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【ストロベリー狂詩曲/修正版】07.無調性の微熱⑩

棘がある質問に先生は

「副作用が辛いだけだよ」

と、包み込むように柔らかく答えた。
鎮痛剤で有名なラファリンの半分が、優しさで出来ているのと同じ。先生の言葉は薬と化し、半分は苦く、半分はバランスを崩した心身に溶けて広がる。

「水無月さん。小さい頃、体調が悪いときに親御さんが手を握ってくれたことは?」

記憶を辿ってみる。


「あります」

「悪い記憶ばかりじゃくて良かったね」


以前、親のことを言わないでと突っ撥ねたけれど、今日は体調が悪いのもあってか、反論せず受け入れることができた。親を許すのは難しい状況でも、記憶を憎む必要はないのだと教えてくれたような気がする。

「?」

先生が無言で右手を差し出してきた。握れと言いたいらしい。

「子どもじゃありません」

「甘えたくなったら言っていいよ」

「甘えません」

「つれないね」

「擽る危険性があります」

私は頑なに拒み、鼻まで掛布団を覆う。
桜馬先生は笑ったまま立ち上がり、部屋の外へ行こうとドアノブを握ると、顔だけで振り向いた。


「僕は指導に行く。体調が悪化したら言うんだよ。おやすみ」


ドアがぱたんと閉まった後、私は体を丸めて布団の中で蹲る。
森林系のフレッシュさとラベンダーのような良い匂い。庭園に居るみたいだ。


副作用の不安を桜馬先生は良い兆候に捉えていた。
人の優しさに甘えて辛い気持ちを打ち明けたら、重い気持ちが楽になれるのだとしたら。


逃げ場所を作って貰えるなら、話してみたい。

◆つづく◆

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