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できるだけやさしい、マトリックス世界設定解説

※この記事はネタバレしかないので、注意してください。

たまにはショートショートではなく、コラムを投稿したいと思います。

いよいよ公開となる最新作「マトリックスリザレクションズ」。実は僕マトリックスの大ファンで、あの複雑怪奇なマトリックスの世界設定と真面目に向き合ってきた稀有な人類なのです(自称)。

そんなこともあり1年半前、自分なりにマトリックスを解説してみるという慣れない試みをnote上にしていたのですが、その時は需要があまりなく・・

しかし今、新作公開で世の中もマトリックスへの注目度が増しているので、せっかくなので過去書いた解説コラムを編集して再アップしたいと思います。

ちょっと長いですが、できるだけわかりやすく書いたつもりです。


◾️人類がロボットに「壮絶にボロ負け」した世界のお話


2002年日韓W杯のドイツ対サウジアラビア戦。最終スコア8−0、同情すらかわいそうに思うくらい歴史的な負けっぷりでした。

急になんの話?と思うかもですが、伝えたいのは、マトリックスは人類がロボットに対してそのくらいのレベルでボロッカスに負けた世界の話、だということです。

映画3作は、ロボットにボコボコにされた後の世界を描いてます。ただこの壮絶に負けるまでの過程は映画ではあまり描かれてないので、その辺りはアニマトリックスの「セカンドルネッサンス」という短編を見るとよく分かります。

まずは、その負けっぷりまでの流れを要約します。

①感情を持ったロボットが、勢いで人類を殺してしまう
②人類の、ロボット排斥運動が始まる
③あくまでロボットは平和的解決を目指す
④でも人類のプライドとして、自分たちの作り出したロボットに劣るのは許さない。人類側がロボットにガチ喧嘩を仕掛ける。

このへんはまぁなんかよく聞くような設定かもしれません。でも大事なのは、喧嘩を仕掛けたのは人類側だということ。ロボット側から喧嘩仕掛けてくるターミネーターの話とかとは逆になります。

そして案の定、戦争が始まります。

⑤ロボット強すぎて人類歯が立たない。
⑥人類、苦肉の策で地球を人工雲で覆い、ロボットのエネルギー源である太陽光を隠す。
⑦それでも人類は負け負け。もう逆転不可能なくらい負ける。

この段階で人類の負けは確定です。でもそれでも終わりません。

⑧エネルギー源を絶たれたロボットは、人間の体からエネルギーを取ることを画策。かくして人類は「ロボットのための電池」となる。
⑨人類を電池として健全に生かしておくために、ロボットは人類に夢を見させて、現実世界で普通に生きてると勘違いさせる。


ということで、ロボットに負けて全滅、だけならまだ良かった。あろうことか人類は電池として利用されるという完敗っぷり。

そして⑨の、現実世界と勘違いさせる夢の世界こそが「マトリックス」です。マトリックスとは要するに仮想現実プログラムのことです。


でもここからさらに複雑。このマトリックスというプログラムの設定がめちゃくちゃややこしくて、かつ深いんです!!つぎにそのお話をします。


◾️ロボット大苦戦!「人類わけわからんぞ」と試行錯誤の下町ロケット状態


人類(電池)に夢を見させるために、ロボットは現実世界を模したプログラム「マトリックス」を作りました。ちなみにこのマトリックスの大元を設計したのが、2作目リローデッドの最後に出てくるおじいちゃん、アーキテクトです。

「現実世界をプログラムで再現」とは、言うは易しですが、実際はもちろんめちゃくちゃ難しくて、ロボットですら、いや生物でないロボットだからこそ、大苦戦します。

人間みたいな複雑な感情とかを本来持ち合わせてないロボットだから、人間が現実だと感じる仮想世界がどんなものかいまいちわからないのです。

とりあえず最初、ロボットは「まぁ天国のような世界がいいっしょ、どうせ?」と安直に考えます。悩みも争いもない世界です。
そして、天国的現実プログラムをつくって人間の頭に流し込みます。そしたら人間たちは、「うぇぇこんなの現実じゃないす!!!」と、プログラムに対して拒絶反応を起こす。
天国を見させたら人類ほぼ消滅、というなんとも皮肉な結末になります。

「あれ?ちがうの?」と頭を下げて抱えるロボット。
「あ、なに人間はある程度悩みを持ちたいのね。なんだこいつらめんどくさっ!」
ということで、作り直したマトリックスver2は、人間の歴史を模して争いや葛藤のある世界をつくります。

それでもなぜか人類はプログラムを拒否。電池たち消滅(2回目)

なんなんまじでこいつら!!とロボット。
人類の理解は思ったより難しい・・と壁にぶち当たったロボットたちは、人間をもっと研究せねば、と人間研究専門のプログラムをつくります。
それが「オラクル」。映画のなかで「預言者」と呼ばれ出てくるおばあちゃんです。

オラクルばあさんの研究の末、「人類はどうやら自分で選択をしたいらしい」ということが分かります。自分達でいろんなことを選びながら生きていくことで、人はリアルを感じる。なんか深い話ですね。


ということで、この「選択性」を組み込んだ新バージョンのマトリックスをつくります。そしたら大成功!人類の99%がプログラムを受け入れるようになります。失敗続きの試行錯誤の末に大成功。まるで下町ロケットの佃製作所のようですね。ロボットが感動したかは不明。


ちょっと待って。99%でいいの?100じゃないの?
そう思った方は良い気づきです!

