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我が家のお雑煮が消えてなくなる前に、記録を残しておこうと思う

我が家のお雑煮がピンチ。

今年の正月3日間、お雑煮を食べていなかったことに気づいたのだ。
これまで20余年、当たり前に食べていたものが、作る人を喪ってパタリと途絶えた。

そう、これまで我が家の伝統を担っていた祖父母が、ここ数年で急にみんな旅立ってしまった。
親戚の集まりは規模が小さくなり、おせちは正月の食卓に上らなくなった。
父方でも、母方でも、祖母がずっとおせちを手作りしていたからか、我が家では「おせちを買う」という選択肢は出てこない。
そして、おせちがなくなれば、つられてお雑煮も出てこなくなった。

こうして家の伝統が途絶えるのも、「時代の流れ」と言ってしまえば簡単だが、やっぱり節目節目にけじめはつけたい。
やっぱり行事に合わせた料理を口にしないと気持ちが切り替わらない。
そう、正月料理を食べないうちは、私の2024年はまだ始まっていない!ということで、今からおせちは厳しいが、お雑煮を作ることで私の新年開始のけじめとしたいのだ。

そして、今年作った我が家のお雑煮をインターネットの片隅に記録として残しておこうと思う。もう何が起こるか分からないこの世だから、いつまでも私が作れるわけではない。また、結婚の予定もないから、放っておけば私の代で途絶える。そうなる前にこうして記録しておこうというわけである。
そして、後世の民俗研究の足しにでもなればいいな、と思う。

また、これを読んでくれた皆さんの、「正月3日間雑煮スタメン」にはならなくとも、余った餅を食べるときにちょっとでも参考になればうれしい。


お雑煮の記録の前に

お雑煮といえば、全国津々浦々、それぞれに自慢のお雑煮があり、慣れ親しんだ味がある。
地域差の激しいものであるから、どこに根差したお雑煮なのかを記しておかないと記録しても意味がない。というわけで、私の祖父母のルーツに関して、書ける範囲で書いておく。

父方:兵庫県の播磨地域出身(兵庫県の南西部)
母方:兵庫県在住だったが、隠岐の島(島根)出身

餅の形や調理法も様々だが、我が家では丸餅。そして焼かずに煮る。
もしこの記事のお雑煮を作ってみようと思ってくださったなら、餅の形や調理法は皆さんの地域に合わせてもらえばいいと思う。
餅はくれぐれも注意深く噛み、できれば周りに人がいる状況で、ゆっくり、かつ集中して食べてほしい。

また、かつての我が家の習慣として、1/1~1/2朝まで父方の祖父母宅で過ごし、1/2昼~1/3夕までを母方の祖母宅で過ごしていたことを申し添えておく(「かつて」と書かねばならないのが何とも寂しい……)。

1/1:大根と金時人参の味噌雑煮

これを作るにあたり、汁椀を祖母宅より譲り受けました

元日に出てくるお雑煮はこれ。
色とりどりのおせちがあるからか、2日の雑煮が豪華だからか、比較的質素なお雑煮。金時人参の紅と餅と大根の白で、質素ながらもめでたさを残している。
金時人参と大根はともに真ん丸。めでたい日だから、煮るのに時間がかかっても、真ん丸。半月に切ったらめでたさが逃げていくということだろうか。
元日の朝早くから祖母がお雑煮のために金時人参と大根をじっくり煮ていたような記憶がある。

昔はこのお雑煮の美味しさが分からなくて、半分義務的に食べていたけど、25歳を超えてから良さが分かってきた気がする。

関西といえば白味噌。だが、祖母は普段の味噌汁と同じお手製の味噌を入れていた。なので、白味噌どころか赤味噌寄りの味。
なので、私は白味噌のお雑煮を食べたことがない。
白味噌を祖父母があんまり好んでなかったのか、態々お雑煮のためだけに白味噌を買うのは経済的でないと思ってたのか、今では聞くことができない。

