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原宿を歩いていたらこうなった。

原宿を歩いていると小雨が降ってきた。
「この雨、強くなるな。ちょっとコンビニで買ってくるわ」
そう言ったトオルが走り出した。
私がコンビニの前で待っていると、黒いキャップを被って出てきた。
「え? 傘は?」
「キャップを買った。頭濡れないだろ」
トオルはこんな奴。私の男友達。
「どんな男がタイプなの? 見た目とか」
突拍子もない質問。トオルはこんな奴。
「髭が生えている人。でもね、髭がある男とキスはしたくない。チクチクして痛い。でも髭が生えてる人がいい」
私はこんな奴。
「ねぇ傘買ってきていい?」
「だったらおれ買ってくるよ」
待っていると、同じ黒いキャップを買って出てきた。トオルはこんな奴。
「傘じゃないんだ。ありがとう。被るね」
私はこんな奴。
しばらく歩いていると、男女に話し掛けられた。
「すみません。街角スナップにご協力を。カップルのおそろコーデということで」
溢れる含み笑いを抑えながら、無表情で申し入れを許諾する。
簡単な撮影が終わるとプロフィール用に名前などを聞かれた。
「じゃ最後に、お付き合いしてどれくらいですか?」
「1日です」
トオルがふざける。トオルはこんな奴。
「そうだよな?」
「え?」
溢れる笑顔を抑えながら、困った顔を繕う。私はこんな奴。
「今からお付き合いしてくれよ」
トオルはこんな奴。
「はーい」
呑気な返事。でも胸の鼓動で声は震えそうになっている。私はこんな奴。
「おめでとうございます」
男女に見送られ、歩き出す。
「雨、止んだな。傘買わなくて正解だった」
「いや、キャップ買ってんじゃん」
「キャップじゃなくて、傘買ってたら声掛けられてなかった。手も繋げなかった」
ぎこちなく恋人繋ぎをする。
トオルの中指と薬指の間に、私の指が二本挟まれてる。でもそのままにする。
「今後、チクチクさせちゃうけど、ごめんな」
「はーい」
私たちはこんな奴。