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新基準バットから考えるセンバツ展望予想2024

第96回選抜高校野球大会が3月18日から開幕する。

組み合わせ抽選も終わり、開幕を待ちきれない高校野球ファンも大勢いるのではないだろうか。

初戦から好カード目白押しの楽しみな大会となったが、今回は「組み合わせを度外視した視点」から大会の展望を占ってみたいと思う。

メディア等では優勝候補として

大阪桐蔭
広陵
星稜
作新学院


の4校がよく挙げられている。

尚、出場キャプテンへの優勝候補アンケートは
1位 自チーム(20校)
2位 星稜(4校)
3位 どのチームも強い

という結果となっている。

果たしてどのような大会になり、どのチームが春の頂点に立つのだろうか?

甲子園大会の転換点


今大会の1番のポイントは何と言っても
「新基準のバットが高校野球をどう変えるのか」
であると筆者は考える。

高校野球の「歴史的転換点」となる可能性さえある、それぐらいインパクトのある改革だ。

甲子園大会の大きな変化点で言うと、

①1974年 金属バット導入
②1991年 消音バット導入
③1992年 ラッキーゾーン撤去
④2002年 新基準バット導入(重量・太さ制限)
⑤2024年 新基準バット導入(厚み・太さ制限)


上記5つが思い当たる。
ただ①②に関してはそれぞれ「コスト」「金属音の健康への影響」と今回と目的が異なる。

ゆえに今回は③④が大会にどのような影響を与えたのかを分析して、今大会の展望を予測しようと思う。

1992年 ラッキーゾーン撤去


1992年のセンバツからラッキーゾーンの無い甲子園となった。

その影響は大きく、大会本塁打数は前年の19本から7本に減少。しかも1992年のセンバツにおいて大会本塁打7本のうち3本は同一人物によるものだった。

その選手こそ、後のメジャーリーガー松井秀喜だ。紛れもなく野球史に残る名選手である。

もしも松井秀喜がいなかったら

という過程で話を進めると、この大会の本塁打数は4本となる。これは前年の19本からおおよそ75%の減少だ。

この1992年、優勝したのは三沢投手を要する帝京。準優勝は吉田投手を要する東海大相模。
後にプロ入りする右の本格派投手を要して、ロースコアの接戦をものにした両校が主役の大会となった。

ただラッキーゾーンの撤去により本塁打数は大幅に減った一方で、3塁打が増えた点も特徴的な大会だった。

2002年 バット重量規制


2002年の新基準バット導入は今回と同じく「打球速度を抑える」のが目的の改革となった。

バットは基本的に金属部分の厚みが薄く、中の空洞が広くなる方が反発係数が上がり「飛ぶ」と言われている。

重量を900g以上と定める事で金属の厚みが増し、反発係数を抑える事で打球速度を抑えるのが目的だった。

これにより前年(2001年)に21本だった本塁打は14本に減少。33%の削減となった。

本塁打は14本出たものの、好投手が勝ち進んだ準々決勝以降の7試合では1本のみというのが特徴的だった。

この大会はのちにプロ入りする大谷投手を擁する報徳学園が、決勝で好投手・丸山を擁する鳴門工を破り優勝を果たしている。

ただし新基準バット導入の効果が現れたのは2年ほど。2004年以降、本塁打数は増加する事になる。

選手の「ウェイトトレーニングの進化」が本塁打増加の要因とされる事が多いが、それ以上に各メーカーが重心ポイントを変える等の工夫により「900g以上でも飛ぶバット」の開発を進めた点が大きいだろう。

2024年 今回導入の新基準バット


さて、ここで今大会から使用される新基準バットについて考えてみよう。

今回の新基準は「金属の厚み+太さ」についての制限である。

2002年の新基準バットは「新しいバットの導入」というよりも「使えなくなるバットがある」というものだった。当然当時から900g以上、太さ67mm以下のバットは存在していたからだ。

それに対して今回は厚み5mm以上、太さ64mm以下の「新バットしか使えない」という改革である。

当然インパクトは今回の方が大きいだろう。

実際に今回の新基準バットを使用した選手のコメントからも
「思っていた以上に飛ばない」
「特にフライは失速する」

という声が多いが、2002年の大会前にはこういうコメントは聞かれなかった。(もちろんSNSが無かったというのも理由の1つではあるが)

ただ今回の新基準バットもメーカーの努力で時間の経過とともに改良品が開発されるだろう。

なぜなら今回の「新基準バット」はメディア等で「低反発バット」と呼ばれていたりもするが、あくまで厚み・太さの変更にとどまっているからだ。

アメリカではBBCORという「反発係数を規定した金属バット」に移行されている。
日本の高校野球で今年から導入される「新基準バット」は反発係数自体を規定するものではない。

ゆえに基準をクリアした上での改良品が今後開発される可能性は大いに考えられる。

ただ導入初年度である今大会は「新基準バット」による影響は大きいはず

上記から推測すると今大会は本塁打数の減少はもちろん、予想以上にロースコアの接戦が増えるのではないだろうか。

今大会を勝ち進むチームは?


