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【2024センバツ】新基準バット導入で本当に長打は減った?ロースコアは増えた?

2024年の選抜高校野球も5日目まで計15試合が終了した。

32校が出場する今大会は合計31試合が行われる。
つまりここが大会の折り返しとなる。 

センバツ前半戦を終えて、ここまでの傾向をデータから分析していこうと思う

今大会最大の焦点

まず今大会、ここまで最大の焦点となっているのは
「新基準バットが試合にどう影響するか」
であることは間違いないだろう。

メディア・SNS等では

・ロースコアの試合が増えた
・長打が大幅に減少した
・とにかく打球の飛距離が出ない(飛ばない)

といったコメントや記事が散見される。
実際に筆者もここまで全試合を観戦し、同様の印象を抱いた。

ただ個人的にデータを収集する中で、違和感も感じた。それが下記の2点だ。

①得点は意外と入っているのではないか?
②当たりは良くなくても長打数自体はそこそこ出ている?

その疑問を基に今大会ここまでのデータを分析してみた。印象論ではなくデータで今大会の前半戦を振り返ってみよう。

インパクトの大きかった開幕戦

八戸学院光星vs関東一という好カードで始まった今大会。
洗平・畠中という両サウスポーの投手戦で、開幕からロースコアのタイブレーク決着という滑り出しとなった。

この試合の前半の打球を見て、新基準バットの「低反発」を強く感じた方も多くいらっしゃるだろう。
八戸学院光星の1番を打つ好打者・砂子田の1塁への打球は、芯を外したとは言え全く勢いを感じない。そして後続打者のファールになる打球にも勢いがない。

最初に打球が外野まで飛んだのは、2回裏の関東一の7番小島のライトへのファールフライ。これも力のない打球だった。

試合は結局タイブレークの末、5-3で八戸学院光星が勝利した。
両チーム投手陣の好投が光る一戦だったが、筆者としては前半戦の攻防の「飛ばない」という衝撃が最も大きい試合となった。

新基準バットは思っていた以上に飛ばない

我々にそう印象付けるには十分な試合だったといえるだろう。

「ロースコアが増えた」は本当か?

新基準バットの影響を考える上で、まずは昨年のセンバツと今大会のデータを比較してみよう。

昨年2023年の選抜高校野球大会は95回の記念大会。
よって今年とは試合数が異なる為、1試合平均のデータで考えてみたい。

・得点は0.1点の減少
・安打数は約0.5本の減少
・長打は約0.2本の減少


上記3項目ともわずかに減少はしているものの、ほとんど変化はない。

特にイメージでは「激減している」と思われた
得点数、長打数ともに実際は大して減少していない
とお分かりいただけるはずだ。

しかも条件を合わせて「昨年のセンバツ15試合終了段階」で比較してみると、結果は下記の通りだ。

驚くべきことに、今大会は
現段階では昨年よりも得点・長打数ともに増加しているのだ。

また今大会の本塁打はここまで、豊川/モイセエフ、神村学園/正林の2名のみだが、計12本の本塁打が出た昨年も「現段階では2本のみ」であった点にも触れておきたい。

とにかく上記のデータから、あくまで現時点では
・ロースコアが増えた
・長打が大幅に減少した
というメディアによる報道は
根拠のない印象論、つまり「全くのデタラメ」である
とご理解いただけたのではないだろうか。

ただ注意しておきたいのは
「では新基準バットは試合に影響しないのか?」
という問いに対しては、答えは「No」
と考えるべきである点だ。

その理由としては新基準バット導入により
「打球速度、飛距離ともに落ちているのは事実」
だからである。

新基準バットで長打はどう変わったか

「打球速度、飛距離ともに落ちている」
これは紛れもない事実であると考えられる。

田辺・山本陣選手が星稜戦で、青森山田・原田選手が京都国際戦でそれぞれ9回に放った大飛球は昨年までなら間違いなくスタンドインしていたであろう打球だった。

今大会ここまで特に減少していない長打数だが、
その内容は昨年までと大きく変化している。

一般的に長打と聞くと「外野の頭を越える」や「外野の間を破る」といった痛烈な打球をイメージするが、今大会の長打には下記のような特徴がある。

・前進守備の外野の頭を越える打球
・浅い外野フライに飛びつくも落球→打者2塁へ

新基準バットにより外野手は例年のポジショニングと異なり、より浅い位置で守る傾向が顕著に見られる。
つまり「飛ばないバットだから発生した長打」と言えるだろう。

長打数は減少していないものの「長打の内容は大きく違う」というのが今大会の特徴
なのではないだろうか、と筆者は考える。

ただセンバツのここからの後半戦、勝ち上がるチームは好投手が多く、外野もレベルの高い野手がそろうはずだ。
ゆえに最終的には大会を通じての長打数は前半戦よりも減少するのではないか、と個人的には予測している。

