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【2024センバツ】データ分析で考える投手力ランキング

まもなく開幕する2024年のセンバツ高校野球。

筆者は例年、開幕前に出場校の秋の成績データを分析している。

そのデータをご紹介したい。
今回は投手力編

好投手の条件


「好投手の条件」を定義するのは難しい。

メディア等でよく取り上げられるのはMAX○キロという球速だ。
「どれぐらい速い球を投げられるか」というのは、投手の将来性を考える上では重要な目安と言えるだろう。

今大会のMAX球速ランキングは下記の通り。

MAX球速ランキングトップ10

154 平嶋(大阪桐蔭)
151 森(大阪桐蔭)
150 中野(大阪桐蔭)
150 今朝丸(報徳学園)
149 小林(常総学院)
149 伊東(愛工大名電)
148 岡本(八戸学院光星)
148 高尾(広陵)
148 堀田(広陵)
148 平(高知)


ここで注目したいのは上記10名のうち、背番号1を背負う投手は平嶋、小林、高尾、平の4投手のみである点だ。

今大会の出場投手は

絶対的な大注目の投手はいないが、
控えも含めてハイレベルにまとまる投手が多い


というイメージが強い。

今大会最速は154キロ右腕・平嶋投手(大阪桐蔭)
ただ筆者は154キロを計測したシーンを確認できておらず、140キロ台中盤のストレートが多い印象を持っている。

大阪桐蔭には平嶋、森、中野と150キロを越えるストレートを投げる3投手がおり、大会でも注目を集めるだろう。

奪三振


三振は「アウトを取る」という目的を果たす1つの手段にすぎない。
三振を奪ったからと言って、アウトが2つ増えるわけではない。

だが奪三振には大きなメリットがある。
それは走者を進塁させないことだ。

「三振を奪える」と言うのは絶体絶命のピンチを凌ぐ大きな武器になる。

奪三振に憧れを持たない投手はいないだろう。

本格派投手の醍醐味でもある奪三振。
秋の大会で多く三振を奪った投手は誰かを検証してみよう。

1試合平均奪三振 トップ5(個人)

※27イニング以上の登板

1 辻井(高知)         10.85
2 吉岡(阿南光)       9.48
3 佐藤(健大高崎)    9.27
4 中野(創志学園)    9.17
5 間木(報徳学園)    9.15

昨年のセンバツでも好投を見せた辻井投手(高知)がトップとなった。2位も同じく四国を代表する本格派右腕・吉岡投手(阿南光)
3位の佐藤投手(健大高崎)は中学時代にU-15侍JAPANに選出された注目の2年生サウスポーだ。

投手総合力


ただ「球が速いのが好投手か?」と問われると、
もちろん球が速いだけでは好素材ではあっても好投手とは言えない

投手の目的は対戦打者からアウトを取ることであり、速い球を見せることではないからだ。

それでは「アウトを取る」投手はどのように洗い出せば良いのか。

セイバーメトリクスでは投手の総合指標を分析するにあたってWHIPSという指標が用いられる。
WHIPSとは「1イニングに背負う走者の数」である。

筆者が個人的に今大会出場選手のWHIPSを計算した結果は下記の通り。
ただし個人データはサンプル数が少ないと参考にならない指標だ。
そのため今回ご紹介する個人データは秋に27イニング以上投げた投手に限定させていただく。

WHIPS ランキング(個人)


1  間木(報徳学園)     0.70
2  西山(近江)           0.77
2  中崎(京都国際)     0.77
4  小川(作新学院)     0.81
5  堺(別海)              0.84
6  今朝丸(報徳学園)  0.87
6  一ノ瀬(明豊)        0.87
8  佐宗(星稜)           0.90
9  大泉(愛工大名電)  0.91
10 櫻田(青森山田)    0.93


WHIPSは一般的に1.00を下回ると「安定した投手」と考えられている。

トップ3はいずれも近畿の好投手である。
特に昨年のセンバツ準優勝の立役者でもあった報徳学園の間木、今朝丸の両投手はWエースと呼ばれるに相応しい成績を残した。

また中学時代から注目を集めた4位の小川投手(作新学院)は本格派でありながら安定感を感じさせる好投手と言えるだろう。

意外と言っては失礼だが、5位には21世紀枠の別海のエース堺投手がランクインした。サイドハンドから内外角をついて詰まらせる投球が初の甲子園を掴む原動力となった。
秋は非常に被安打の少なかった投手だが、開幕直前の練習試合でやや打ち込まれているケースが目立つのが気がかりではある。

チーム別の投手力分析


ここまで投手個人のデータを見てきた。

昨年のセンバツはエース林投手の好投で勝ち進んだ山梨学院が優勝したが、昨今の高校野球は基本的に1人のピッチャーで勝ち進むのは困難だ。

と言うわけで「投手力が安定しているチーム」を検証するため、チーム別のWHIPSを見てみよう。

WHIPSランキング(チーム別)


1  報徳学園        0.74
2  京都国際        0.79
3  近江               0.81
4  八戸学院光星 0.84
5  別海               0.93
5  創志学園        0.93
7  青森山田        0.99
8  作新学院        1.00
9  広陵               1.02
10明豊               1.05


