見出し画像

転職体験記3(学校現場)

無事に異業種転職が成功し、私は都庁退職の2年後に私立中高一貫校の社会科教員として働き始めました。自分の職業適性を測るべく、男女別学と女子校の二つの学校での勤務となりました。学校での経験を簡単に紹介します。

カルチャーショック

学校現場は、想像以上に閉鎖的な場所です。新しい情報は、生徒がもたらすものくらいです。そして、大人よりも子供の多い場所でもあります。先生方は、生徒の扱いは手慣れたものですが、いかんせん大人との仕事をする機会が少ないように感じます。そもそも、メインの仕事である授業をしている間(私にとっては教員の最も大切な仕事は授業だと思っています)、第三者の目が介在することはほぼありません。学校行事や部活動などで教員が協力することはありますが、上下関係が(ほとんど)なく、あくまでメインの仕事の合間に行うことなので、片手間感が否めません。

電話応対、書類作成、仕事の進め方、何をとっても常識が違っていて、私は自分が学校現場に来てよかったのか、と転職して早々に後悔し始めていました。顔にそのまま出ていたの違いありません。。それでも、メインの仕事は授業です。諸先輩方や学校という場所にすごいスピードで引いていきそうだったので、そんな風になるまい、と他の先生の授業を積極的に見学に行って、研究しました。

授業の難しさ

研究した理由は他にもあります。自分が授業作りに苦戦したためです。今思えば、やりたいことが多過ぎて、同時に一回の授業で実現しようとしたために、容量オーバーになっていたのでしょう。そして、生徒との距離を近くし過ぎたこと。今は、自分にとっての適度な距離がわかるようになりましたが、最初はとにかく生徒の反応が気になって、生徒の気持ちになって授業をしていました。悪いことではないですが、やり過ぎると持っていかれます。苦戦している私は、他の先生たちの授業をよく見学に行きました。

先生の仕事は孤独です。授業中はいつも1人だからです。それが今では快適ですが、それまで上司や後輩と情報を共有しながら仕事をすすめていた手前、ものすごい違和感でした。全部自分1人で決められる…決めて行った仕事のフィードバックも一切なし。生徒の反応は、そのままフィードバックと受け取るのは少し危険です。視点が違うからです。話は逸れますが、教員は試験の出来で自分の仕事の評価をしがちです。例えば、平均点が悪かったら、授業がわかりにくかったというような具合です。授業の効果は点数だけではわからない。でも、客観的に自分の仕事を評価できる指標がそれしかないから、短絡的にみてしまうのだと思います。

二つの学校に勤務すること

強い違和感を感じつつ、二つの現場があったことは私にとって救いでした。自由に生きていこうと転職を決めた私にとって、校則の存在と規律を求める役割を担うことは苦しいものでした。ところが、意外なほどにこの「正しい規律」のありようは学校ごとに違いがあります。ある学校で良しとされるものが、別の学校では、毛嫌いされることを肌で感じました。校則とは秩序を保つためのただの「形式」であることが感じられたので、生徒の自由な行動を縛る側面もある校則を時間をかけて受けとめて行きました。

私の経験では、「厳しい校則」と「自由な校風」の間で、どちらのメリットデメリットも感じました。早い話がどっちもどっちでした。厳しさを第一にする学校で、授業中の発想だけ柔軟にしようとしても難しく、自由記述をさせても形式ばったものばかりで、面白さを感じません。自由な校風の学校は、発想も自由なので意見を言わせたり書かせたりすると、その若い考えにこちらも触発されるほど面白いこともありました。一方で、自由さは生意気さも助長します。こちらを小馬鹿にした態度をするなど腹を立てずにはいられない生徒もちらほら…目上の人への礼儀も、大切な素養だと思いわされます。初めから両方をバランスよく伸ばすのは至難の技、まずはどちらかに偏って、もう一方をそれぞれのスピードで身につけていくのだろうと今は考えています。

共学と女子校・男子校の違い

教員2年目で、共学の学校にも勤務しました。世間では共学の人気が高まっているようですが、私もこの流れには賛同します。女子だけ、男子だけ、というのは互いを意識しなくなるため、勉強に集中させることができるという発想に特に異議を唱える気はありません。ただ、片方しかいないという不自然さを思春期に経験すると、成人して両方がいるのが当たり前の社会で、歪みをもたらしてしまうように感じます。

男子校と女子校のノリはどこか似ています。多様性よりも、一致団結を促す傾向にあると思います。当然、片方しかいないから、団結しやすいということなのでしょうが、その団結は時に気持ちの良いものであると同時に、気味悪さも感じます。教員に対する生徒の態度も、やはり違いがあります。女子校と男子校の方が、教員側も同調を求められやすく、個人的には共学の方が教えやすいなと感じました。

非常勤職員と専任教員

4年間の非常勤職員を経て、私は専任教員になりました。経済的には専任教員の方が安定しますが、よく言われているように授業研究に充てる時間はほとんどなく、不登校生徒と成績不振の生徒の対応、部活動指導にほとんどの時間を使いました。生徒と密に接するのは、興味深いものでした。ただ…私の場合は共に生徒対応に臨むチームと意識を共有するのが難しく、フラストレーションがたまる日々でした。これは、この仕事の難しさだと思います。

現在は、教材研究に集中し、生徒との適度な距離を保ちながら自分の時間が確保できる非常勤職員に戻っています。
周囲からは、「もったいない」とも言われましたが…自分が健全な毎日を過ごすことを第一に選択をしました。紆余曲折ありましたが、授業をするのはとても楽しく、やりがいを感じます。自分自身が学ぶのが好きだから、それを多くの人に伝えたいという純粋な動機が長くこの仕事を続けさせてくれているのでしょう。また、授業をする上で、こちらに余裕があることが、授業の質に大きく影響します。生徒の何気ない一言を拾い、限られた時間で問や答えのやりとりをするのは職人技です。その質を保つための、小さな努力をこれからも続けていくつもりです。

自分の興味のままに

また、教員と並行して作家活動も細々と始めました。それについてはまた別のところで…。
自分の世界を更新し続けること、これが教員に求められることだと思っています。生徒に新鮮な知識と思いを伝え続けることが私の人生の目標の一つです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?