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父と私と「4万円」

飛行機に乗るというタイミングになると父のことを思い出す。

それは、私が身なりにほとんど構わなかった頃。

いや、今もそれほど構うわけではないのだが、今よりももっと身なりに構わなかった時期がある。

当時は、十分にお金がないということもあり、身なりに構うコト自体に抵抗があった。着ているものが清潔でさえあればよいという考えだったので、どこへいくのも同じ服装。飛行機に乗るときも、近所に買い物へいくときも、同じ服装だった。

あるとき、実家に帰ったときのこと。

いつもは、羽田へと向かうために家を出るタイミングに父は在宅でなかったのだが、そのときは、たまたま父が家に居た。

そして、私の服装を見て

「え?その格好で飛行機に乗るのか?」

と目を白黒させ、驚いた様子。

おもむろに、財布から4万円を取り出して、

「これで服を買いなさい!」

というので、

「え?服なんかいらないし。別にこれでいいんだよ。」

と私がいうと、

「じゃぁ、服じゃなくてもいいから、本でもなんでもいいから、これとっときなさい。」

と4万円を手渡してくれた。

今思うと「4万円」という中途半端な数字が笑いを誘う。なぜ「4万円」だったのだろうか。

父の財布に幾ら入っていたのかは知らない。

あの時の父の財布の中にあった金額から妥当な数字が4万円だったのかもしれないし、成人した娘に渡すとして、娘の自尊心を傷つけない「最適な数字」と思ったのかもしれない。

その真意は永遠にわからないのだが。

ただ、あの時、

「本でもなんでもいいから」

と付け加えてくれた父の言葉が私にとって永遠の宝物であることは間違いない。

私のことをちゃんと知っていてくれるんだな......。

そう思えたことが嬉しかった。そして、そんな思い出を私に与えてくれた父がとても大好きだ。

懐かしい思いを胸に、明日また飛行機に乗る。

いつも通りの普段着で。