ここで注目したいのが八戸学院光星
昨年の夏に2年生ながら好投を見せた洗平・岡本の快速サウスポーコンビがそのまま残る。
両投手ともイニング数が規定に到達せず個人ランキングには名前が出てこなかった。

イニング数が少ない理由は3番手のサウスポー森田の好投だ。Wサウスポーエースが注目されるが、秋に1番多く投げたのはこの森田投手である。新基準バットにより投高打低が予測される今大会、3枚の好サウスポーの活躍で一気に頂点まで駆け上がっても不思議ではない。

同様に創志学園の山口・中野青森山田の関・櫻田もWエースと呼ぶに相応しい活躍を見せた。
複数の好投手を持つだけに今大会のダークホースになるかもしれない。

昨年の甲子園で最もインパクトを残した下級生と言えば高尾投手(広陵)だろう。

ただ秋は本調子とは言えず、本来の出来ではなかったように思う。それでも控えの堀田投手が大きく成長したことで、チームとして良い投手成績を残すことが出来た。このあたりの中井監督のマネジメント力はさすがと言わざるを得ない。

続いてさらに深掘りして各ランキングを見ていこう。

1試合平均被安打トップ5(チーム別)


1 八戸学院光星 4.28
2 別海               5.00
3 近江               5.02
4 報徳学園   5.18
5 北海               5.61


1試合平均与四死球トップ5(チーム別)


1 京都国際    1.07
2 報徳学園    1.46
3 創志学園    1.94
4 星稜          1.95
5 作新学院    2.06


1試合平均失策数トップ5(チーム別)


1 八戸学院光星   0.33
2 報徳学園         0.40
3 明豊               0.44
4 高知               0.50
4 日本航空石川   0.50


上記から

・3人のサウスポーを要する八戸学院光星のディフェンス力の高さ
・京都国際の中崎投手の制球力の良さ
・報徳学園のWエースの能力の高さ


が伺える。

また地区大会を制し明治神宮大会の決勝までハイレベルな相手との対戦が続いた点を考慮すると、星稜、作新学院の投手陣が残した投手成績は見事と言う他ない。

投手力に不安を残すチーム


上述してきたように、好投手について書かれた記事はたくさんある。

ただデータ分析の真骨頂はこの先にある、と筆者は考える。

なぜならデータは各校のストロングポイントを明確にするだけでなく、同時にウィークポイントも明確化されるからだ。

各項目のワーストを見ることで
「投手力にやや不安の残るチーム」
についても考えてみよう。

ここでは個人成績と奪三振は記載しない。

なぜなら勝利は個人成績の良し悪しとは別であり、また奪三振は「アウトの取り方の1つ」なのでワーストに意味はない。

データ分析の目的は、あくまでチームの特色把握であるという点をご了承いただきたい。

WHIPSワースト(チーム別)


1  豊川                1.78
2  日本航空石川 1.41
3  宇治山田商  1.39
4  神村学園   1.38
5  阿南光            1.28


1試合平均与四死球ワースト


1  豊川              4.79
2  東海大福岡    4.39
3  北海             4.28
4  健大高崎       4.11
5  大阪桐蔭       4.10


1試合平均失策数ワースト


1  宇治山田商    2.18
2 京都外大西    1.60
3  田辺              1.57
4  耐久              1.56
5  大阪桐蔭       1.50



上記のチームは秋の大会で投手を含めたディフェンスに課題が残ったと言えるだろう。

意外な事に大阪桐蔭が与四死球、失策数でワーストにノミネートされている。
これは筆者がデータを取り始めてから今年が初めてのケースだ。

とは言え「秋の段階で課題が明確である」と言うのは、「冬の間の改善ポイントが明確である」ということは意識しておきたい。

つまり「伸びシロの多いチーム」とも言える。

例えば豊川は地区大会で背番号1を背負った中西投手が打ち込まれたが、その結果マウンドを譲り受けたサウスポー鈴木投手の成長につながり、明治神宮大会では鈴木投手が背番号1を奪った。

他にも北海は与四死球でワースト3となったが、チーム防御率は1.18と好成績だ。これは走者を背負いながらも失点を許さないという粘り強さの裏返しである。

このように秋の成績が悪かったチームが「戦力的に劣るチームではない」と言う点はご理解いただきたい。

まとめ


上述した通り、昨年は林投手を中心とした山梨学院がセンバツを制した。

しかし山梨学院、とくにエース林投手の秋の成績はいずれの項目もランキングの平均以下だった。

つまり、データから大会展望を占う筆者の予想は外れたと言うことだ。



ここまでお読みいただき恐縮ですが、さらに付け加えるなら筆者の予想はだいたい外れます。

いや、ほんとマジで外れます。

一冬越えた高校生の成長は本当にすごい。

というわけで例年お決まりの言葉で締めくくろうと思います。

一冬越えた選手の成長により
自分の予想がことごとく外れる


これが高校野球のデータ分析をする者にとって
最高の喜びなのです。




最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

次回はセンバツ出場校データ分析の打撃編。
良かったら、ぜひそちらもお読みくださいね!

甲子園ラボ

※記載のデータは筆者個人の作成ツールで算出しています。他媒体のデータと相違点があるかもしれませんが、ご了承いただきますようお願いいたします。

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