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第253号(2024年2月5日) 依然として砲弾不足に苦しむウクライナ軍


【NEW CLIPS】ウクライナの無人水上艇がロシアのミサイル艇を撃沈

 ウクライナ国防省情報総局(GUR)は、同国の無人水上艇3隻がロシア海軍黒海艦隊の1241型(タランタルIII型)ミサイル艇「イワノヴェツ」に突入する様子を公開した。イワノヴェツは搭載していたミサイルが誘爆し、撃沈された。

【今週のニュース】復活するウクライナの穀物輸出とIl-76撃墜の怪

ウクライナの穀物輸出が開戦前の水準まで回復…したものの

 1月30日、ウクライナ穀物協会は、2023年12月の穀物輸出量が598万トンとほぼ開戦前の水準を回復したことを明らかにした。

 ウクライナは世界有数の穀物輸出国として知られ、年間4000万トンほどのトウモロコシ、小麦、大麦を輸出してきた。その大部分はオデーサ周辺の三港から黒海経由で輸出されていたものの、ロシアの侵略によって輸出量は激減し、これを補うために開かれたポーランド、ハンガリー、スロバキア、ルーマニア、ブルガリア経由の輸出も2022年8月から2023年4月までの間に1130万トン強とやはり海運の減少を補うには至らなかった。この間の2022年7月、トルコと国連の仲介によって黒海経由の穀物輸出の安全を確保する、いわゆる「穀物合意」がロシアとウクライナの間で成立したものの、1年後の2023年7月にはロシアが離脱を表明したことで再び海運による輸出は激減した。

 そこでウクライナが頼ったのが、ロシア抜きで独自の海運ルートを開設するという方法であり、2023年9月から運用が始まった。『エコノミスト』が詳しくレポートしているところによると、これはロシアの潜水艦が近づけない浅い海域を選んで設定されたルートであるという。さらにウクライナはロシア黒海艦隊の水上艦艇を繰り返し攻撃してクリミア半島西部での活動を制約し、一応は穀物を積んだ貨物船が通航できる状況を作り出した。

 とはいえ、ロシアが本気で海上封鎖を行おうとするなら、クリミア半島から対艦ミサイルを発射するという方法は残っている。現状でこのような事態が生じていないのは第三国の商船を巻き込むことへの国際的非難を避けるためだと考えられ、ウクライナの穀物輸出は依然、薄氷を履むような危うさの上に成立していると言えよう。
 また、イエメンのフーシー派が商船攻撃を繰り返すようになったことで、紅海ルートは事実上の壊滅状態となっている。上掲のNHK記事が指摘する通り、ウクライナの穀物輸出は約4割が紅海経由であったから、この意味でも状況は予断を許さない。

ロシア空軍のIl-76輸送機撃墜はパトリオットによるもの ロシア捜査委員会

 1月24日、ロシア領ベルゴロド上空で、同国空軍所属のIl-76輸送機が撃墜されるという事件が発生した。1月14日にはアゾフ海上空でもA-50空中早期警戒管制機が撃墜されているほか、2023年末から1月にかけてはSu-34戦闘爆撃機が4機撃墜された。
 このうちのIl-76撃墜について、ロシア捜査委員会(SK)は、これが米国製のパトリオット地対空ミサイルによるものであったとの結論を公表した。回収された残骸や爆発物の分析によって判明したとしている。

 Il-76には捕虜交換のためにウクライナへ送られる途中だった捕虜65人が乗っていたとロシア側は主張しているものの、現時点では証拠となる遺体などが確認されていない。ただ、ロシアのプーチン大統領はこれがウクライナ側の意図的な攻撃であり、使用されたのは西側製防空システムであると早くから主張していた。今回のSK発表は、こうした既定路線を改めて確認したものと言える。

 また、プーチンは、「ウクライナ側はIl-76にウクライナ人捕虜が乗っていたことを知っていた」「これはキエフ政権(プーチンはウクライナ政府をこのようにしか呼ばない)の犯罪だ」とも主張しており、悪のウクライナと戦っているのだという従前からのナラティブを補強する材料としてこの件を用いようとしているようだ。さらに穿った見方をするなら、欧米製のミサイルがこの事態を引き起こしたのだと述べることで、武器援助を牽制する狙いもあるのかもしれない。
 

【インサイト】依然として砲弾不足に苦しむウクライナ軍

ポドリャク宇大統領府顧問が語るウクライナ軍の現状

 1月26日、ウクライナ大統領府のポドリャク顧問が、日本の『時事通信』の単独インタビューに応じました。この中でポドリャクは、ウクライナ軍の砲弾発射数が1日あたり2000-3000発まで低下しているとし、1日8000-1万2000発を撃ってくるロシア軍に対して圧倒的な劣勢に置かれていると認めています。

 ポドリャクの発言内容は別段驚くべきものではなく、ウメロウ国防相も「ウクライナ軍の砲弾発射数は1日2000発程度」「ロシア軍の3分の1以下」などと訴える内容の書簡をEUに向けて発出していたことを『ブルームバーグ』が報じていました。

 この結果、ウクライナ軍が作戦全体の大幅な縮小を余儀なくされていることは第251号で紹介した通りです。

続く北朝鮮からの砲弾供与

 ロシア軍がウクライナ軍に対して火力で優位に立てている理由の一つは戦時増産がある程度うまくいっていることですが、もう一つの理由として、北朝鮮からの供給も見逃せません。ウクライナ国営通信社『ウクルインフォルム』に対してユソフGUR報道官が述べている通り、北朝鮮からロシアへの砲弾供給は100万発以上にも及んでおり、国産砲弾とともに全戦線で幅広く使用されていると見られます。

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