そう、現実を忠実に再現しようとしても、何から何まで完璧な現実なんてなかなか作れない。小さなズレがどうしても生まれてしまいます。
そしてその小さなズレに反応してしまい、「ん?この世界、もしかして現実じゃなくない?!」と、マトリックスの存在に敏感に気付いちゃう人間が一定数出てしまうのです。
そういう人間はプログラムにとって邪魔です。要するにバグ。放置したらプログラム全体に悪影響を及ぼしかねない。

だから、バグを出した人類はマトリックスから切り離して、電池のお役目を解きます。そしてバグ人間たちを集めて別の場所で生かしておきます。

どうして電池として使えなくなった人類を殺さないのか、というと、人間がどういう振る舞いをするのか、マトリックスの中だけじゃなく、リアル世界のほうでも一定見ておきたかったからです。


もうお気付きかと思いますが、プログラムを受け入れなかったバグ人間が、モーフィアスやトリニティたち映画の登場人物ですね。そして映画の中で出てきた、最後にして唯一の人類の街ザイオンが、このバグたちを集めた場所です。
つまりザイオンはロボットが用意した人間観察池で、登場人物たちは観察されてる実験体だったんです。ここ、分かった時なかなか衝撃でした。

ザイオンの住人たちはロボットからの支配から自由になろうと戦い続けてます。でも、最初に申し上げたように、この世界は人類がボロッカスに負けたあとの世界です。
どんなに頑張ってももう逆転はありえなくて、健気に反抗してくる人類たちをロボットは、「ふぅんこうなったらこんなふうに行動するのね」とゆっくり観察してるだけです。

なんともまぁ酷いおはなし。


◾️このたび6代目救世主を拝命しましたネオです。


さてつぎは、映画の主人公、キアヌ・リーブス演じるネオ・アンダーソンさんについてです。救世主だとかなんとかチヤホヤされてますが、結局彼は何者なのか。

リローデッドの後半で、マトリックス設計者のアーキテクトじいさんが、衝撃的な発言をします。

「ネオくん、君は救世主とかなんとか言われてるけど、もともと、君みたいな人間が各バージョンで一人現れるような設計だったんだよ。ちなみに君みたいな役割を持ってたパイセンは過去5人いました。君は6代目です。」

なんとネオの存在すら、ロボット側の設計の中でした。


もう少し詳しく説明します。

ネオはマトリックス一作目で、「あれこれ現実じゃなくね」と目ざとく気付き、晴れて電池を卒業します。ということは彼もモーフィアスたち同様、バグのひとりです。

でも彼はただのバグじゃない。バグの中のバグ、バグの王様です。

バグの王様は、マトリックスの世界でわりと好き勝手できるという特典を持ちながら、バグの中でもより高度で緻密な情報を蓄えていくという役割が与えられます。

この高度なバグ=救世主プログラムをもつ人間は、ロボットが未だ計算しきれていない1%を改善する貴重なヒントを持つことになります。


一旦、マトリックスのバージョンアップについて話を戻します。

1%のズレといえど、その1%が積み重なっていけば少しずつマトリックス内のズレは大きくなっていきます。チリも積もれば、です。なのである程度ズレが大きくなったら、システム全体を一度リセットして、マトリックスを新しくキレイにつくり直す必要があります。

で、作り直す際に大事になるのが、改善点の情報を持った救世主プログラムさんです。この救世主さんを新規のプログラムに読み込ませて、より完成度の高い次世代バージョンのマトリックスを作り出すのです。これが2作目の副題「リローデット」の意味です。

ちなみに、マトリックスを新しくする際に、バグの溜り場だったザイオンも一緒にリセットします。この一連の流れが過去5回あり、そのたびにそれぞれ救世主さんがいたということです。ザイオンも過去5回滅びてます。


そしてリローデッドの最後で、ぶじ救世主プログラムとしての任務を全うしたネオは、最後の役割として「マトリックスをバージョンアップさせるために、新マトリックスに取り込まれてくれるかな?」と聞かれます。

しかしなんと、「やーだよ。おれトリニティが大事だもん」と、新バージョンへのリローデッドを拒否します。

それでロボットは、「あっそ、じゃあマトリックスが壊れて人類全滅するよ?ザイオンも当然滅ぼすし。」と電池ふくめた人類消滅を決めるのです。

でもここで疑問点。
強制的にネオを取り込んでマトリックスをバージョンアップさせればいいところを、ネオくに選択させるんだから、そりゃ拒否される可能性もあるし、かつ人間電池が全部消滅したらロボットだって困るだろうに。

