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『宇宙の終わりに何が起こるのか』 ケイティ・マック

物理学、宇宙学が好きな一般人のための、素晴らしい娯楽書だ。

宇宙は将来いかにして終焉するか。
現在研究者たちによって可能性として提唱されている、宇宙の消滅のいくつかのパターンを解説する。
例えば、宇宙が膨張から収縮に転じて、ビッグバン前の超高密度となって消滅するというビッグクランチ、またその逆で、宇宙が永遠に膨張を続け、やがて完全なる無の世界になる、宇宙の熱的死と呼ばれるもの、など。

わざわざ言う必要もないだろうが念のために言うと、この本はもちろん、終末の様子を語って読者の不安を煽ったり、啓蒙したり、そんなことが目的の本では全くない。
そもそも、そうかもしれないと予想される宇宙の終わりは、数百億年、または数兆年という途方もなく先の事態であるし(地球の消滅はもう少し近い未来と予測されているが、それにしても数十億年は先である)、それに対して人間が打てる手も、現時点では、清々しく笑いたいほどに皆無なのである。

この本にあるのは、純粋に、人間にとって最大の謎である宇宙について知るワクワクである。
科学的な打開策を述べているわけではなく、未来へ向けて人類を鼓舞しているわけでもない。
ただただ、知るって楽しいよね、と著者はその知的な目を輝かせている。

だから私達読者も、とことん純粋に、楽しめるのだ。
宇宙という途方もない神秘の、想像を絶するほど巨大なヴェールの、ほんのかすかにめくれた所から見える世界。これほどワクワクするものはないではないか。
そして何が嬉しいって、私達はこの本から、なんの努力も学びも要求される心配はないのだ。
読んで想像して思いを馳せて、知ることをただ楽しむ。冒頭に、私が本書を娯楽書と書いた所以である。

一般人のためのと書いたが、まったくの初心者向けというわけではないので、楽しんで読むにはある程度の基礎知識が必要かもしれない。
あなたが量子物理学の摩訶不思議な世界や謎に満ちた宇宙について知ることが好きで、関連の本やテレビ番組、ネット記事を見つけるとひとまず齧ってみるタイプであれば、この本を楽しむための基礎は十分である。大いに脳を喜ばせてほしい。

エピローグでは、著者の、科学者としての真摯な心が語られている。
下記の引用は、著者がそこで引用している宇宙学者ルネー・フロジェックの言葉である。

「自分の研究を、私が100パーセント完璧にやって、しかも私が素晴らしい科学者だったとしても、その研究が宇宙の運命について何も変えないという事実が、私は大好きです。」

「たとえそれを理解したとしても、それを変えることはまったくできません。それは、恐ろしいことというより、解放です。」

「すべての人間が死に絶えたなら消えてしまうとしても、いまこの瞬間にその知識があるということが素晴らしい。だからこそ私は、この仕事をしているのです。」

大いなる世界を知ろうとする者の矜持が美しい。