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湯屋に詠う-RAKU SPA1010 神田-

職場が在宅勤務に切り替わってから、早いもので一年近くが経つ。必要があるのかわからない数多の会議は大幅に減るのではと期待していたが、実際にはオンライン会議ツールの存在により期待したほどではなかった。

この一年間、オフィスに出勤していない者も少なくないが、私は月に数度、取引先への訪問やオフィスでの事務手続きの関係上、外出することがある。これをどう捉えるかは人それぞれだろうが、私は元々出勤という行動自体が好きだったのだろう。良い気分転換になっている。

取引先との打ち合わせを終え、特に急ぎの案件がないことをメールとグループウェアで確認し、アカウントステータスを離席中に切り替える。直属の部下にはこのまま上がるが、何かあれば連絡してくれと伝えた。結局、スタンバイ状態を除いて本当に上がっている時間なんて限られていることが数年続いている。

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RAKU SPA 1010 神田

取引先へのアポイントが通った時点で、今日はRAKU SPAに訪れることを決めていた。ここは以前、江戸遊があったが数年前にRAKU SPAへ変わった。浴場などそれとなく面影が残っていないわけでもないが、休憩室などはすっかり別の世界で、もう数年もしたら・・・いやひょっとしたら既に自分がいることが浮いてるんじゃないかと不安を覚えるほど今時な空間が出来ている。

ここは公衆浴場と同様、470円で入浴だけを楽しむことも出来るし、追加料金に応じてサウナや休憩室を使うことが出来る。

受付で3時間のサウナコースを選択した。充実したリラクゼーションルームを利用するにはRAKU SPAコースを選択する必要があるが、もう夕方だ。さくっと入浴を楽しんだら、どこかで食事をして帰ろう。こういう施設が秋葉原、神保町、神田周辺から直ぐにアクセスできることがありがたい。

神田のRAKU SPAは地下一階から地上4階までの大きな建物だが、浴場自体はそこまで大きくはない。清潔感ある施設内だが土日ともなるとロッカーもなかなか激しい人の出入りが発生する。場所柄か施設柄か比較的若者が多く、かと言ってそこまでサウナ室が混んでいるということもあまりない。立派な建物で明るく華やかではあるが浴場はいたって銭湯だ。

その浴場には内湯が二つ、炭酸湯と日替わり、それに水風呂とサウナ。サウナ室はTVもある二段のひな壇。白いサウナマットが室内を更に明るくしている。

室温は100度に満たないが湿度が高めでしっかり熱い。浴場にいる人の数の割にはサウナ室への出入りは少ない。

目を瞑り10分ちょっと失礼することにする。

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友希に詠う

かの有名な”かんだやぶそば”はRAKU SPAから徒歩数分のところにあり、以前友希と訪れた。火災による店舗焼失からの改築後だったが、以前テレビで見ていた独特の”通し言葉”を聞くことも出来て、老舗蕎麦屋で大人の階段をまた一歩登った気がしたものだ。

友希とは20年近い仲で、途中連絡を取らない時期が何度もあったが、多いときは毎月のように何処かへ出かけていた。若いころは周囲からはなぜ付き合わないのかと聞かれることも少なくはなかったが、女性の言葉を借りれば“ときめき”を感じることがなかったのだ。アパレル店員を経て、現在はOL兼タヒチアンダンスのインストラクターとして暮らす友希の身体は、出会った頃の華奢なそれに程よい筋肉と脂肪がつき、30代半ばにしてとても魅力的なものになってきた。実際に抱いたことはないので詳しくは表現できないが歳を重ね魅力が増しているのは確かだ。

20年近い月日のなかでお互い意識した日々がなかったわけではないのだろうが、恋人でもなければ親友でもない、ただ友人よりは深い。いや結局、友人か。今思えばただの友人だったのかもしれない。

友希との連絡が途絶えたのは二年ほど前になる。「月島でもんじゃが食べたい」と言っていた彼女に「ホッピー通りに行きたいから浅草にしよう」と返したのが最後だ。

月島ほどではないが浅草ならもんじゃ屋も多くあるし、その後にホッピー通りへ行けばお互いの希望を満たせる。深い意味もなくいつも通り返信したのだが、既読になったメッセージに返信が来ることはなかった。

「どうした?元気か?」と聞くことも考えたが、SNSがオンラインになっているところをみると無事のようだし、直感的に“男ができたな”と感じたので連絡はしなかった。飼い犬が最後の自分を見せないために家出をするなんてことを昔聞いたことがあるが、彼女も”好きな人ができたからもう会わない”とは言わずに静かに去ることを選んだのだろうか。そして20年近い付き合いの中で、それに対して私が追いかけないこともわかっていて。まぁ二人の場合、どちらかと言えば飼われていたのは私だった気がするが。

そういえば数寄屋橋近くのホテルにあるテラスで”明日、寿命を迎えるならどうするか”と語り合ったことがあった。「特に後ろ髪を引かれるようなこともないので家族と仲の良い友人に挨拶するくらいだ」と言った私に友希は随分驚いていた。「結婚もしたいしハワイにも住みたい!」と目を輝かせていた。今、彼女が望んでいたものが少しずつでも叶えられるような生活をしているなら何よりだ。

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ここは浴場内での休憩スペースが少ないが、大人が3人も入るとギリギリな水風呂を経て、柱の下にあるスペースで休憩場所を何とか確保できた。

少し神保町で本でも眺めて、飯でも食うか。

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