接戦を勝ち切るには

「新基準バットが導入される今大会を勝ち上がる条件」
として、大会前に筆者は「制球力のある投手」と「選球眼」を挙げた。

ロースコアの増加が予測された今大会では
「四死球による大量失点は取り返すのが難しい」
と考えたのが理由である。

それを踏まえた上で、四死球数と失策数の増減を昨年と比較してみよう。

「投手有利」と言われる今大会だが、
一方で四死球は1試合平均で0.7個以上も増えている

つまり投手有利な状況の中で、打者は例年以上に「ボール球の見極め」を意識していると言えるだろう。

失策数に関しては、昨年と比較して大きな増減はない。ただ一方で、面白いデータをとってみた。

高校野球では昔から
「四死球とエラーは失点に結び付く」と言われ続けている。

では今大会では、
四死球・エラー絡みの得失点はどれぐらい
なのか?
ここについて考えてみたい。

通常、投手の「自責点」は一般的に
「もしエラーがなかったら」という観点から考えられる。

筆者は自責点にプラスして、
「もしエラーと四死球がなかったら」
という視点から今大会ここまでの総得点である102点を分析してみた。
(※タイブレークは自動的に走者2人が発生する為、対象外)

つまりこれは「打撃力で取った得点は何点か?」という指標に相当する。
便宜上ここでは「打力得点」と定義させていただく。

2024年センバツ ここまで15試合
得点:94点
(102点からタイブレークの8点をマイナス)
打力得点:39点(得点の41.5%)

純粋な打力による得点は41.5%。
なんと総得点の約60%が四死球・エラー絡みとなっている。

この数字も本来は前年比較が必要であるが、
膨大な時間を要するため比較無しとさせていただいた。(参考程度のデータとしてお考え下さい)

ただ昨年の総得点・四死球数・失策数から判断する限り、今大会と大きな開きは無いのではないかと推測する。

ゆえに「得点の60%が四死球・エラー絡みである」というデータから見ても、「四死球とエラーは失点につながる」という古来からの言い伝えは正しいと言えるのではないだろうか。

まとめ

あくまで大会はまだ折り返し点。
今大会の前半戦、ここまでのデータ(事実)と感想をまとめると下記の通り

データから分かる事実
・ロースコアの試合は増えていない
・長打数も大して減少していない
・四死球数は増加している
・得点(失点)の60%は四死球・エラー絡み

データからの個人的な感想
・外野守備位置と長打の内容は例年と大きく異なる
・投手/野手とも好選手が勝ち残るこの先、結果的にロースコアの試合は増えるのではないか
・投手の制球力・野手の選球眼が今大会のポイント


またここから少し「根拠のない個人的な感想」を記載させていただく。

今大会ここまで見て強く感じたのは、データ上は失策として現れない「バッテリーエラー」による失点が目立つ点だ。

これはデータ上、例年より多いということではない。
あくまで感覚として「目立つ」という意味だ。

広陵・高知戦で印象に残るシーンがあった。

高知の片井捕手は、昨年ショートから捕手にコンバートされたばかりで経験が浅い。

この試合で片井捕手は無失策だったが、記録に現れないキャッチングミスが随所に散見された。
当然、広陵ベンチは見逃さない。

この試合で広陵は4盗塁を記録しているが、2-1とリードしながらも試合が膠着した7回の攻撃で、広陵/中井監督は2死1、2塁からダブルスチールを敢行。

結果的にこの場面は、高知/片井捕手の好送球により3塁タッチアウト。
ただベンチの動きを見た限り、高知/浜口監督もこのシーンで「キャッチャーが狙われている」と感じたはずだ。

広陵ベンチの思惑は「高知バッテリーのミス誘発」だったのではないか、と考えられる。

「相手のミスを誘発する」というのは、新しい作戦ではない。

選手・監督・そして観戦者である我々全員が無意識的に、今大会は例年以上に1点の重みを感じているのは間違いないだろう。

よって新基準バット導入により、今後の高校野球では
「ミスをしたほうが負ける」という考え
がこれまで以上に強くなるのではないだろうか。

同時に今回の広陵・中井監督のように「いかに相手のミスを誘発するか」というのも重要な攻撃のポイントとなるだろう。

今後の高校野球の展望(個人的な感想)
・捕手の能力が試合に大きく影響する
・「いかに相手を上回るか」よりも「いかにミスをなくすか」「いかに相手のミスを誘発するか」が重要となる

2024年センバツもこれから後半戦。
強豪校同士の戦いが増えてくるはずだ。

いったいどのような試合が展開され、
どのチームが栄冠を勝ち取るのだろうか。

今大会が高校野球の分岐点になる
個人的には、そう思わずにはいられない大会である。


最後までお読みいただきありがとうございました。

※尚、筆者の予想は大体が外れます。
悪しからずご了承ください。。。

2024.3.23 甲子園ラボ








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