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『ある日、猫がオッチャンになった』〜ショートショート〜

昼下がりの風が
うたた寝にはもってこいの日だった

窓からのやわらかな光がす〜っと
瞼の辺りに差し込むのを感じながら

にゃむは、大好きなリビングで
ゴロンとなり夢と現(うつつ)の境を
行ったり来たりしていた

愛猫コタちゃんが
お腹の脂肪が垂れ下がったカラダを運び
のそのそとやってきた気配を感じた

白い毛に
何の均一性もないアンバランスな模様の
雉色の毛色の配色がぼんやり見える

やはりコタちゃんのよう

そして

コタちゃんと光が交差した瞬間に瞬きした

コタちゃんのシルエットが
縦に大きく伸びた気がした

あれ

コタちゃんが

コタ…ちゃんが


オッチャンになってしまった!!


中年の彫りの深いイランの国のオッチャンのような顔になっていた
いつの間にか飛び起きていた

「えっ、コタちゃん?」

《よぉー寝とったやん、寝すぎちゃうか》
左の口角を微かにあげて喋った

「し、喋った!コタちゃんって喋れたん?」
「その状態、イラン人ちがうの?今、日本語やん、しかも関西弁!」
「え、いつから、いつから〜?」
興奮が抑えきれず、矢継ぎ早に質問を浴びせた


これってにゃむに猫語が人間語に聞こえる能力が
急にやってきたんか?

それともコタちゃんは
ほんまは人間やけど猫になりすましてたん?
それを今日は、いよいよ発表する日やったとか?
寝起きの頭の中は、高速回転していた

無精髭を中途半端に剃り残した口を動かして
コタちゃんが、シャガレた声で喋ってる

頭が何から整理すればいいのか分からず混乱しそうだった

「え、ちょっと待って、コタちゃん」
「また猫に戻ったらこのイランの時の顔を忘れてまうから、ちょっと紙に描いていい?」

というと、コタちゃんは右手をシュシュッと斜めにやり、早よやれや〜のジェスチャーをした

コタちゃんを待たせないように紙とペンを急いでさがした

さがしながら
ポケットに手を入れると手に紙が当たった
白いクシャっとなった紙切れが入っていた
紙切れを見ると何故か既にイラン人のコタちゃんの顔が描かれていた




「あ…これ…」
にゃむは、自分がこの絵を描いたということを思い出した

「え?なんで私はこの絵を描いたんだっけ?実は、何回も会ってたん?」
そう言いながらにゃむは、その紙の絵に伸びかけた髭とシワを少し描き足した

イランのオッチャン風になったコタちゃんは、
少し仰け反りながら気にせず喋り始めた
コタちゃんが動いた瞬間、ふわっと煙草の煙の匂いもした

《ごちゃごちゃ、ええから、お前な、前から言おうと言おうと思っててん、その顎のライン…》
コタちゃんは、前のめりになりにゃむの方を指差した

「え?顎のライン?」
「し、しかも私に〝お前〟ってゆーとるやん。そんな関係やったん?私達。若干、傷つくんやけどその呼び方」
と言ってみるが、そんなことはコタちゃんにはどうでも良さそうだった

《あのな、お前の顎のラインな、あかんわ〜、全然イケてないわ〜、お前、イワシやん?》

えっ

えっ

今、何て言った?


イワシ〜〜?

「え??コタちゃん、今、私のことイワシって言ったん?あの魚の?」

《逆に魚以外になんかあるんか?》と皮肉っぽく笑った

《もうちょっとイワシらしい顎のラインにならんとイワシとしてはまだまだ半人前やでーって、言ったらなあかんってずっと思っててん》

「コタちゃん、私、人間よー。知らんかったん?
私のことずーっとイワシやと思ってたん?!しかもイワシの顎のラインとか知らんしなー」

私、人間よぉ

と、机に寄りかかってるコタちゃんに詰め寄ろうとした瞬間、スマホのアラームがけたたましく鳴った

私は、実家のリビングに居たはずが
誰も居ない東京の部屋にアホみたいに
口をあけて寝ていた
口の中がカラッカラになっていた

そして右手で
顎のラインを触ってみた

人間やん、私

誰がイワシやねんっ


〜 完 〜

……✳︎……✳︎


夢だとわかりホッとしたら笑えてきて
続きが見たかったなぁ。
因みに
私の夢や独り言は何故か関西弁が多い。
大好きだからかなぁ(笑)


今度、帰省した時に私はイワシ違うでぇーって
言っとかな(笑)

【登場猫物】
実家のコタちゃん(仮名):
7歳オス猫11キロ。
お食事をくれるじぃちゃんには甘えた声を出しお食事追加を要求(じぃちゃんは耳が遠くて聴こえてないけど。)
いつの頃からか太り過ぎてジャンプができない。猫ドアからギリギリ出れるサイズ。
他の子が残しているお食事も綺麗に食べてあげる優しさ。
いつも黙っていて…と言うか寝ていることが殆どだから何を考えてるのかなぁって気になる子。
喉が渇くとこちらを見上げ黙って洗面所に連れて行かれ人間はひざまずきコタちゃんは椅子に乗りコップに新しい水が注がれるのを待つ。
こんなコタちゃんだけどこの界隈のボスらしい。
機敏さはない為、大きさだけでのし上がったと思われるけど、パトロールは2日に1回くらい(少なっ)してる。


高熱でやられていた時の夢を誰かに聞いて欲しくて(笑)







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