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日下野由季『句集 馥郁』(ふらんす堂・平成30年)

みなさま、こんにちは。
今日は『句集 馥郁』という本を見ていきましょう。

本書は日下野由季ひがの ゆきさんの第二句集で、第42回俳人協会新人賞を受賞されました。俳誌「海」の編集長をなさっています。

俳人の大木あまりさんが栞文を寄せています。大木さんの「どのページをめくっても、透明な句に出会うことができる」という一節が本書を象徴していると思います。とても素敵な句集です。こういう本はめったに出会うことができないので貴重です。

金木犀おのが香りの中に散る

『句集 馥郁』p11

外に出て金木犀のかおりに出会うと、秋の深まりを実感します。
春の沈丁花とともにかおりの良い花の代表ですね。
掲出句は、散文にしてしまうとなんでもないような情景なのですが、五七五という器におさまると途端に詩情を帯びるのが不思議です。

花野ゆく会ひたき人のあるごとく

『句集 馥郁』p17

『みだれ髪』所収の与謝野晶子が終生最も愛した歌のひとつ
「なにとなく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜ゆふづくよかな」が自然と連想されます。「ごとく」という断定を避ける表現が柔らかくてやさしいですね。さりげない措辞に漂う余情を味わいたいと思います。

うすものを水のごとくにまとひけり

『句集 馥郁』p25

俳句に時折出てくるうすものとは、絹織物の絽・紗、麻織物など、夏の和装に用いる極めて薄い織物のこと。秋櫻子の『俳句小歳時記』によると、「主として婦人、しかも上品な人にふさわしい」という記述があります。やや主観の入った注釈ですが、それゆえ実感が伴っており納得のいくものです。
「水のごとくに」という比喩が秀逸。透明度の高い句です。

動かして柚子湯の香りあらたまる

『句集 馥郁』p43

湯舟にぷかぷか浮かぶ柚子。かおりを感じなくなってきたら、そっと手に取ってみる。湯面ゆおもてが動いて、ふわっとかおる。日下野さんはそのさまを「あらたまる」と表現されました。何気ない日常のひとこまを丁寧にすくった句で、しみじみと共感を覚えます。

星涼しいのち宿るをまだ告げず
さやけしや我に胎芽たいがといふ芽生え
身のうちに心音ふたつ冬木の芽

『句集 馥郁』p164、p166

あとがきに「生涯の伴侶と出会い、小さないのちを授かりました」とあります。調べてみると、胎芽たいがとは、妊娠8週頃までの胎嚢のなかにいる赤ちゃんのことを指すそうです。そうか、ひとのいのちも芽吹くというのか。
日下野さんの新しい生活が始まっていきます。第三句集が発刊されるのを楽しみにしております。


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