私は味噌の手製まで至っていないので、今回は合わせ味噌に赤味噌を少し足して仕上げた。
ほとんど根菜から出た味と味噌の味で食べる雑煮だったのだが、出汁の味もあったはずだと、舌の記憶を頼りに煮干しを数本入れてみたが、一口飲んだとき、「これこれ!」となった。いい線いっていると思う。
もう、記憶に赤寄りの合わせ味噌の味が刷り込まれているから、白味噌のお雑煮を作ることはないと思う。

昔はあんまり好きでなかった元日のお雑煮。
でも、この飾らないシンプルな味の良さは近頃、一汁一菜生活を送っているからか、舌に馴染み深く感じられてすっかり好きになった。
ううむ、着々と歳を重ねているな……(でも、悪くないと思っている)。

【材料】
・大根・・・・・食べられるだけ
・金時人参・・・半分ぐらい
・水・・・・・・飲む杯数お椀で量る
・煮干し・・・・食べる人×本数
・餅・・・・・・食べられるだけ
・合わせ味噌&赤味噌少量ミックス・・・普段の味噌汁の感覚で入れる
【作り方】
1.水に煮干しを入れて30分~置いたら大根と金時人参を入れて煮始める。
2.大根と金時人参が煮えたら餅を入れて柔らかくなるまで煮る。
3.味噌を溶いて完成。

1/2:牛肉のすまし雑煮

2日からは一転、すましに変わる。
そして、元日の夜に親戚集ってつついたすき焼きで余った牛肉を入れる。
また、祖母がたっぷりと用意したおせちも、元日に集った親戚によって大分減っているので、それを補うためか、2日のお雑煮はとびきり豪華で、食べ応えのあるものになる。

さっき、シンプルな味噌雑煮の味が好きになってきた、という話をしたが、それは「好きになってきた」という話で、結局今でも一番好きなのはこのお雑煮。
子どもの頃は2日が待ち遠しくてしょうがなかった。元日の味噌雑煮は「今日これ食べたら明日は牛肉や……!」と思いながら食べていた。そして、2日の朝はソワソワする。元日はのんべんだらりと布団に籠るが、2日はスクッと飛び起き、そそくさと着替え、「ついに“アレ”や……!」と落ち着かない。

朝起きたら、餅の個数を聞かれるのだが、元日は2個に対し、2日は「3個!」と高らかに宣言する。
いざ口にすると、思わず仰け反る旨さ。正月はおろか、1年という月日はこれを食べるためにあるのではないかとさえ思えるほどの慶びを噛み締める。
牛肉と餅のバランスを考えながら、お代わりでもたらされる追加の肉まで計算して食べるのが何とも幸せな時間だった。
餅や肉がなくなっても、汁が旨いから、この日はあっという間に鍋が空になる。
言わないだけで、家族みんな牛肉の前に色めき立ち、浮足立っていたのだろう。

具は牛肉と長ネギとナルト。このためだけに年に一度ナルトを買ってくる。
一回、ナルトを買ってなくてかまぼこが入ったことがあるが、「なんかちゃうなぁ」となった。かまぼことナルト、味はそんなに変わらないが、やっぱりあのぷりっパツっとした弾性豊かな食感にナルトの妙味があるのだろう。
やっぱりこのお雑煮にはナルトが欠かせないのを確認したのだった。

【材料】
・牛肉しゃぶしゃぶ/すき焼き用・・・1人あたり50g~
 75g以上あればもっと嬉しくなる
 切り落としでも小間切れでもOK
・長ネギ・・・1本
・ナルト・・・1本
・出汁パック・・・アゴ出汁など。濃いめがよい
・水・・・・・・・飲む杯数分お椀で量る
・酒・・・・・・・適当
・淡口醤油・・・・適当
・餅・・・たっぷり食べよう
【作り方】
1.水と出汁パックを入れて煮出したら、酒と淡口醤油で調味する。
2.餅と長ネギ、ナルトを入れて煮る。
3.牛肉を入れてサッと煮たら完成。

