で、地方自治の主体となる首長を改革派に変えていくのと同じくらい、市長や知事に忖度せず、議案ごとに「ダメなモノはダメ」と言える地方議員を増やしていくのはとても重要である。
 
地域政党の神戸志民党を設立、代表として立候補した2015年兵庫県議選で私は当選することができた。その後、県議として活動するなかで、どうしても賛成できない議案が何度もあった。与党会派も個別に話をすると、「オレもあの議案はアカンと思っている」と私に賛同してくれるのに、本会議になると知事提案に賛成票を投じる。
 
「本議案に反対する議員は起立してください」と言われ、69人いる議場で、たった1人で起立して反対表明する際には、毎回背中がヒリヒリしたものだ。
 
議会は数が重要というのは、紛れもない事実だ。しかし、無所属議員や少数会派は仕事ができないのかというと、地方議会に関してはそんなことはない。
 
良識ある首長ならば、無所属議員や少数会派の意見でも良い政策については採り入れるし、本気で地域を良くしたいと考えている真面目で優秀な地方公務員も多いので、大人数の政党に所属し、胡座をかいて仕事をしない古参議員より、必死に汗をかく野党議員の意見を大事にしてくれることは珍しくない。
 
とすれば、地方議員は必ずしも大政党に所属する必要はないのではないか。それよりも、同じ政策を実現したい議員同士で議会内会派を組めば良い。
 
もちろん、選挙に勝つために、自分の政治信条や政策とは関係なく、勢いのある政党に抱きつく候補者は後を絶たない。こういう候補者は要注意だ。所属する政党から党議拘束がかかると、自分の意見を主張できないからだ。また、議員を辞めても自分の力で生きていく経済力がないと、生活のため、家族のために議員職にしがみつくようになり、これまた自分の意見が言えなくなる。

自立する議員が地方創生のカギを握る

私が考えている「今、求められる自立した地方議員」とは、以下のようなスペックだ。
 
「WANT項目」は、政策立案力と人柄(社会性)である。そして「MUST項目」は、倫理観と経済力。このMUST項目を持ってないと、初志がどんどん溶けていく。
 
期数が長くなり、年齢が高くなるとつぶしも効かず、ビジネス社会への復帰もかなり難しい。政界に居続けるしか居場所がないから、意思決定の基準が「生き残り」になってしまう。
 
要は、党の応援がなくても選挙に勝つことができ、落選しても食っていける自信がある候補者しか、市民のための覚悟を持った意思決定は出来ないのである。
 
そうした「自分の足で立ち、自分の意思通りに行動する地方議員」を増やさなければならない。そうでなければ、地方創生は結局のところ絵に描いた餅に終わる。

地域政党サミットを設立したわけ

しかし実際には、残念ながら、自立した議員の政策の実現や、そうした議員が活躍することを良く思わない与党会派から首長や職員に圧力がかかり、政策を潰されたり、手柄を横取りされたりする場合がある。
 
そういう妨害を、少数会派や一人で頑張っている地方議員が乗り越え、政治を動かしていくにはどうすれば良いか? 政策立案力を鍛え、議会で戦う術を身に付ける地方議員の連携が必要だと私は考える。そのために2015年に設立したのが、地域政党連絡協議会(地域政党サミット)である。

地域政党サミットは、地域政党の活動を盛んにし、地域住民が自ら治める「自治」を実現するために、有権者の選択肢を増やし、地方議会と地方自治体を活性化することを目指している。

あわせて現行法では政党扱いされない地域政党が不利益を被らないような地位向上、また国内外問わない学術的な地域政党の研究、日本で地域政党が根付く為の啓蒙啓発活動を進めている。

大政党との一番の違いは、一般市民一人ひとりの支援によって成立している政党なので、主たる支持組織がない。そのため選挙で苦労するという弱点がある一方、一切のしがらみがないので、誰にも遠慮せずに物申すことができる。

また、各地域が本部ゆえ、全ての意思決定をその地域で行うことができるのが大きな強みである。大政党でよくある「地域の意見を東京の本部がひっくり返す」ようなことは地域政党ではない。一番市民に近いところで情報収集し、一番早いスピードで、現地決裁できる。