上述の通りラッキーゾーン撤去後の1992年、バット重量制限後の2002年は帝京・三沢投手、東海大相模・吉田投手、報徳学園・大谷投手、鳴門工・丸山投手ら好投手を擁するチームが活躍した。

これらの投手に共通するのは、三振を多く奪うというよりも、球威のあるストレートをコーナーに投げ分けて巧みに詰まらせる技術が光る点である。

今大会も普通に考えると、四球で無駄な走者を溜めて大量失点というケースを避けられる「制球力のある好投手」が活躍する大会になるのではないだろうか。

昨今メディアを騒がせる「好投手」はMAX○キロと言った球速ばかりが取り上げられるが、データ分析を進める中で、筆者はセイバーメトリクスの指標の1つであるWHIPSに注目したい。
これは「1イニングに走者を何人出したか」を表す数字である。

WHIPSランキング(チーム別)トップ5

1 報徳学園           0.74
2 京都国際           0.79
3 近江                 0.81
4 八戸学院光星     0.84
5 創志学園           0.93


WHIPSは一般的に1.00を下回ると素晴らしいと評価される。上記のチームは非常に安定した投手力を武器に秋の大会を勝ち上がったと言えるだろう。


一方、打線に関して言えば
「飛ばないバットでどのように加点するか」
が大きなポイントとなるはずだ。

近年の高校野球のデータを分析すると、特徴的だったのは「長打率」が試合の勝敗に大きく影響していた点である。

その結果、パワフルな打線を有するチームが勝ち進む傾向があった。

しかし新基準の「飛ばないバット」になっても、この傾向は見られるのだろうか?

筆者は変更により「出塁率が大きく影響する」方向に変わるのではないか、と考える。

その中でも注目したいのが「選球眼」だ。

昨シーズンの阪神タイガースのように、ボール球に手を出さず、四死球で出塁率を高める事で優位に試合を運べるチームが勝ち進むのではないだろうか。

そこで今回打撃成績ではなく、選球眼にフォーカスしてみたい。

セイバーメトリクスではBB/Kという指標で選球眼を評価するケースが多い。
これは三振数と四死球数の比率である。

三振が少ない+四死球が多い=選球眼が良い

という考え方だ。

BB/Kランキング(チーム別)トップ5

1 神村学園 3.28
2 関東一  2.48
3 健大高崎 2.05
4 報徳学園 1.86
5 中央学院 1.82


上記のチームは秋季大会でしっかりとボールを見極められていたと言えるだろう。上記のいずれのチームもフライアウトが少なく、低い打球が多かった点も印象的だ。

これは「フライが失速する」と選手がコメントしている新基準バットへの対応として大きなアドバンテージになるだろう。

また、もう一点。
ロースコアの接戦が増えると1番カギになるのは安定した守備力である。

守備の乱れから大量失点してしまうと、今大会は命取りになる可能性が高い。秋にエラーが少なかったトップ5を紹介する。

1試合平均失策数 トップ5

1 八戸学院光星 0.33
2 報徳学園         0.40
3 明豊               0.44
4 日本航空石川   0.50
4 高知               0.50


投手力、守備力から考えると報徳学園、八戸学院光星の2校のディフェンスの安定感は素晴らしいと言えるだろう。

まとめ


今大会を勝ち上がるポイント

・安定した投手力、守備力
・選球眼
・低く強い打球


いずれも昔から言われている基本のポイントではあるが、今大会はその基本の大事さ「野球の本質」こそが問われるのではないかと考える。

冒頭で述べたとおり、今大会の優勝候補として良く名前が挙がるのが

大阪桐蔭
広陵
星稜
作新学院


の4校だ。

それに加えて秋のデータを参考に判断すると

ディフェンス型
報徳学園、八戸学院光星、高知

バランス型
健大高崎、関東一、愛工大名電、明豊

オフェンス型
神村学園、豊川


といった、データ上で能力の高さを伺わせる学校の戦いぶりにも注目したい。

また前評判の高くない学校も、ロースコアの接戦に持ち込む事で意外な番狂せが起きる可能性も予測される。
タイブレークによる決着も増えるのではないだろうか。

それゆえに注目度が高くない学校の快進撃にも期待したい。

今回挙げたデータはごく一部のみなので、次回以降でより詳細な分析結果をご報告させていただこうと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

甲子園ラボ

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