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【F】上沢直之、MLBへ

 ダルビッシュ有、大谷翔平、有原航平と、日ハムのエースは海を渡ることが一種の伝統となっている印象だ。今オフ、大谷渡米後の暗黒日ハムを支えてきた上沢も海を渡ることとなったので、彼への期待を書いていくこととしよう。

トルネードから続く「成功の条件」

 昭和39年、最初の東京五輪の年にMLBへと渡った村上雅則氏は分からないが、その約30年後にロサンゼルス・ドジャースに入団し「トルネード旋風」を起こした野茂英雄氏から続く日本人投手成功の条件は「フォークボールが武器の本格派」であることだ。これは今日活躍を続けている千賀滉大やダルビッシュ有にも当てはまることだ。なぜこのような現象が顕著かと言うと、本場の大リーガーが肘への負担などを考えて、人差し指と中指の間で挟むフォークボールを多投することを敬遠するので、打者もこの球を見慣れていないことが最大の理由なのではないかと言われている。

 この条件と上沢の投球スタイルを比較すると、彼がMLBで活躍する可能性は高いと感じている。直球は140キロ中盤を常時記録しており、フォークボールの質はもうここで文章にしなくても皆様お分かりだろう。体力もあるので、厳しいMLBの日程にも合わせられるのではないか。ただ課題は安定感のないこと。いい時はスイスイと9回まで投げられるのだが、「悪いなりに」という投球ができないのだ。今季も1度、ズルズルと9点を取られてしまうことがあった。ただ通年の成績では安定して投球回を投げられるので、投手のコマ不足に喘いでいる球団からは引く手数多なのではないかと感じる。

成績は平凡、よく考えると…

 SNSを見ると、「上沢は2桁も勝っておらず、この成績でMLBに通用するのか?」という批判や疑問の声が多い。しかしながら、それは全く問題ないのではないかと感じる。その理由はやはり、ここ数年でMLBとNPB両リーグ間の格差が著しく縮んでいるように見えるからだ。そう考えるふたつの理由がある。

 1つ目の理由は、日本人大リーガー、特に投手が成功する可能性が高まっているということである。かつては、NPBで15勝以上した選手がMLBでは鳴かず飛ばずということがよくあった。ソフトバンクからシカゴ・カブスに移籍した和田毅であったり、阪神から同じくCHCへと渡った藤川球児がその代表例だ。しかしながら、NPBのレベルが上がったここ数年で全くの鳴かず飛ばずという状態で帰ってきたのは有原航平くらいである。そんな彼はフォークボーラーというよりも、ツーシームやカットボールなどで投球を組み立てていくタイプ。はっきりと言うと、他の投手と差別化ができていなかったように見えた。しかしながら、上沢は彼とは違い正統派のフォークボーラーなので、差別化はバッチリである。

 2つ目の理由はMLBから来る外国人が驚くような活躍をすることがほとんど無くなってしまったことだ。もちろん、MLBで実績抜群の大選手が日本にやってきてからっきしダメになるということは昔からあった。楽天のユーキリスや、ソフトバンクのペニーがその最たる例だ。しかしながら、その分驚くような成績を残す外国人も多かったのだ。阪神のマートンは考えられないようなペースで安打を量産し、広島やソフトバンクをワタリドリのように飛び回ったサファテは考えられないような成功率でセーブを積み重ねた。こうした外国人は今、全く以ていないのだ。今季、旋風を起こした現役バリバリのサイ・ヤング賞投手であるバウアーも終わってみたら10勝止まり、規定投球回に届くことなかったのだ。結局は今永昇太、東克樹に次ぐローテーションの3番手に終わってしまった。

 この2点を考えると、NPBとMLBのレベルの差はほとんど無いようにも思えてしまう。「昔のMLBは凄かった」と懐古に浸りたい訳では無く、MLBの舞台が日本人選手にとって「挑戦」ではなく単なる「移籍」となる時代がすぐそこまで来ているということだ。上沢という人材が海を渡ってしまうことは非常に惜しいが、彼がMLBで活躍すると更に日本人投手の価値が上がることとなるのだ。北の大地で培った体力を武器に、素晴らしい成績を残すことは容易に想像できる。

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