1/3:海苔のすまし雑煮

かつて、1月3日は母方の祖母の家で過ごすのが我が家の慣例だった。
そこで出てくるのが、この海苔雑煮。
島根は隠岐の島出身(と伝え聞いている)祖母の地元で食べられているお雑煮。

味は磯辺餅を雑煮に仕立てたような感じ。
海苔が汁を吸ってドロドロに溶けた「海苔汁」までいくぐらい海苔をたっぷりと餅が隠れるまで入れるのが美味しい。
なので、海苔はケチってはいけない。1人に対し、全形海苔1枚は用意してほしい。それをコンロでサッと炙って、手でもむ。

具は海苔のほかにない。
では、物足りないかといえば全くそんなことはない。そんなこと、微塵も感じる余地もない。
ド・シンプルがゆえに、海苔の磯感を全身で受け止める贅沢がある。
そう、このお雑煮は贅沢なのである。

祖母が存命のときは隠岐から名産の岩海苔が届いていて、それをもう、贅沢にたっぷしかけて食べるのが最上だった。
今年は家にあった寿司はねでサッと作ったが、来年は岩海苔を用意して作りたい。寿司はねでも雰囲気は十分に出るので、手軽に試すならこちらでも。

【材料】
・出汁パック・・・アゴ出汁など。濃いめがよい
・水・・・・・・・飲む杯数分お椀で量る
・酒・・・・・・・適当
・醤油・・・・・・適当
・餅・・・・・・・食べられるだけ
・海苔・・・・・・1人に全形海苔1枚は欲しい
 味付け海苔はダメ。
【作り方】
1.水に出汁パックを入れて煮出したら酒、醤油で調味する。
2.餅を入れて柔らかくなるまで煮たらお椀に盛り付ける。
3.炙った海苔を手で揉んで振りかける。

ちなみに牛肉雑煮と海苔雑煮は同時に作ることができる。
調味した出汁で餅を煮たところで、お椀に取り分けて海苔を振りかければ海苔雑煮になるし、出汁と餅が残った鍋にネギ、ナルト、牛肉を入れて煮たら牛肉雑煮の完成。
一挙に作って食べ比べられるのに喜ぶのは私だけだろうけど、一応こういうこともできるよってことで。

おわりに~昔は餅も家で作ってた~

お雑煮を作ってくれる人がいなくなったので、もう自分で作るしかないと、舌の記憶を頼りに我が家の正月三が日に食べる雑煮を再現した。

かつては餅も餅つき機を使った自家製だったので、こだわるならこっちも再現したいけど、これはもう親戚集まって皆で餅を丸めるのが楽しかったのであって、仕事、結婚、子育てで集まるのが難しくなったから、この習慣の復活は難しいかな。自家製の粒感残る餅への愛しさを感じるが、餅屋の餅の滑らかさも大変魅力的なので、当面、餅は買ってくることにする。

12月30日は親戚皆で餅つきの日だった

今年は家の習慣が途切れて2年のタイミングなのだが、まだ記憶の残るうちに作っておかないと、あっという間に風化してしまう恐れを感じた。のでここで記録を残しておこうと思う。

というのも、今年は母親が存命のとき手作りしていた恵方巻も復活させようかと考えていたのだが、キュウリを巻いていたかどうかをすぐに思い出せなかった(たぶん巻いていない)。
作る人がいなくなると、習慣だったはずのことも思い出せなくなる。
1年に1回のことなのだから、もっと大切に噛み締めておけばよかった。そして任せっきりにせずに、積極的に継ぐ姿勢で学んでおけばよかったと今頃悔いている。

これ以上家の習慣を無くせば、ハセガワ家はハセガワ家でなくなる。それに歯止めをかけるべく、2024年は途切れた家の習慣を復活させる1年にしたいと思う。

時代の流れで変わることも必要だが、自分がこれまで季節と共に何を食べていたのか、何をしていたのか……拠って立つ部分を蔑ろにして、表面だけ変えていくようなことはしたくない
最近、柳田國男に触れてそう感じるようになってきた。

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