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エッセイ|第27話 文明の交差点で微笑む人たち

イスタンブールのモスクで友人と二人、天井から吊り下げられた照明に見惚れていたら声をかけられた。同じ歳ぐらいの綺麗な男の子。客引き? どんな手で来るかと身構えたら、拍子抜けする程の直球がやってきた。

さっき日本語喋ってたでしょ。僕、大学で日本語クラス取ってるんだ。僕の日本語わかる? 大丈夫? よかったらガイドするよ? 

ガイド? 何を言い出すかと呆気にとられる私たちに彼は続けた。実家は黒海の方で、今おじさんちに居候してて。あ、おじさんは絨毯売ってるんだ。結構観光客に人気だよ。見たかったら言って?

これは客引き? ナンパ? それとも語学向上を願う純粋なる魂?

ツッコミどころ満載のような気もしたが、特に予定もなかったし、地元っ子のガイドさんなんて悪くないかもと思った。さらに、話してみると素朴でいい子で。それはもう、見たこともない黒海近くの田舎町を勝手に想像してしまうくらいに。

結局、彼の大学付近を見学して、学生に人気の食堂の安い定食をランチにしたり、屋台のカートからおやつに青いアプリコットを買って食べ歩いたりと充実した半日を過ごした。そして最後におじさんの店に寄ったら、おじさんがこれまたいい人だった。

「ごめん。見るだけなんだ。お金ないから」と素直に言えば、そんなこと構わないと笑う。おかげで気楽に店内を見回れた。と素敵なものが。小さな敷物だ。でもそれだってそこそこのお値段。そこへおじさんが顔を出し「旅の思い出にするか? 半分に切ってやるぞ」と提案してくれた。加工代もいらないという。友人も気に入り、それなら……とお願いした。

出来上がりは最終日ということで私たちは店を後にしようとした。ところがだ。やれ日曜日にランチを食べにこいとか、甥っ子連れて明日は〇〇に行ってみろとか、もはや親戚のおじさん状態。私なんかじゃなくて「おお、ワンダフル!」と絨毯を前に喜んでいる太っ腹の観光客を相手にすればいいのにと苦笑が漏れる。

けれどおかげでなんとも楽しい滞在となった。シルクロードの時代から、この街はきっとこんな風に温かいんだろうなあ。港へ続く道、潮騒みたいな喧騒の中でそう思わずにはいられなかった。

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