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【散文】朧月、春の夜の宴〜シロクマ文芸部〜

朧月、春の夜の宴。
滴るのは月光か妄想か。

日本史には明るくないが、
行ってみたい時代はと問われたら、
平安か安土桃山。

密やかに薫る極上の香のような雅と
咲き誇り熟れて朽ちる手前のような雅と。

どちらにも色濃く漂う
デカダンスな、刹那的な空気。
優美で洗練された立ち振る舞いに、
垣間見える野性味が
なんとも好みだったりする。
永遠の春を謳歌しているようで、
そんなものはどこにもないのだと
憂う横顔も美しい時代。

朧月もきっとよく似合う。
特に春霞なら……平安京だろうか。
せっかくだから
好きな人に会いに行こう。
性癖全開でめくるめくお出かけ。

その一挙手一投足を、声色を、
感じてみたい歴史上の推しは多いけれど、
大体は部屋の隅から
そっと覗くくらいで事足りる。
けれど中には、
向き合って座り、
一緒に杯を傾けたい人がいる。

安倍晴明。
正確に言えば彼は推しではない。
その隣にいつも座っている
源博雅さまこそが本命だったりするが、
二人は一緒の時が「より」良い。

朧月夜の宴は雅を愛でる時間。
博雅さまの爪弾く琵琶の音を聴きながら
仰ぐ月は、味わう酒は、最高だろうと思う。
もちろんその中で眺める晴明さまも。

そして柔らかな月光下の貴公子たちを
存分に堪能したらこう切り出そう。
「この夜を忘れぬ印に」
自分の両手首を飾る白糸刺繍のカフスを外し、
晴明さまの左手に、博雅さまの右手に、
そっと結んで席を辞す。

朧月夜、静かに酒を嗜む男の
直衣のうしの袖から見える武骨な手首に
巻きつけられた白のレースとか、
新しい扉が開きそうでなんとも満足だ。

これでもかの妄想爆発。
今夜のNYは上弦の月(Waxing Crescent) 、
美味しい白の発泡酒を
よーく冷やして飲みたい気分です。
小牧さん、今週も楽しい時間を
ありがとうございました!

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