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言葉の力、ファンタジーに込める想い

 久々の投稿が自作宣伝とは、まったくもって面白みがなくて申し訳ないのですが、この長編の中盤から連日投稿でテンションが上がりすぎ、最終話を書き上げて自分が一番喪失感を味わうという、自己作品愛絶賛放出中なので、その勢いで書かせていただきたいと思います。

「泉の乙女、青のロディーヌ」 全173話 お伽話ベースの異世界ファンタジー。

 連載を決めたのは一昨年の暮れ、始めたのは去年の夏ですが、実は作品に取り組んだのはもうずっと前。そこにはちょっとした葛藤がありました……
 
 子どもたちがキンダーガーテン(1年間の幼稚園の様なもの)に入って以来、日本に行くのは夏休みだけとなってしまい、すっかり他の季節のイベントは諦めていた私ですが、予想外のプレゼントをもらって早春に一人で帰国したのは5年前。

 奇しくもその時期が、毎年、春先に展示をされていた作家さんの個展にぴったりで、私は有頂天になりました。会場を訪れてその素晴らしさを直に体験し、持参した画集にサインをいただいて、感動もひとしお。

 色々話しもしてくださって、有意義な時間を過ごしていた中、童話の話題になって、なにが一番好きかと彼に尋ねられました。

「いばら姫ですね。でも、お話の内容がというのではなく、お城がいばらで包まれている絵(状況)がどうしようもなく好きなんです。それだけなんですけど、でもとっても……」

「ああ、いいね。そういうの、わかる」

 賛同してくれた彼に嬉しさが募りました。カラフルな色合いのお伽話だけではなく、時には無彩色の世界で綴られるお伽話を、大人になった私は求めていましたし、彼の描くモノクロの世界は、そんな美しさを漂わせていると常々思っていたからです。

 いつか彼がその筆で、大人のための童話を描いてくれたなら……という密かなる夢を抱いていましたが、さすがにそれは言い出せませんでした。けれど彼が「猫と鳥が出てくる童話、読んでみたいなあ。いばらの城の上に鳥が飛んでる絵とか、いいよね、きっと」と言ってくれたことで、私の夢はゆるゆると動き出し始めました。

 ニューヨークに帰った後、あれもこれと童話を紐解き、私は一つの物語に出会いました。グリム童話「The Seven Ravens (七羽のからす)」。呪いにかけられた兄たち救う妹のお話。

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 多くのバージョンがあり、鳥が7羽だったり3羽だったり、鍵として使うものも色々違ったりするのですが、私が読んだものは妹が自分の指を切って鍵とする内容でした。

 そのシーンがとても印象的で(基本、私は血が出るものは好きではないのですが)、痛々しいものといういうよりも、強烈に鮮やかでありながらも、ひどく静謐なものという、相対する二つが共存するものとして、私の心を捉えました。彼の作品の中に漂うものと同じ何かを勝手ながら感じてしまったのです。

 そのシーンだけでも伝えたいと思っていた時、ふと、それを始まりとする物語って、と思わぬことが胸をよぎりました。その瞬間、何かが発動してしまったのです。そう、私はその続きが書きたくてたまらない自分に気づきました。

 何度も何度も、エピソードを書き換え積み重ね、それは今まで書いたこともない長編へと変わっていきました。しかし、それでもそれはまだ書き殴りの草案。いつかきちんと形にしなければと思っていたのですが、後半の山場である水害のシーンが、私に二の足を踏ませました。

 その頃から、度重なる大雨の被害が、ニューヨークでも大きくニュースで取り上げられるようになったからです。意図して書いたものではなかったけれど、これを今出すことによって誰かを傷つけることになるのではと、私は悩みました。

 そんな気持ちをようやく切り替えることができたのは一昨年の暮れでした。この世界の中には様々な負の要素があって、それが大きな苦しみや悲しであることに変りはないけれど、捉え方一つできっと向かう先は違ってくるのだと、そう思えるようになりました。

 その準備中に今度はコロナ、COVID-19。これもまた物語の中に出てくる「疫病」と重なり、私はまたもや凹んでしまいました。けれどそれもやはり同じこと。やると決めたのですからやってみよう。そう思いを新たにしました。

 お話ですから、出てくる災害や事故は、現実よりもずっと綺麗事かもしれません。そんなにうまくいくわけないではないかと、思われる方もいるかもしれません。けれどこれはファンタジー。だからこそ、色々な場面で夢を見ても希望を持ってもいいのではないかと思ったのです。

 現実世界に「奇跡」が起こることは稀でしょう。けれど目に見える奇跡はそうであっても、心の中で芽生えるものの中には、多くの奇跡があるのではないかと思うのです。自分がそう信じれば、それが答えになっていく。

 理不尽なものも理解不能なものも、この世界にたくさんあるけれど、その中に一縷の希望を見出したいと私は願っています。信じるもの、向かっていきたいものが、たとえ傍目には小さく弱いものだとしても、自分で見つけ出し、納得して心を預けたものは自分を動かす大きな力、計り知れない可能性を秘めているのではないでしょうか。物語の中でもそれが大切なキーワードになりました。

 そして、それを応援しようと、美しい花たちを色たちを、物語の中にたくさん織り交ぜました。風の中でその香りを知ってほしい。光の中でその色に癒されてほしい。五感をフル活用して、喜びを取り入れてもらいたいと思ったのです。言葉の持つ力を私は信じたい。

 書き上げたばかりの12章、全173話はまだまだ荒削りですが、少しずつさらに手を入れて、自分らしい作品として、胸を張って出せるものにしたいと思います。そしていつか彼に、そんなこの物語の表紙を描いてもらえたらというのが、私の大いなる野望です(笑)。

 「小説家になろう」と「カクヨム」の二つのサイトでアップしています。私の言葉という幾千の糸たちが、どんなタペストリーを織り上げたのか、ぜひ、読んでみてください。

「泉の乙女、青のロディーヌ」カクヨム
https://kakuyomu.jp/works/1177354054938016997

* 信じられないほど素敵なレビューをいただきました。感動しました。書き手さんならではの言葉の素晴らしさ、喜びとともに大いに刺激を受けました。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054938016997/reviews/16816410413947224984



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