見出し画像

GLOBE・GLOVE(7)

7
 美緒は投げる球だけでなく、チームで一、二を争う駿足を持っていたので、一番バッターを任されていた。
「必ずインコース低めにストレートが三球来る。一、二の、三のタイミングで、目つぶってバット振り」
と言い残して、すたすたとまたネクストバッターズサークルに戻っていった。
 バッターボックスに入った僕は、川村の投球タイミングに合わせて目をつむり、美緒の言った通り一、二の三でバットを低めに振った。一球目、二球目はかすりもしなかったが、三球目、つむったまぶたの裏に、丸い瞳のきらめきが浮かんだ。その瞬間、バットにボコッとボールが当たった感触があり、僕はそのままバットを振り抜いた。
 ゴロ、ゴーである。僕は一塁へと走り、三塁からランナーがすべり込んできた。慌てたキャッチャーは、目の前に転がったボールを掴み損ねてお手玉し、そのままセーフ。なんとノーヒットで一点が入った。
 しかし、失点でギアを上げてきた川村のインハイの速球を、流石の美緒もバットに当てることはできず、三球三振。僕は一塁に残されたまま、スリーアウトとなった。
 六回の裏、向こうは一番からの好打順。ドラッグバントを決められ、ノーアウト一塁。そのままあっさり盗塁されてノーアウト二塁。次の打席に僕が送りバントの処理をミスってノーアウト一、三塁。
 疲れの出てきた美緒が三番バッターに今日初めての四球を出し、満塁で四番の川村を迎えた。それでも美緒は、相変わらずの仏頂面でマウンドに仁王立ちしていた。
 川村はゆっくりと右バッターボックスに入ってバットを構えた。
 美緒はありったけの力を込めて腕を振り、、フルカウントまで川村を追い込んだ。
 そして六球目、今日最高の速球がインローギリギリに決まった。
「やった!」
と思った瞬間、川村はそのボールをいとも簡単にすくい上げ、ボールはグラウンドの外に消えた。


続きはこちらです。

第一話はこちら。↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?