 
ちなみに、私が立ち上げた神戸志民党は、次の4つの理念を掲げている。
① 健全な二元代表制の実現
住民から選ばれた首長と議会が馴れ合いではなくガチンコで議論し、予算や条例を建設的に作り上げる。
② 神戸を本拠とする地域政党の必要性
中央集権から脱却を図り、地方独自の視点と見解を示し、政党の垣根を超えて、地域ありきで独自政策を掲げる存在が必要。
③ 市民が主役の街づくり
名ばかりの「参画と協同」ではなく、街のあり方、行く末を一緒になって作り上げていく過程に、当事者意識が生まれ、細部に魂が宿っていきます。それが、「市民が主役の街づくり」。
④ 本物の政治家の輩出
市役所とのもたれ合いや風を見た動き方だけではなく、正しいことは正しいと自分の考えで判断し行動できる政治家、市民のために、街のために汗をかく政治家を輩出。

そして、社会状況と神戸の現状を鑑み、いち早く「議員定年制の導入(65歳)」「党公認の期数制限(3期まで)」「クオータ制導入(女性の公認候補者3割以上)」など、党則も導入済みだ。 こうした早い意思決定は大企業病化した大政党には不可能だろう。
 
地域政党連絡協議会の活動がまとめられた書籍「情報オープン・しがらみフリーの新勢力」にも書かれているが、地域政党に所属する議員たちは、地道に署名活動をしたり、市政報告会を開催して直接市民の声を拾ったり、時にはテレビやSNSを利用して社会の注目を集めて渦を巻き起こしたりしながら、ブレずに議会で奮闘している。
 
とはいえ、前述したようにバックに組織がないので、選挙はいつも厳しい戦いになる。
 
日本の法制度では、政党要件を満たす政治団体とそれ以外の政治団体との間で、扱いに大きな差がある。政党要件を満たさない地域政党は、政党要件を満たす国政政党と違って、政党交付金が受給できない。マスメディアも、政党要件を満たしている政治団体については党名を報じるが、それ以外の政治団体については、原則「諸派」とまとめて総称するため、党名を認知されにくいという大きなハンディも抱える。

全国の市町村に地域政党をつくる

だが、逆に言うと、こうした障害を乗り越え、当選している地域政党の議員は腹が座っている。
 
例えるなら、大政党はメガバンク、地域政党は地方銀行や信用組合。地域を理解し、良くするには地銀や信金の存在は必要不可欠だ。こうした地域政党をネットワークしたのが地域政党連絡協議会。この協議会によって地銀や信金をネット銀行にバージョンアップさせようというのが次の構想である。

まだまだ道のりは遠い。だが、47都道府県、1724ある市町村すべてに地域政党を誕生させ、ネットワークする姿を実現させるため、多くの志ある仲間探しをこれからも続けていきたい。
 
政治には時間がかかる。企業なら欲しい人材を3カ月もあれば採用できるが、地方政治は4年に一度しか選挙がないからだ。地方議会の人材は企業の16分の1のスピード感でしか新陳代謝が進まないのだ。しかも、必ず当選するとは限らないから、候補者2人のうち1人が当選したとしても連載の第1回で書いたように、大きな政治改革を起こすには30年以上のスパンになるわけだ。

春の統一地方選を改革の契機に

しかし、諦めたらその時点で終わり。腰を据えて、バトンを繋ぎながら、少しずつでも政治改革を前に進めていくしかない。
 
そのチャンスが今年、2023年の春にやってくる。統一地方選挙である。連載第1回で触れた、非自民・非共産連立政権となる細川護熙内閣ができ、日本の戦後政治を規定してきた55年体制が崩れた1993年からちょうど30年の今年を契機に、令和の政治改革を進めていきたい。その覚悟を私は固めている。

参考図書
リクルートOBのすごいまちづくり (世論社)

リクルートOBのすごいまちづくり2(CAPエンタテインメント)

議員という仕事(CAPエンタテインメント)

情報オープン・しがらみフリーの新勢力(CAPエンタテインメント)


楽しんでもらえる、ちょっとした生きるヒントになる、新しいスタイルを試してみる、そんな記事をこれからも書いていきたいと思っています。景色を楽しみながら歩くサポーターだい募集です!よろしくお願いします!