【500文字小説】卒業

「ついに卒業式だな。引っ越しの準備は済んだ?」
ユウコはあの日から無口になった。俺の言葉には返事を返さず、こっちを見て微笑むだけ。
「今日で離ればなれなんて信じられないな」
去年の夏休み、俺は海を見に行こうと早朝から自転車を走らせた。ユウコは俺の後ろで鼻歌を歌っていた。早朝だったんだ。運転手がちょうど、眠くなるくらいの。
「東京って行ったことないなあ」
ユウコの向こうで親友のカトウが心配そうにこちらを眺める。喋らないユウコに話しかける俺が滑稽に見えているんだろう。
「なあ、俺さ」
ガラガラとドアが開き、担任の声を合図にクラスメイトが整列を始める。
「またあとで」

卒業式が終わると、ユウコはどこかすっきりとした表情で座っていた。
「なあユウコ。俺さ、言ってなかったけど、お前が好きなんだ。だから俺も東京に行くよ。いつになるかわからない。でも絶対、また会おう」
涙と嗚咽で途切れながら俺が最後まで言い切ると、ユウコはしっかりと俺に目線を合わせて微笑んでくれた。

「ユウコ、なに一人で笑ってるんだよ」
「いや…」
ユウコは誰も座っていない隣の席を眺めると、涙を拭ってからまた微笑んだ。
「カケルがそこに、いた気がして」

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