それでもネオにあえて選ばせたのは、それだけ「人間が自分の意思で選ぶ」ということがマトリックス完成に大事だということだと思います。

とはいえ表面上選ばせつつも、選択の余地ないように追い込んでたつもりなんでしょうが、まさかネオが人類よりトリニティを選ぶなんて思ってなかったようです。まぁそのへんはまだロボットが愛を理解しきれてなかったということですね。(このへんの理由はしっかり説明されてないので、あくまで仮説です)


◾️負け続け人類。しかしネオのウルトラCで漸く1点奪取!!

「じゃあ結局人間はロボットに一矢報いることすらできなかったの?」
いえ、そこは最後の最後でネオが頑張りました。

もちろん逆転はしてません。でもまぁ、1点は取れたといえるんじゃないですかね。それが最後の3作目「マトリックスレボリューション」の話になります。


ロボットの誤算は、ネオがリローデッドに応じなかったことと、もうひとつありました。それが、生え際気になる系エージェントのスミスさんの存在。

エージェントスミスはもともとマトリックスのプログラムで、ネオたちバグを監視・排除する、いわばウイルス対策ソフトでした

しかし、一作目の最後でネオと戦った際に、ネオの力が一部コピーされてしまいます。それでプログラムとしての役割から開放されて、好き勝手マトリックスを荒らすコンピュータウイルスになってしまったんです。自分を無尽蔵にコピーできる能力を持ち、マトリックス内をスミスだらけにします。

さすがにこれはロボット側も困った。どうしたもんかこれじゃ今のマトリックスが全部パァになっちゃうよー、と悩んでたわけです。
このへんは人類が狙ってやったわけでなく、偶然のトラブルだったんですが、とはいえ完璧で手の出しようがなかったロボット側に、ついに付け入る隙ができたわけです。

そこでネオくんはロボット世界に乗り込んで交渉します。
「スミスさんに困ってんでしょ?俺なら倒せるぜ。その代わり、スミスをなんとかしたらザイオンと人類は消滅させないでね」
と交渉を持ちかけます。

一旦、ロボットとしてもまぁなす術がなかったので、人類に勝って以降はじめて、人類側の言い分を受け入れます。まぁちょっと計算は狂うけど、ロボットにそんなに損はない話ですからね。


で、見事ネオはスミスを倒すわけです。
ただ正確にはこれネオがスミスを倒したわけじゃなく、ネオがスミスに付け入る隙を作ってロボット側がスミスを消去できるようにしたんですが、、まぁこのへんややこしいのでネオが倒したってことでいいと思います。
まじややこしいんすよ。。

とはいえこれでザイオンはリセットされずに残りました。スミスも消えてマトリックスは元どおり。めでたし。


でもザイオンは残ったけど、人類がロボットの支配から自由になった訳ではありません。果たしてこの後どうなるのか。ロボットがとうとう愛を理解したというような描写が少しあるんで、それがきっかけで人間との共生を考えていくのか。もしくはスミス消滅のため一時だけ人間側に譲歩してあげただけで、ほとぼりさめればまたザイオンを消してマトリックス更新するのかもしれません。

このあたり、4作目でどう続いていくのか、もう楽しみで仕方ありません。


とにかく壮大なかんじの三部作でしたが、きちんと中身を見ていくと、人類がロボットに8-0で負けてたのをなんとか8-1にして、すこーしだけ人類の体裁を保てた、というかんじのなんとも切ない話。

とはいえこれだけのスケール感で、かつ緻密な世界設計をしてる映画はそうないんじゃないんですかね。理解するのにまじで一苦労でした・・・

ちなみにマトリックスを創り出したウォシャウスキー兄弟。マトリックスを作った時は兄弟だったんですが、いまは性転換してウォシャウスキー姉妹になったそうです。ま、こんなご時世なのでそこに関してはぜんぜんいいのですが、こんな凄すぎる世界を作り出すだけあって、普通とはかなり違う感性を持たれてたんだろうな、と思います。


ほかにも、アクションシーンとか、日本アニメの影響とか、哲学とか、いろんなテーマや要素が入ったものすごいシリーズなんですが、今回は世界設定の解説をメインに話しました。まじで言い出したらキリがないんですね、この映画。。


ということで、マトリックスのすごさ、伝わりましたでしょうか??
こんなすごい映画の続編が、2021年12/17に公開されるのです。
本当にこれは、きちんと理解してから見たほうが絶対面白いです。


今回はかなり長くなりましたが、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。もしコラム内で「その理解は違うぞ」などあれば、是非おしえていただきたいです。



>>>>追記

世界設定に続いて、マトリックスのストーリー構成についての記事も書きましたので、こちらもぜひお願いします!



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